相互訓練
私たちが使い魔を創りだしてから半年。
魔術の基礎訓練、体力作り、使い魔との協調訓練などをおこなってきた。
だが、私の使い魔が常に一緒にいるとは限らないということらしく、別の人の使い魔と行動するという訓練も行われる。
大学校では相互訓練といわれるものだ。
その訓練を通して、何があっても共同して対処したり、単独で行動を起こすということを身につけさせるらしい。
今回の相互訓練の場所は、直径500mぐらいのグラウンドだった。
だが、教師が魔法を使い、地平線の彼方まで広がっている大草原と化している。
そんな中で私が今回一緒になったのは、ジェミニだった。
「よろしくね」
「はい、よろしくお願いします」
兄妹そろって、かなりかわいい。
私の使い魔であるスピカは、グールドとコンビを組むことになった。
毎回くじ引きをして決めるため、同じ人と何回も組むことになったり、逆にまったく組まなかったりすることもたまにあった。
教師が、それぞれ組んだことを確認してから、伝えた。
「今回は、この魔法空間の中にいる、ティクシーを生きたまま捕獲してもらいたい。制限時間は1時間。それでは、始め!」
笛を吹くと、同時に生徒は含めて走り出す。
まだ瞬間移動法は習っていないのだ。
それでも速歩法を使うと、5kmぐらいだったら3分ぐらいで行くことができる。
だが、賢者がいるところは別だった。
「"eodem tempore"」
言うと同時に、どこかへ消えた。
「そっか、あいつは賢者だったな…」
何かをメモすると、何事もなかったかのように、空中から椅子を取り出し座った。
私たちはそんなこと出来ないため、走り続けた。
「ねえ、このあたりにしない」
「分かった」
私が言うと、教師から5kmぐらい離れたところに罠を作ることにした。
ティクシーは、大人の男性の握りこぶしより一回り大きいぐらいの伝説上の生き物で、背中は蝶のような羽があり、遠くから見ると宝石のようにきらきらと輝いているといわれている。
一番近いのはスピカだろうが、彼女は実在する。
伝説上といっても、弱点とかを事細かに書いた書物もあり、それをもとにして罠などを作った。
ティクシーの好物であるゆず団子を串にさし、それを正三角形に並べた石の重心に刺す。
三角形を取り囲むように、円形に石を隙間なく置き、あとは私たちの姿が見えないように隠れる。
ジェミニは石の一つに化けることにしたが、私にはそんなことはできないため、少し離れたところに移った。
うつ伏せになると、ちょうど隠れるように草の高さが合わされているから、隠れるのは簡単だった。
「あとは、相手が来るのを待つばかりね…」
私は、ふせながらつぶやいた。
空をかける風音で私は彼らが来たことを察した。
そっと顔を上げると、本の挿絵で見たままのティクシーが飛んでいる。
風になびくたんぽぽの綿毛のような感じで飛んでいる下に、ジェミニの姿が見えた。
手に網をもって、すぐに捕まえられるように風下へ動く。
ばれないように慎重に動き、一瞬で網を下から上へ動かし、網の口を手で押さえた。
「とったよー」
「見えてるよ」
ポルックスが嬉しそうに私に見せてくる。
私が見たときには、網の中には1つの黄色いビー玉が入っているだけだった。
「これを教師に見せればいいんだね」
カストルが私に聞いてくる。
「1つだけでいいのかな」
「いいんじゃない?」
ポルックスが小首をかしげていったが、私はいくつ取って来いとは言われてないため、別に構わないだろうと思った。
教師が待っているところへ戻ると、各自1つずつビー玉を持っていた。
「よし、これで最後はあいつらだな…」
教師がバインダーに挟んでいる紙に私たちの名前を書き加える。
「で、誰かクロノスとデネボラの居場所を知ってる者は?」
「ここに」
ライオンと彼にまたがっているクロの姿が、教師の後ろに現れた。
「よっと、お待たせしました」
降りてから、教師にビー玉を見せる。
「それと、こんなものを見つけましたが」
ビー玉の中から、赤色のものを見せる。
それを見た教師が言った。
「それは良い腕前をしてるな。だが、賢者の力を使うのは、校規に反するということを知っているか」
「えっと…」
がっしりと二人の頭を押さえると、教師は有無を言わせない態度で伝えた。
「知らなかったとは言わせない。お前達、敷地の境界線にあるレンガの数を数えて来い。今から2時間以内だ。他の者たちは、休憩だ」
そう言って、教師とともにどこかへきえてしまった。
いつまでも、こんな楽しい時が続けばいいと、思っていた。