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使い魔

魔法大学校の寮は、敷地内に設置されていて、直接教室へ行き来ができるようになっていた。

それどころか、敷地の仲は小さな町のような状況になっているため、外へ出る必要がないほどだった。

大学校内の行動は班別が基本とされ、男女混合の7人編成となっている。

その7人で、成績、掃除、授業などが決定され、その能力は平均的になるように設定されている。

そのため、班の中で、極端に魔法が上手な人と、対照的に下手な人が交じることになった。

第321班も、そんな極端な例が入ってしまった班の一つだ。


「やばいって、入学式は根性で起きたけど、その翌日から即遅刻っていうのはさすがに避けなきゃ!」

パンをくわえながら、教室めがけ走っているのはアスール・スペシアだ。

321班の女子の一人で、寮から全力疾走をして、どうにか間に合わせようとしていた。



チャイムが鳴る5秒前、激しく酸素を求めている体を無理に座らせ、落ち着かせようとしていた。

席順は昨日と同じところで、7人掛けの長机の一番左端、窓側になっていた。

「遅いって、何してたの」

「ごめん、寝坊しちゃって」

言った途端にチャイムが鳴り、教師がスーツ姿で入ってくる。

「では、授業を始める。最初の授業は、常に同じ。使い魔を創造してもらう」

教室中を見回して、だれも遅れていないことを確認してから、教室の一番前にある黒板を使って、図式を書きだした。

「使い魔は、それぞれの人の気持ちと精神力と魔力、それに想像力によって変わってくる。基本的に各々の考えた姿が使い魔としてあらわれるが、最初に強く思い描いたものが、生涯使い魔の格好になる。まあ、多少なら後々でも変えることができるが、基本的には不可能だと考えろ」

教師は、名前も言わずにひたすら話し続けた。

それを要約すれば、想像力によって創ることができる使い魔は、最初は何も知らない状態であることが通常であるし、1人しか産まれることがないというが、ごく稀に、賢者といわれるタイプの知識をもった使い魔や、2人同時に産まれることがあるということらしい。

だが、そんな使い魔を産んだ生徒はこの10年間1人も出てきていないという話だった。

ひたすらそんな話を半時間ほど続けられた後、ようやく実際に創る作業へ入った。


「一人一人、精神を集中して…自分が生涯一緒にいたいと思う姿を思い浮かべるんだ…」

教師の声が、目をつむっている生徒の心の底へ語りかけるように聞こえてくる。

数秒、胸が圧迫されるような強い締め付けを感じ、一瞬で解放された。

「胸に強い締め付けが無くなったものから目を開けるように」

ゆっくりと私が目を開けると、机の上に30cmくらいの女性の妖精が座っていた。

「こ、こんにちは」

私は彼女に話しかけた。

「こんにちは。あなたは、アスール・スペシアよね」

「そ、そうだよ」

「私はあなたの使い魔よ。名前を付けてくれると嬉しいんだけどな」

「じゃあ、スピカで」

「スピカ、いい名前ね!」

彼女はそういって、ニカッと笑った。


「出てきたなら、名前を付けて、一緒に俺のところに来い。国に提出するための名簿を作るからな」

教師が言うと、次々と報告をする。

同じ班の中に、双子の使い魔と、賢者が現れたと聞かされたのは、私が並んでいるすぐ横だった。

「…二人合わせてジェミニだ。で、兄の方がカストルで、妹の方がポルックスだ」

私が並んでいるところから分かるのは、私の腰よりすこし小さめの子供が二人、髪の毛が右分けと左分けという差ぐらいしかなく、それ以外の見た目はそっくりだった。

「ねえ、横にいる怪物が、こっちを見てくるよ…」

ポルックスがカストルの陰に隠れるようにして、その怪物から逃れようとした。

「怪物とは心外だ。我は獅子、貴様らなど丸のみにしてくれy」

「うるせーよ、ちったぁ黙れ」

口調は男だが、立派な女性であるカワスミ・スキャットが、彼女の使い魔であるライオンに怒鳴っていた。

「申し訳ありません。しかし…」

「あたしが黙れっつたら黙るんだよ」

「はい」

やすやすとライオンを黙らせると、その顔をじっと見つめた。

「そうだな、デネボラだな。うん、決定な」

「それは我の名前でしょうか」

「そう、デネボラだ。それに我っつー一人称はやめろ」

しし座にある一等星から名前を取ることは、そのまますぎる気がしたが、それは、二人の間の問題だから、私は何も言わなかった。

「名前を決めたなら、さっさと並べ」

教師に注意を受け、彼女たちも私が並んでいる列の一番後ろに並んだ。


授業が終わるまでに、全員が使い魔を出せるようになり、最後に注意を受けた。

「彼らは、君たちと同じ人間だと思え。ともに育ち、ともに学び、ともに暮らす。そんな存在だ。では、解散」

すぐに教師がいなくなる。

生徒は、その後にごそごそと次の授業の準備のために、15分間ある休憩時間の間に部屋を移動する。

「そういえば、みんなの使い魔って、どんな名前にしたの?」

私が、班員に聞いた。

最初に答えたのは、三輪彩夏(さんわさやか)だった。

「使い魔っていうよりか、彼氏っていう感じかな。アルクトゥルスっていう名前よ」

「どうぞ、よろしく」

20代前半の清々しい感じの青年だった。

「こちらこそ」

「それで、スピーが背負っているクマは…」

スピーは、スピリング・アルマゲストのあだ名で、彼が背負っているのは、もこもこふわふわの毛皮をもっている小熊だった。

「こいつは、ポラリス。見た目通りの小熊だよ。ただ、疲れて眠ってるみたいなんだ」

「かわいーなー」

とろけてしまいそうになっているカワスミを置いて、どこかの会社の重役に見える人を見つけた。

「えっと、ところでどちらさまでしょうか」

「グールド・ハイスの使い魔で、ケフェウスです。お見知りおきを」

「これから、よろしくお願いします」

一礼する姿は、たしかに重役だった。

「で、彼女は…」

私がポルックス・カストールに聞くと、女性の肩に手を回しながら話した。

「俺の彼女だ…ゴメン、嘘。俺の使い魔のアンタレスだ」

最初の言葉で白けたのを見ると、すぐに謝って続けた。

「アンタレスです。よろしくです」

班員全員がどうにか使い魔を手に入れ、さらに聞くと、賢者といわれるほどの知識をもった使い魔もいた。

「それは、我のことだな」

「だから、我ってやめろって」

キャットが相変わらず突っ込んでいる。

「賢者といわれるからには、いろいろなことを知ってるんだろうね」

「いかにも。古今東西、さまざまなことを知っておる。だが、それを教えるためには、主の許可が必要となる」

「べっつに、私は構わないわよ。私が背中に乗って眠りながら周り威嚇できる生き物って、最高じゃない」

すごく楽しそうに、彼女は話してくる。

私たちは、笑うしかなかった。

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