源泉封印
フーエンズが私たちの計画に気付いたのは、配置についた時だった。
「お前ら、何をする気だ」
「いくぞ!」
お父さんが、その場にいる全員に聞こえる声で叫ぶ。
手に持っているのは、野球ボールぐらいの大きさで、堅そうなボールだ。
あれを、五芒星を描くように渡していくらしい。
私は、本当ならお父さんのところにいるべきなんだろうけど、代わりに第2階層からきた霧島香野子のところにいた。
「大丈夫?」
ボールを投げようとしているお父さんを固めで見ながら、私は香野子に聞く。
その顔は、ほかにする人がいないから仕方なしというあきらめの表情にも見えた。
フーエンズはボールを投げる直前のお父さんのほうへ向かおうとしたが、それを刃を交えているミヒャエルが遮る。
「お前の相手は俺だ!まだ、俺の質問にも答えていないぞ!貴様の真名を教えろ!」
「あんたに教えるほど、わしは馬鹿じゃない」
真名を教えるということは、その人のすべてを委ねるということだと、学校で教えてもらった。
だから、真名は隠される。誰にも、本人にもばれないように。
「大丈夫、私がしないと」
ボールがこっちへ向かって投げられると同時に、私は香野子がそういったのを聞いた。
実際には、ものすごい速さで来ているはずなのに、ゆっくりに感じる。
ボールは香野子の手に収まると、すぐに香野子は投げ返す。
向かうのは、第3階層の面々へ。
その階層の出身者ならだれが受け取ってもいい。誰が投げ返してもいい。
だから、彼らは女子が受け取り男子が第4階層へ向けて投げ返す。
だが、第4階層の出身者は、ミヒャエルだけ。
「ミヒャエル!」
叫び、戦っている彼の方向へ一気に投げる。
ボールは、魔力が激しく渦巻いている中へ吸い込まれるように消えた。
その中では、二人が戦っている。
しかしその様子は、霧状になった魔力に遮られていて見ることができない。
不意に、ボールが霧を突破してきた。
あのボールが第5階層の人たちに向けて、正確に投げ返される。
「よっしゃ」
受け取り、すぐにお父さんへ投げ返す。
お父さんが、受け取ると同時に何か言った。
とたんに、私の体の下にある泉が、沸騰し始めた。