第4層目
一段一段降りていくと、徐々に暗くなり、第4層目についた時には前に立っているはずの人も見えないほど暗かった。
「真っ暗…」
「そうね」
私はスピカに話しかける。
「離れるんじゃないよ」
スピカの体は、アルゴの毛の中にうもれていた。
真っ暗の時には、こうやって密着させている方が、安心出来た。
「待ちくたびれたぞ」
おそらく全員が階段から離れたときに、見えない敵が声を出した。
「だれだ!」
「真名を聞いてどうするつもりだ…師匠の邪魔はさせない」
「校長先生ですか…?」
私は、師匠と言っている声に聞きおぼえがあった。
「…ばれたか」
闇の向こうから何かの雰囲気が伝わってくる。
お母さんがそれに対応する形で叫んだ。
「divina gratia」
電線が切れて暴れているときのように、火花がはじけどぶ。
「リギル、プロキシマ。coincidentia」
闇が一瞬で晴れ、校長の姿がはっきりと見えた。
「やるぞ」
校長の両脇に、リギルとプロキシマの二人の使い魔がいた。
3人の姿が見えた瞬間、再び太陽のような光が部屋に満ち溢れた。
「行くぞ」
光がおさまると同時に、アルヤが唱える。
「caecitas」
再び、目の前が真っ暗になる。
「チッ」
校長も同じらしい。
「盲目とは、よく思いついたな」
「いましがた思い出しただけさ。偶然の産物だよ」
そう言っていたのは、多分お母さんとアルヤのどちらかだろう。
「sol」
再び校長が言うと、またもや光が見えた。
「らちが明かないな。一気に攻めるぞ!」
校長が叫ぶと、何も言わずに腕で空を切った。
とたんにお母さんの服が、鋭利な刃物で切り付けられたように裂かれた。
「お母さん!」
私が叫ぶが、お母さんは一切動じずに一言だけ言った。
「marmor」
言うと、校長が一瞬で固化した。
「…ふう」
ため息をつきながら校長のところへ近寄る。
「校長先生よ、なぜ、あなたが?」
「…世界を再構築するためだよ。すでに白い蛇は与えられた。我々がそのための扉をあける」
そう言って、姿を消した。
「お母さん…?」
「白い蛇か。もう時間はあまり残されていないようだな」
お母さんが呟きながら、手で立方体を作り、言った。
「cubus」
同時に、箱のようなものが現われて、中からお父さんが出てきた。
「あなた、起きて。白い蛇が別の空間で見つかったそうよ」
お母さんがお父さんの傍らに座って言った。
「…そうか。アルゴはいるか?」
「ここに」
のそのそとお父さんのそばへ私を乗せたまま歩いていく。
「アースとレオは、さらわれたままか」
「アースの魂だけは、スピカの中に」
アルゴがそう言うと、お父さんが長く息を吐いた。
「そうか。まだ話していなかったが、その時間もないだろう」
お父さんが立ち上がると、アルゴもおとなしくついていく。
「行くぞ。最後の一人のところだ」
そう言って、お父さんが階の端っこにある階段から降り出した。