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3バカ怪奇譚  作者: スナタナオキ
ソイノメ様編
9/21

儀式当日

 三日後。約束の日の夕方に、僕は自分の家の玄関で立ち止まっていた。まだ外には出ていない。


 右手には学生鞄、左手には制服と懐中電灯が入った紙袋を持っている。今夜は菅原君の家に泊まる予定になっているので、明日の朝は自宅に帰らず学校に向かう予定だ。鞄と紙袋はそのための準備だった。


 約束の時間は午後6時。それまでに神崎君の家の前に集合することになっている。だが、正直行きたくない。以前楔山に行ったときは昼間だったが、今回は夜だ。しかも、そこで人殺しを待ち受けなければならない。


 当然、親に本当のことを言えるわけもなく、今日は友達の家に泊まるとしか言っていない。


 仮病でも使って休んでしまいが、そんなことをすれば神崎君に殺されるかもしれないし、そもそも神崎君と菅原君の連絡先を知らない。


 やはり行くしかないだろう。


 僕は心を決め、玄関の引戸を開けた。外はもう薄暗くなっている。時刻は17時半を過ぎているので、早く行かなければ約束の時間に遅れてしまう。


 後ろ手に戸を閉め、深呼吸をする。その時、電線に止まっていたカラスが大声で鳴いた。


「カァッ」


「ヒィッ」


 驚いて肩が跳ね上がる。急いで玄関の戸を開け、家の中に逃げ帰った。カラスは不吉の象徴だ(たぶん)。これから自分の身に悪いことが起こる予兆なのだ。やはり行かない方が……。


 そう思っていると、突如として背後から女の声が聞こえてきた。


「あ、あぁ、あ」


 苦しそうなうめき声だ。恐怖で身体が硬直する。明らかに家族の声ではない。後ろに立つ女は、尚も苦しそうに声を出す。


「たす、け……て」


 間違いない。幽霊だ。どうして家の中に……。


 恐怖と混乱で頭がおかしくなりそうだった。おそらく僕に取り憑いてしまったのだろう。でもいつの間に?


 考えていても仕方が無い。とにかくどんな幽霊なのか確認しなければ。でも、振り向くのは怖い……。


 何もできずに立ち尽くしていると、後ろから女の両手が伸び、僕の目をおおった。そして苦しそうに言う。


「だ、だ、だぁぁれだ?」


 なんだこの幼稚なイタズラは。しかも、冷静になってみると、聞き覚えのある声だ。


「薰ちゃん、イタズラはやめてください」


「ピンポーン、正解」


 振り向くと、やはり薰ちゃんが立っていた。


「どうして僕の家が分かったんですか?」


「ああ、神崎君に言われて、学校帰りのキクっちゃんをストーキングしてたの。私の気配に気づかなかった?」


「僕としたことが。気づきませんでした」


 今日の帰りは楔山に行くことで頭がいっぱいだったので、後ろをつける薰ちゃんの気配にまで気が回らなかった。


 それに、あのヤバ霊がまた出てくるんじゃないかと思って、最近は登下校の間ヒヤヒヤしている。あれっきり見ていないが、とにかく気にしなきゃいけないことだらけだ。


 薰ちゃんが話を続ける。


「でね、どうせキクっちゃんは怖がって家から出てこないだろうから、無理やりにでも連れてこいって、神崎君が言うのよ」


 さすが神崎君。こうなることも既に読んでいたとは。しかも、霊感が無くとも、一方通行ではあるが薰ちゃんに何かを伝えることはできる。そのことに気つき、すぐさま利用してきた。


 僕は観念して言った。


「分かりました。行きますよ。だからもう怖がらせないでください。心臓がいくつあっても足りません」


「そうこなくっちゃ。ほら、さっさと行きましょ」


 薰ちゃんに背中を押されて家を出る。カゴに鞄と紙袋を入れ、自転車にまたがると、薰ちゃんが背中にしがみついてきた。


「ヒェッ、ちょっと、やめてくださいよ。くっつかないで怖い怖い怖い怖い」


「なんでよ。こうしないと私も自転車に乗れないでしょ。それとも、私だけ徒歩で行けっての? あといい加減私には慣れなさいよ。いつまで怖がってんの」


「僕だって怖がりたくて怖がってるわけじゃないんですもん……」


 僕はしぶしぶ薰ちゃんをおぶさりながら、自転車のペダルを踏んだ。


 ペダルを漕ぎながら、薰ちゃんに尋ねる。


「ねえ、薰ちゃんはずっと神崎君と一緒にいたんですよね」


「まあ、そうね」


「神崎君って、不良なんですか?」


「え? どういうこと?」


「日頃から悪い仲間とつるんで、弱い者イジメとかしてるんじゃないかと思って」


「あははははは」薰ちゃんは大笑いして、「してないしてない。あいつ、いっつも道場で武道の稽古ばっかりしてるよ。あんなにイケメンで、しかも若いのに。もったいないことしてるわ」


「やっぱりそうですか……」


 楔山での一日を通して、神崎君に抱く印象はかなり軟化なんかしていた。たしかに怖いところもあるが、弱い者イジメや犯罪を犯すような人物には思えない。


 菅原君だってそうだ。神崎君を無理やり従えているという感じじゃなかった。二人は本当に友達のようだったし、そして菅原君は自分に対してもとても優しい。それは本来の態度であって、打算的な思惑おもわくが絡んでいるとは思えなかった。


 二人はいい人だ。でも、今後はあまり付き合いたくない。オカルトが関係してなければ仲良くしたいのだが。


 そんなことを考えながら10分ほど自転車を走らせ、神崎君の家に着く。既に菅原君も到着し、神崎君と二人で話していた。神崎君がこっちを見て言う。


「おっ、ちゃんと時間通り来たな菊池。どうだ? 俺の刺客しきゃくは役に立ったか?」


「うん、充分すぎるほどね。僕はもうこりごりだから、神崎君にお返しするよ」


「何?」


 薰ちゃんが僕の背中を離れ、神崎君の背中に取り憑いた。


 神崎君が苦しそうに言う。


「ぐぅ、やっぱ重い。菊池お前、あとで覚悟しとけよ」


「えっ、僕が悪いの?」


「ふふっ、よかった」と菅原君。「菊池君が前と違って元気そうで安心したよ」


 何も良くないよ、と内心思ったが、たしかに二人とは親しくなれたので、以前ほどの緊張感は無かった。二人がいてくれれば、なんとかなりそうな気がする。なんとなく。


「さて、菊池も来たし、人殺しの屑野郎をぶちのめしに行くか」


「おー」


 菅原君がかけ声と共に拳を突き上げる。今日もノリノリだ。


 三人で自転車を漕ぎ、楔山に向かう。


 到着すると、以前と同じ駐輪場に自転車を止めた。そこからはスマホの地図アプリを頼りに、祭壇の場所まで行く。以前来た時、菅原君が祭壇と薰ちゃんの首があった場所を、アプリ内の地図にマーキングしている。


 スマホで時刻を確認すると、18時を過ぎていた。辺りは日が沈み、暗くなり初めている。森の中に外灯は無いため、もうじき一寸先も見えない暗闇に包まれるだろう。


 僕達は懐中電灯で前を照らしながら、暗い森の中を進んでいった。そして、祭壇である棺桶がある場所に着いた。

《注意》未成年が保護者の許可無く深夜に外出することは犯罪だよ! 心霊スポットには法律を守って行こう!

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