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3バカ怪奇譚  作者: 岩畑曲花
ソイノメ様ふたたび編
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エピローグ

 朝。雨の中、駅から学校への道を歩く。


 いつも見かけていたサラリーマンの幽霊は、女の人の幽霊と遭遇(そうぐう)してから見かけなくなっていた。別の幽霊を見たことで、自分も幽霊だということに気づいたのだろうか。それで成仏していればいいのだが。


 一人で歩いていると、楔山に関する様々なことが頭に浮かんでくる。


 ソイノメ様を成仏させてから、もう四日が経った。山頂の遺体は登山客に発見され、今では日本中を騒がせている。


 五人もの遺体が見つかり、しかも全員の首が切断されていたのだから無理はない。加えて、そのうちの一人の首は離れた場所の木にくくり付けられていたのだ。事情を知らない人々にとっては恐怖でしかないだろう。


 被害者の身元は既に特定されている。薰ちゃんの死も家族に伝えられたはずだ。今頃、悲嘆(ひたん)に暮れているだろう。薰ちゃんの最期を教えてあげたいが、さすがにそれは無理な願いだ。


 楔山事件は連日ニュースで報道されている。この事件の不気味な点は、犯人の動機がまるで分からないことだ。なぜ、被害者を絞殺(こうさつ)するだけではなく、首を切断したのか。なぜ、遺体をわざわざ山頂に運んだのか。なぜ、一人の首をそこから離れた場所の木にくくり付けたのか。


 警察は犯人の不可解な行動に頭を抱えていることだろう。そして、今もこの世にいない犯人を(さが)し続けているのだ。


 事件が残した禍根(かこん)はそれだけではない。菅原君によると、ネットではソイノメ様の伝承が瞬く間に拡散され、オカルト界隈(かいわい)以外も大盛り上がりらしい。犯人はソイノメ様の儀式を行おうとしたのだと、(まこと)しやかに考察されているという。まあ、実際、真なんだけど。


 しかし、それだと説明できないことがある。儀式に必要な供物は四人分だ。それなのに、首を切断された遺体は五人分ある。いったいどうしてか。


 事情を知らない人々は、様々な憶測(おくそく)を唱えていた。犯人は二回儀式を行おうとして、途中で中断したのだ、とか、遺体のうち一人は犯人で、ソイノメ様の怒りを買って首を切断されたのだ、とか。


 菅原君は学校で嬉しそうにそのことを僕に語り、「こうして都市伝説が生まれるんだね」とニヤニヤしていた。が、話し終わると、急に神妙な顔つきに変わり、こうも付け加えた。


「また誰かが、ソイノメ様の儀式をしなければいいけどね」


 僕は深く頷いた。それが一番、懸念(けねん)されることだ。もはやソイノメ様の伝承は全国に知れ渡っている。それを知った誰かが、自分も儀式を行おうと思い立つかもしれないのだ。そうなれば、また同じ悲劇が繰り返されてしまう。


 僕にできるのは、そうならないよう祈ることだけだ。


 近頃、そう考えては憂鬱になっている。どんよりとした梅雨時の空模様が、その気持ちをよりいっそう強めた。夏に入る頃には、心の中も晴れるだろうか。


 前方に学校が見えてきた時、傘を打つ雨の音がやんだ。空を見ると、雨雲を()くように青い空が見えた。雨上がりだからか、特別澄んで見える。


 一瞬、爽やかな気持ちになるが、既に学校は目の前だ。どうせなら、もっと早くに晴れてほしかったと、別の不満が顔をもたげた。


 こういうモヤモヤした気分の時は、友達と漫画談義をするに限る。最近、『魔人大戦』が佳境(かきょう)に入っているところだ。僕が一番好きなキャラである桜田清司郎が、あの強敵、黒蛇丸に勝てそうなのだ。


 早くみんなと今後の展開について予想を語り合いたい。そう思いながら下駄箱で靴を()き替えていると、誰かに声をかけられた。


「おはよう、菊池君」


 そこには菅原君が立っていた。妙にニヤニヤしている。これは、また怖いことを考えている証拠だ。


 僕はあえて「おはよ」と早口で返し、早足で菅原君の側を通り抜けた。


「ちょっと待って、なんでそんな冷たいの?」


「今、そんな気分じゃないから」


「まだ何も言ってないでしょ!」


 菅原君の声を背に、教室への避難を急ぐ。まったく、こんな学校生活があとどれだけ続くんだろうか。僕はもっと、平凡な青春を送りたいのに。




〈ソイノメ様ふたたび編・完〉

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