招集
昼休み、僕は友達の吉田誠(あだ名はよっちゃん)と漫画談義をしていた。話題の中心は当然、週刊少年ブレイヴで絶賛連載中の大人気漫画、『魔人大戦』についてだ。
現在、僕が一番好きなキャラクターである桜田清司郎が、宿敵、黒蛇丸と死闘を繰り広げている。昨日発売されたブレイヴでは、桜田が黒蛇丸に追い詰められ、絶体絶命のシーンで話が終わった。そのため、続きが気になって仕方ないのだった。
「ああ、桜田が死んだら嫌だな……」
僕は入院中の親友を心配するような気持ちで呟くが、よっちゃんはあっけらかんとした態度で言った。
「死んだ方が面白くね?」
「面白くないよ! もし死んだら、僕もう魔人大戦読まなくなるよ!」
「ほんとか? 黒蛇丸を誰が倒すのか気にならねーの?」
「それは……気になるから読むけど……」
「だろ? みんなそうだって。だいたい、桜田は弱いから勝てるわけないんだよ。あんま期待すんな」
「でも負けたらつまらないじゃん! 予想通り過ぎて!」
「そうかな」と菅原君。「人気キャラが一方的に蹂躙されるのって、ゾクゾクしない?」
「僕はそんな変態じゃ……ってなんで菅原君が!」
驚いて後ろを見ると、いつの間にか菅原君が立っていた。ニコニコと嫌な笑みを浮かべている。
よっちゃんが黒縁眼鏡をくいっと上げて言った。
「菅原って、あの例のオカルト研究会の?」
「そ、そうそう」
オカルト研究会とは、楔会のことである。僕はよっちゃんを含む美術部の友達にそう説明していた。当然、僕が霊感を持っているということは隠している。詳しい出来事は一切説明していない。
僕は恐る恐る菅原君に尋ねた。
「どうしてここに来たの? 菅原君も漫画談義がしたいとか?」
だが、僕の希望的観測はあっさり否定された。
「まさか」と首を振って、「もっと面白いことをしようと思って」
「面白いことって?」
「それは神崎の家で説明するよ。放課後集合ね?」
面白いことであるはずがない。また楔会の活動だ。絶対に行きたくない。
「でも、部活があるから。……ね? よっちゃん」
俺は懇願する気持ちでよっちゃんを見た。が、よっちゃんはまたもあっけらかんと言う。
「いいって。行ってこいよ。竹先にはオレが説明しておくから」
竹先とは、美術部顧問の竹田先生のことだ。竹先は部の規範にゆるーい人で、部活をサボっても許してくれるし、なんなら部室で漫画を読んでいても許してくれる寛容寛大な先生だった。
というのも、「すべての道は芸術に通ずる」が口癖の人で、何をしても芸術の一環として許してもらえるのだ。
にもかかわらず、部室で宿題をすると烈火の如く怒るから、よく分からないおっかない人でもある。
とにかく、竹先はそんな人だから、楔会の活動で部をサボっても叱られることはないのだった。
僕からすればぜひとも猛反対して、菅原君と神崎君に説教をかましてほしいのだが、人生そう上手くはいかない。
僕はそれでも食い下がった。
「いや、竹先は許してくれるかもしれないけど、僕はもっと絵の勉強をしたいから」
「え? 初耳だな。いつもへったくそな漫画の絵書いてるだけじゃん」
「空気読んで!」
その時、菅原君が冷ややかな声で言った。
「菊池君」
「ひっ」
顔から笑みが消えている。僕はびくびくしながら次の言葉を待った。
「君は我が会のリーダーなんだ。もっと任務に責任を持ってもらわないと困るよ」
「………う、うん」
別に好きでリーダーになったわけじゃないのに、なんでこんな言われ方をされなきゃならないんだ。
友達が困っているというのに、よっちゃんは囃し立てた。
「お、キクチン(僕のあだ名)リーダーなのか? よかったな」
「よくないよ。面倒事押しつけられるだけなんだから」
「面倒事?」
菅原君に怖い声で言われ、慌てて言い直す。
「面倒事じゃないです。大事な仕事です」
「だよね」と、途端に明るい表情に変わり、「じゃあ、放課後、神崎の家で待ってるから。来なかったら普通に呪いかけるからね」
「普通に!?」
「よっちゃんも竹先に説明お願いね。バイバーイ」
「バイバーイ」と、よっちゃんがのんきに手を振って返事をする。
菅原君が教室を出て行った。
「はぁ……」
嵐が過ぎ去り、大きな溜息をつく。まったく、あと何回楔会の活動で呼び出されるんだろう。もしかして卒業まで続いたりして。もう転校しよっかな……。




