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3バカ怪奇譚  作者: スナタナオキ
ベタな呪いの人形編
20/21

お菊さんの電話

「ど、どこにいっちゃったの?」と、震えながら言う。


 その時、ポケットのスマホが鳴った。


「ヒィッ……なんだよこんな時に」


 僕はスマホを見た。知らない番号からの着信だ。背筋が冷たくなる。


「誰から?」と菅原君。


「し、知らない人から。まさか、あの人形からじゃないよね」


「分からない。試しに出てみてよ」


「怖いから嫌!」


「じゃあオレが出るよ」


 菅原君はスマホを受け取り、応答ボタンをタップした。スマホを耳にあてがう。そのまま何も言わず、相手の声に耳を傾けている。しばらくすると、スマホを耳から離した。


 僕が恐る恐る尋ねる。


「……誰からだった?」


「人形からだった」


「うぅ、やっぱり。なんて言ってたの?」


「……あたし、お菊。今、駅にいるのって」


「え、それって……」


「うん、メリーさんの怪談にそっくりだ」


 その時、また僕のスマホが鳴った。同じ番号からだった。菅原君が電話に出る。通話が終わると、菅原君が言った。


「あたし、お菊。今、バス停にいるのって」


 僕はムンクの叫びのように両手で頬を押さえて言った。


「ああ、どんどん近づいてきてる。どうしよう」


 神崎君が呆れた様子で言う。


「近づいてきてるって、元々近くにいただろ」


 またスマホが鳴る。菅原君が電話に出て、内容を伝えた。


「あたし、お菊。今、家の前にいるの」


「ああ、もうダメだ。逃げられない」


 スマホが鳴る。菅原君が電話に出て、こう言った。


「あたし、お菊。今、菊池智也のうしろにいるの……」


「え?」


 僕はゆっくりと後ろを見た。そこには、ケースの中にあった日本人形が立っていた。


「ぎゃあああああ助けてええええええええ」


 僕は絶叫し、神崎君の後ろに隠れた。


 神崎君が大笑いして言う。


「ぎゃははははは。こいつほんとにベタだな。メリーさんの怪談そのままだ。おもしれー」


 神崎君は人形を掴むと、僕に近づけてきた。


「ほれほれほれほれ」


「やめてよ神崎君やめて」


 狭い仏間の中で僕と神崎君が子供のように追いかけっこをする。


 橘さんが咎めた。


「ちょっとやめなさい蓮ちゃん。可哀想でしょう」


「はい、すみません」


 神崎君はすぐに謝り、人形を床に置いた。


僕僕は部屋の隅に移動し、最大限人形から距離を取った。ふと菅原君を見ると、腕を組んで何やら考え込んでいる。


「どうしたの? 菅原君」


「おかしい。いや、おかしすぎる」


「何が?」


「何がって、メリーさんは外国製の人形だ。日本人形じゃない。これじゃあベタを通り越して、もはやパロディだよ。しかも自分のことを電話でお菊と言ってたけど、この人形は似ているだけでお菊人形じゃない。いったいどういうことだ?」


 菅原君は目をつむり、悩ましそうに眉間に皺を寄せた後、橘さんに尋ねた。


「橘さん、人形から電話がかかってくることはよくあるんですか?」


「いいえ、ないわ。これが初めてよ。両親や祖父母からも聞いたことがないし」


「そうですか。じゃあ、何が引き金になったんだ……」


 菅原君は悩ましそうに思案を続けた。そして、突然カッと目を見開くと、こう言った。


「分かった。こいつは人の恐怖心に反応するんだ」


「どういうことだ?」と神崎君。


「この人形には、人が恐れていることを現実にする呪いがかけられてるんだよ。さっきメリーさんの怪談を話そうとしただろ? そしたら菊池君が怖がった。だから菊池君のスマホに電話がかかってきて、メリーさんの怪談が再現されたんだよ。人形がお菊と名乗るのもそう。さっきお菊人形の話をして、菊池君が怖がったことが原因だ。二つの怪談が混ざった形で再現されたんだよ」


 僕は部屋の端から神崎君の後ろに移動して言った。


「そ、そんな恐ろしい呪いが……」


 菅原君がニヤリと笑って言う。


「ようやく面白くなってきたね。これで引き起こされる怪奇現象がなぜベタなのかも説明できる。それはこの人形が、所有者の恐怖を現実にしているからだ。呪いの人形と聞けば、誰もが有名な怪談を思い浮かべ、恐怖する。その恐怖心に反応して、人形はその怪談を再現してたんだ。さっきのメリーさんの再現と同じようにね」


 僕がおどおどと訊く。


「それで、僕達はこの人形をどうすればいいのかな?」


 菅原君がニッと笑って僕を見た。


「人形? 本当にそうかな? こいつは人の恐怖を現実にする。ということは、本来のこいつはベタな日本人形なんかじゃなく、もっと違う姿である可能性がある。本当はどんな姿をしているのか。気にならないかい? 菊池君」


「気にならないよ。怖いもん」


「そうだ、怖がれ。怖がれば怖がるほど、人形はその恐怖心に反応して、真の姿を現すだろう」


「嫌だよ。真の姿なんて見たくない」


「もっとだ。もっと怖がれ」


「やだやだやだやだやだ」


 僕は頭を抱えてその場にしゃがみ込んだ。


 その時、床に置かれていた人形がぐにゃりと動いた。胴体や腕がねじれ、色と形が変わっていく。


 僕は人形を食い入るように見つめた。怖くて目を背けたいが、警戒心が勝って目が離せない。


 人形の不気味な動きが止まり、ついに真の姿が現れる。


 それは、一本の腕だった。前腕(ぜんわん)しかなく、肘の部分が水平に切れて地面についている。天に向かって伸びる腕は、まるで何かを掴み取ろうとしているように見えた。


 最初は本物の腕かと思ったが、目を凝らすと木目があり、木像であることが分かった。あまりにも精巧で、着色されていないのに本物の腕に見える。うっすらと浮き出た骨や、関節に刻まれた皺が見事だった。


 その技工に、怖ろしさも忘れて感動していると、奇妙なことに気づいた。親指が二本あるのだ。手の両端に親指があり、中指を中心に左右対称になっている。そのため、右手なのか左手なのか判別できなかった。


 真の姿は恐ろしいというよりも芸術的で、美しさすら感じられる。あくまでも見た目は、だが。


 いったいこれはなんなのだろうか。そう思い僕僕は菅原君の顔を見た。菅原君は目を見開き、口をぽっかりと開けている。かなり驚愕しているようだ。あの菅原君ですら、それほど恐れる物なのだろうか。


 僕は恐る恐る尋ねた。


「菅原君、これはいったいなんなの?」


 菅原君はゆっくりと顔をこちらに向け、こう言った。


「これは……正幻(しょうげん)の遺作だよ……」

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なっなんだってー(知らんけどもw)
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