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3バカ怪奇譚  作者: スナタナオキ
ベタな呪いの人形編
18/21

菊池軍団vsオカルト会vsバケバケ会

「オレがどうかしたの?」


「ヒィッ」


 突然登場した菅原君に、僕は驚いて肩が跳ね上がった。


 神崎君が事も無げに言う。


「なんだお前、菅原が来てることに気づかなかったのか? 階段登ってくる音が聞こえただろ」


「さすが神崎。忍び足で来たのに、バレてたか」


 僕は心臓を押さえながら言った。


「なんで忍び足で来るの。普通に来てよ。びっくりするでしょう?」


 菅原君が僕達の前に座って言う。


「いや、二人が何を話してるのか気になってさ。それよりもゴメンね、遅くなって。さっそく本題に入ろうか。今日集まってもらったのは他でもないよ。前日の反省をするためだ」


「前日って、ソイノメ様のこと?」


「そう。オレ達は儀式を阻止し、犠牲者の数を最小限にするために行動した。でも、作戦が杜撰(ずさん)だったせいで、犠牲者の数が一人増えてしまった。後悔してもしきれないよ」


「今更気にしても仕方ねーだろ」と神崎君。


「まあ、そうとも言えるよ。今更何かしたって、犠牲者の命は救われないからね。でも、他の人の命なら救えるかもしれない。オレ達はそうやって償うべきだと思うんだよ。誰かの命を救って、自分達の過ちを」


 僕は神崎君の顔をちらりと見て言った。


「でも、これ以上危険なことをするのはいけないと思うんだ。ね? 神崎君」


「そうだ。さっき、お前について菊池と話してたのはそのことだ。これ以上、興味本位で危険なことに足を突っ込むのはやめた方がいい」


「うんうん」と、僕も深く頷いて賛同する。


 しかし、菅原君が鋭い声で言った。


「興味本位じゃないよ。罪を償うためって言ったでしょ? 話聞いてなかったの?」


 菅原君が珍しく苛ついている。場の雰囲気が一瞬で張り詰め、僕は背筋が冷たくなった。


 神崎君が反論する。


「人助けしようとして、俺達が死んだら元も子も無いって言ってんだよ」


 菅原君が冷たく返した。


「もちろんそんな危険を犯すつもりないよ。ソイノメ様もそうだった。ソイノメ様は無差別に人を殺すような妖怪じゃない。それを知ってたから作戦を決行したまでだよ。だいたい、オレが危険だって言ってるのに、犯人が複数人いても逃げずに戦うって言ったのはどこの誰だ?」


「何?」


「ちょっと待って」僕は急いで険悪な二人の間に入った。「いったん落ち着こうよ。僕も神崎君も、菅原君が心配なだけなんだ。ほら、だって僕が祭壇の気配を感知した時、菅原君は一人でそこに行っちゃったでしょう? 危険かもしれないのに。菅原君にはそういう怖いもの知らずなところがあるから」


「……」


 菅原君は気まずそうに顔を伏せた。


「でも、菅原君の意見も分かるよ。僕だって犠牲者を増やしてしまったことは後悔してるし、その分誰かを救えるなら救いたい。ただ、できるだけ危険なことは避けようって言いたいだけなんだ」


「……」菅原君はしばしの沈黙の後、こう呟いた。「やっぱりリーダーは菊池君がいいね」


「え、なんのこと? リーダー?」


「そうだよ。今日集まったのは、組織を作るためだ。メンバーはオレと菊池君と神崎の三人。この三人で、幽霊や妖怪から人々を救うんだ」


「え、ちょっと待って? 幽霊や妖怪ってどういうこと? 別に人助けはオカルトが関係してなくてもできるでしょ?」


「そうだけど、オカルトに無関係なことなら誰でもできるから、わざわざオレ達がやる意味は薄いよ。どうせなら、オレ達にしかできないことをやろう」


「いやいや、百歩譲ってそれはいいとしても、僕がリーダーなんて無理だし嫌だよ。菅原君がやればいいじゃん。向いてると思うよ」


「オレは無理だよ。さっき菊池君が言った通りだから。オレには怖いもの見たさで冷静さを失う欠点がある。神崎もそうだ。戦闘狂だから、リーダーには向かない」


 神崎君が不機嫌そうに言う。


「戦闘狂じゃねー。武士道精神と言え」


「とにかく、リーダーは常に慎重な菊池君の方が向いてるよ。何より霊感もあるし、リーダーとしては申し分ない素質だ」


「そうかなぁ……」


「大丈夫。別にリーダーだからって特別なことをやれって言いたいわけじゃない。メンバーの意見が分かれたら、菊池君がどうするか決めてほしいんだ。さっきの喧嘩を止めたみたいにね」


「うーん、それならできるかも……」


「よし、じゃあ、オレ達のリーダーは菊池君だ。異存は無いな神崎」


「ねーよ。こいつなら調子に乗らなそうだしな」


「決まったね。さて、じゃあまずは組織名を決めよう」


 神崎君が面倒くさそうに言う。


「そういうのって決めない方がいいんじゃねーか? たいていダサくなるだろ」


「じゃあ、名も無き組織、だね」


「ダセェな!」


「ね? 名前を付けなくても結局ダサくなるんだから、ここは面倒くさがらずにちゃんとした名前を考えようよ。神崎は何がいいと思う?」


「うーん……菊池軍団、とかどうだ?」


「別に軍団ではないでしょ。あと三人しかいないのに団ってのは大袈裟だ」


「じゃあお前もなんか案出せよ」


「オレはシンプルにオカルト会がいいと思う」


「うーん、シンプルすぎてダサいな。ダサいって言われるのが怖くて、無難な方向に逃げてる感じがする」


「なんだと! 心外だ! このオレがビビってるって言うのか! 撤回しろ!」


「菊池は何がいい?」


 怒る菅原君をスルーして、神崎君が僕にパスを投げた。


「うーん、怖くない名前がいいな。オカルト会とか幽霊会だと怖いし、オバケ会でもまだ怖いから……バケバケ会なんかどう?」


「おっ、いいな」と神崎君。


「は?」菅原君が反発する。「菊池君には悪いけど、どう考えてもダサいだろ! お前のセンサーぶっ壊れてるぞ!」


「いやいや、ふざけた感じが逆にいい。幽霊なんて怖くないという余裕が感じられる」


「めっちゃ怖いけどね」と僕が付け足す。


「んん……」菅原君が腕を組んで、「言われてみればそんな気もするけど、人助けをしようって組織がふざけた名前なのはどうかな?」


 僕も納得して言った。


「ああ、たしかにそうだね。不謹慎な感じがするかも。もっと固い感じの名前がいいかな」


「って言われてもなぁ……」と、神崎君が悩ましそうに天井を見る。


 三人はしばらく沈黙し、いい案がないか考えた。だが、なかなか思い付かない。


 五分ほどして、菅原君が口を開いた。


「そうだ、(くさび)会なんかどうかな? オレ達が初めて活動した楔山にちなんで」


 神崎君が賛成する。


「いいんじゃないか。ダサくないし、その名前なら初心を忘れない」


 僕は興奮気味に言った。


「それすっごくいい名前だよ。楔には絆って意味もあるし。これ以上の名前は無いよ」


 菅原君が嬉しそうに言う。


「ふふん、そうでしょ? あと、オレと神崎が楔となって、菊池君と怪奇現象を繋ぎ合わせるっていう組織の在り方も示せる」


 それを聞き、僕は手の平を返した。


「楔会って、なんとなく響きがダサいよね。渋いを通り越して年寄り臭いよ。ここは気をてらわず、オカルト会がいいんじゃないかな」


 神崎君が反対する。


「いいや、楔会がいい」


「いや、オカルト会がいい」


「楔会」


「オカルト会」


「じゃあ、多数決で決めようか」と菅原君。「楔会がいいと思う人」


 菅原君と神崎君が手を上げる。


「じゃあ、オカルト会がいいと思う人」


 当然、手を上げたのは僕一人だった。せめてもの抵抗で両手を上げる。


 神崎君が半笑いで言った。


「ふっ、なんだよそれ。リーダーだから二人分の票があるとでも言いたいのか?」


 菅原君もニヤニヤして言う。


「それとも、お手上げって意味?」


 僕は観念して言った。


「両方です……」


「菊池君には申し訳ないけど、この組織は民主主義なんでね、名前は楔会に決定するよ」


「リーダーは僕なのに……」


「組織のトップには得てして決定権がないものだよ。君臨すれども統治せずって言うでしょ?」


「じゃあ、僕の活動は自宅で君臨してるだけでいいかな?」


「それはダメだよ。神輿(みこし)なんだから、担がれてくれないと」


「うぅ……おっかない会に入っちゃったな」


「まぁまぁ、すぐに慣れるって。それじゃあ菊池君、リーダーとして、楔会の発足を宣言してくれるかな」


「うん。えー、ではここに、楔会の発足を宣言します」


 菅原君が拍手しながら言う。


「よっ、霊能力者」


「霊能力関係無いでしょ」


 黙って見ていた神崎君が言う。


「名前も決めたことだし、今日はもう解散にするか?」


「いいや、次の活動予定を報告しておかないと。菊池君には言ってなかったけど、もう次の活動は決まってるんだ」


「ええっ! 危険なのはダメだよ?」


「大丈夫大丈夫。神崎の親戚がね、呪いの人形を持ってるっていうんだ。その人に人形の処分を頼まれてる」


「え、神崎君の親戚? じゃあ、この話は神崎君も知ってるの?」


「うん、そうだよ」


「ちょっと! どういうこと神崎君!」


「なんで怒ってんだよ。菅原に訊かれたんだ。身近に怪奇現象で困ってる人がいないかって。俺は知らなかったんだけど、母親に訊いたら、呪いの人形を持ってる親戚がいるらしくてな。じゃあ、俺達でなんとかできないかって話になったんだ」


「そんな。じゃあ、さっきの喧嘩はなんだったの? 神崎君が危険な提案をしてどうすんのさ!」


「のさって言われても、たかが人形だろ。万が一危険になれば、そん時はさっさと手を引きゃいい」


「甘いよ。弱者に勝負を避ける権限は与えられない。逃げることすらできないまま、強者に踏みつぶされるだけだ」


「それさっき俺が言ったことじゃねーか。あと人形に踏みつぶされるわけねーだろ」


「例えだよ例え。あんなご高説垂れておいて、神崎君も危機感が足りないよ」


「まぁまぁ」と菅原君。「話を聞いたところ、所有者はその人形に傷つけられたことはないらしい。だから、それほど危険ってわけでもないよ。油断は禁物だけどね。あと、困ってる人を助けるってことは、程度の差こそあれ、人間に危害を加える存在を相手にするってことだ。危険性がゼロの依頼なんて存在しないよ」


「うーん……たしかに、依頼者はその危険性にいつも怯えてるってことだもんね。できれば僕達で助けてあげたいな」


「さすがリーダー。じゃあ日取りを決めよう。次の日曜日なんかどうかな」


「僕は大丈夫だよ」


「俺もだ」


「決まりだね。じゃあ神崎、日曜日にその人形を見せてほしいって依頼者に連絡しといてくれないか?」


「分かった。許可が出たら連絡する」


「頼んだよ。じゃあ、今日の会合はこれで終わりだ。日曜日にまた集まろう。あっそうだ。菊池君、連絡先を交換しておこう」


「ああ、別に無理して交換しなくてもいいよ」


「全然無理じゃないよ。連絡されたくないだけでしょ」


 僕はしぶしぶ、二人と連絡先を交換した。


 こうして、この日の会合はお開きとなった。

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― 新着の感想 ―
そもそも霊感や霊的な存在への対抗手段が無いのにオカルト騒動に首を突っ込んだら危ないって話だよねw
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