表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3バカ怪奇譚  作者: スナタナオキ
ベタな呪いの人形編
16/21

菅原家での前日談

 * * * * *


 楔山の森を出た後、僕達は菅原君の家に向かった。


 そして、僕はその家の豪華さに驚いた。広い庭付きの大きな一軒家で、普通の家と違い、屋根や小窓が無くてオシャレだった。まるで美術館かのような外観をしている。また、家の前には(いか)つい柵と門があった。


 僕は感心して言った。


「すごい。菅原君の家はお金持ちなんだね」


「うん、神崎の家よりはね」


「絶交だな、もうな」と神崎君。


 三人で家の中に入る。中もオシャレで、一般の住宅とは思えないほどだった。とにかく窓がドデカい。片側の壁を一面覆う程の大きさだ。日当たりと景色の良さはバッチリだろう。また壁は白一色で、その境目の無さから、どこまでも空間が広がっているような錯覚を起こす。


「はぁ、すごいなぁ」


 僕は辺りをキョロキョロと見て呟いた。


 菅原君の部屋は二階にあり、ドアを開けて入ると、意外に中は普通だった。八畳ほどの広さで、ベッドと勉強机、それからテレビがある。ここだけ見れば、ごく普通の高校生の部屋だ。


 ホラーが好きな菅原君のことだから、もっと怖い物が置かれていると思っていたのだが、特に変わった物はない。


 僕は安心して言った。


「ああ、良かった。てっきり怖い物がたくさん置かれてるのかと思ったよ」


「昔はそうしてたよ」と菅原君。「でも、それだとオシャレじゃないんだよね。怖い絵を飾ったり、怖い人形を置いたりしても、なんていうか、いかにも怖がらせようとしてる感じでつまらないでしょう? だいたい、本当に怖い物なら堂々と部屋の中に置けるはずないしね。これ見よがしに置いてる時点で、怖くないって言ってるのと同じなんだよ。だから今はさりげなく――」


「長えな!」と、神崎君がツッコむ。「もう寝るぞ。何時だと思ってんだ。2時だぞ」


 僕が慌てて言う。


「いや、ちょっと待ってよ。さっき『今はさりげなく』って言ったよね。今でもこの部屋には怖い物があるってこと?」


「うん、たくさんあるよ。探してみてね」


「探さないよ!」


「もういいから早く寝るぞ!」と神崎君が怒る。


「はい、これ二人の毛布ね」菅原君がベッドの上に畳まれていた毛布を二人に手渡した。「うちにはお客さん用の布団とか無くてさ、これで我慢してね。あと、枕はそこにあるクッションを使って」


「うん。ありがとう」とお礼を言う。


「電気消すぞー」


 神崎君が壁にある照明のスイッチを押そうとした。


「うわっ、待って」


 僕は急いで神崎君の腕を掴み、消灯を阻止した。


「なんだよ菊池」


「電気消したら怖いんだ」


「ああ、そういえばお前そんなこと言ってたなぁ」


「じゃあ電気はつけっぱなしにしておこうか」と菅原君。「菊池君には無理を言って頑張ってもらったからね。他にしてほしいことはある?」


「あと、テレビもつけっぱなしにしてほしい」


「お前寝る気ないだろ!」と神崎君がまた怒る。


「まぁまぁ。菊池君に合わせようよ。音量は小さくてもいいんでしょう?」


「うん、ぎりぎり聞こえるくらいでいいんだ」


「せっかくだから映画でも流しておこうか。オレ、オカルトだけじゃなくて映画も好きでさ。DVDたくさん持ってるんだよ。菊池君、好きな映画とかある?」


「えっと、一番好きなのは『生きる』かな」


 神崎君が嬉しそうに言う。


「おっ、お前も黒澤ファンか。俺も黒澤明好きなんだよ。『生きる』もいいけど、やっぱり俺の一番は『七人の侍』だな」


「あれも傑作だよね」


「ごめん菊池君。申し訳ないけど、『生きる』のDVDは無いんだ。『踊る臓物』ならあるんだけど、それでいいかな?」


「全然ちげーじゃねーか!」と神崎君。「なんだよ『踊る臓物』って。『生きる』の対義語だろ。どうして世界の黒澤が無くて、そんなへんちくりんな映画があるんだ。あと絶対グロいだろ」


「グロくないよ。R15だから」


「やっぱりグロいじゃねーか。なんでR18じゃなきゃセーフだと思ってんだよ」


「でもオレはよくこれを見ながら寝るんだよ。落ち着くから」


「お前だけだ、それは」


 結局、映画を流すのは取りやめとなり、ただテレビをつけておくだけにした。


 ベッドに入った菅原君が言う。


「じゃあ、みんなおやすみ」


「おやすみなさい」


「……」


 神崎君は返事をしなかった。


 ベッドには菅原君が寝て、僕は隣の床で神崎君と並んで寝る。


 だが、まったく眠れる気がしない。あんな恐ろしい体験をしておいて、すぐに眠れるわけがなかった。まだ近くに二人がいてくれるからいい。もし自分の部屋で一人っきりだったら、尚更眠れなかっただろう。


 天井を眺めながらそんな事を考えていると、隣の神崎君は早々に寝息を立て始めた。さすが神崎君だ。


 自分も早く寝ないとな、と思い、なんとなく神崎君側に寝返りをうつと、目の前に勢いよく拳を突きつけられた。顔に風圧が当たる。もう少しで当たるところだった。神崎君はまだ起きていたらしい。


「おどかさないでよ」と言ったが、返事はない。


 不思議に思って神崎君の顔を見ると、(よだれ)を垂らして気持ちよさそうに寝ていた。ニヤニヤしながら寝言をいう。


「うへへ、もう食えねーよ」


 どんな夢だよ、と内心ツッコむ。


 とにかく、神崎君の間合いに入ると危険だ。できるだけ距離を取ろう。まったく、油断も隙もない。


 僕はそう思い、部屋の一番端まで離れた。


 ふと、ベッドの上を見る。すると、菅原君が目を開けてじっとこちらを見ていた。


 「うわっ」と思わず声が出る。だが、菅原君の反応はない。よく見ると、目を開けたまま寝ているだけだった。


 僕は溜息が出た。どうして帰ってからもこんなに怖がらなければならないのか。


 これ以上怖い物を見たくないので目を閉じる。部屋にはテレビの音だけが響いていた。タレントが何かを言っているが、内容までは聞き取れない。心地よい音量だ。


 最初は気が張っていたが、テレビの音が子守唄が代わりとなり、気づけば深い眠りに落ちていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ