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3バカ怪奇譚  作者: スナタナオキ
ソイノメ様編
10/21

作戦会議

 棺桶は前に来た時と同じ状態で、特に変化はなかった。一応、菅原君が蓋を開けてみたが、中にはやはり何も入っていない。蓋の印の数も変わっていなかった。


「この印を今日増やすために、犯人はここに来る」


 菅原君が静かに言う。


「その時までどう待つ」と神崎君。


「懐中電灯を点けてると警戒されるから、消して待ってよう。犯人が来れば足音で分かる。その時に犯人の顔を照らしてやろう」


「ええっ、じゃあ真っ暗闇の中で待つの?」と僕。


「そうだよ。じゃないと犯人に勘づかれて逃げられるかもしれない。それに、もし犯人が複数人いた場合、オレ達だけじゃかなわないから、その時は息を潜めて、犯人に気づかれないようにこっそり逃げよう」


「おいおい、聞き捨てならねーな。何のために俺がいると思ってる。俺は敵が複数だろうが武器を持ってようが構わねーよ。実戦を想定した稽古なんざ当たり前のようにやってんだ。試合しかできねぇエセ武道家と一緒にすんじゃねぇ」


「はぁ」と、菅原君は溜息をついて、「神崎は戦いたいだけでしょ。オレと菊池君を巻き込むんじゃないよ」


「お前達は俺を置いてさっさと逃げればいい。むしろ足手まといだからそうしてもらった方が助かる。俺だけここに残って戦う」


「それはダメ。逃げる時は皆一緒だ。もし神崎が逃げないなら、オレ達は足枷あしかせとしてここに残る。それが嫌なら逃げるんだ」


「えぇ、それはちょっと……」と、思わず本音が漏れる。


「ほら、菊池は逃げたそうだぜ」


「そうだよ菅原君。犯人は神崎君に任せて僕らは早く逃げようよ」


「なんだと菊池この野郎! 俺を置いてくのか!」


「ヒィッ、なんで怒るのさ。残りたいんでしょう?」


「そんなにハッキリ言われたらムカつくんだよ。決めた。お前達が残っても俺は戦う」


「あーもう、菊池君ダメじゃない。神崎をその気にさせたら」


「うぅ、僕が悪いのかな……」


「仕方ない。もし犯人の数が多かったら、オレ達だけで逃げて、すぐに警察を呼ぼう。神崎も無理そうだったらすぐに逃げてね」


「そんなことあり得ねえよ」


「万が一にだよ。さて、じゃあ作戦をまとめようか。まずここで犯人が来るのを待つ。いや、正確にはここから少し離れた場所だ。その方が勘づかれにくくなる。で、犯人は当然ライトを使ってここに来るだろうから、その光が遠くに見えたら、その方向から見えない位置に身を隠そう。そして、犯人が来たら三人で捕まえる。でも、もし犯人の数が多かったら、神崎が犯人を足止めしてる間に、オレと菊池君だけ逃げて、警察を呼ぼう」


「あの、ちょっといい?」と僕。「犯人の数が多かったらって、具体的にどれくらいの人数?」


「うーん、そうだね。オレ達の戦力は三人だから、四人以上だったら多いと見なそう」


「てことは、三人以下なら僕達も戦わないといけないってことだね」


「お前達の出番なんかねーよ」


「神崎はこう言ってるけど、まあ菊池君の言う通りだね。三人以下の時はオレ達も武器を持って神崎をサポートしよう」


「武器って?」


「足下に一杯あるでしょ。石と砂だよ。木の陰から犯人に石を投げつけてやればいい。もし犯人が近づいてきたら、砂で目つぶしをしてやろう」


「俺にぶつけんじゃねーぞ」


「分かってるって。作戦は以上だ。何か質問はある?」


「ねーよ」


「僕も無い」


「よし。じゃ、暗くなる前に武器になりそうな石を集めておこう。一応日が沈む前に来たけど、おそらく犯人は人がいない深夜に来ると思うから、それまでは待機だな。あ、言い忘れてた。待機場所は三人で分けよう。違う場所に待機してた方が、犯人に早く気づける。もし誰かが犯人に気づいたら、石か枝で音を立てて、他の人に伝えることにしよう。……ああ、それとこれも大事だ。スマホの電源は絶対に切っておいてね。犯人が来た時に音が鳴ったら大変だから」


「おお、りょーかい」


「分かったよ」


 菅原君から作戦を聞き、ひとまず石を探すとにした。ぶつけたら威力が出そうで、それでいて投げやすそうな石を探す。


 僕は拳大の石を六個見つけ、上着のすそを袋代わりにして運んだ。それが終わると、ズボンのポケットに目つぶし用の砂を入れる。菅原君も同じように武器を用意した。


 その後、僕達は別れ、祭壇から3メートルほど離れた位置にそれぞれ隠れた。


 近くに仲間がいると分かっていても、心細い気持ちになる。スマホの電源を消し、木の幹に身体を寄せて座る。足下にはさっき集めた石を置いておく。


 やがて日は沈み、辺りは一寸先も見えない暗闇となった。住宅地と違い、森には外灯が無い。その分、星の光がはっきりと見え、美しかった。木の枝に隠れている部分も多いが、それでも町で見る星空より美しい。


 そのことを二人と話したかったが、犯人にバレるかもしれないので、むやみを声を出すわけにはいかない。


 じっと星空を眺めていると、薰ちゃんが側に来て、話しかけてきた。


「綺麗だよね、星」


「うん」


 僕は小声で返した。薰ちゃんは犯人に気づかれる心配がないので、自由に話すことができる。


「私、ずっと一人で見てたんだ、この星。ほら、首が木の上にあったでしょ? だからできることもないし、話せる人もいないから、ずーっと星を眺めるしかなかったの。でも不思議と飽きなかったな。この星空のおかげで、私は悪霊にならなかったのかもしれない」


 僕は先ほどの心細さが恥ずかしくなった。薰ちゃんに比べれば、今の自分の孤独など砂粒みたいに小さい。僕はなぐさめるつもりで薰ちゃんに言った。


「早く成仏できるといいですね」


 だが、薰ちゃんの反応は少し冷たかった。


「……成仏して、何が変わるの?」


「え?」


「正直、成仏したくないのよね。だって、それってこの世から消えちゃうってことでしょう? 私、まだ死んだ実感がないの。だってこうしてキクっちゃんと話せるし、星も見れるし。でも成仏したら、本当の意味で死んだことになっちゃう。あ、でも、犯人には捕まってほしいって思ってるよ。だけど、それで本当に成仏できるのかな?」


「もしできなかったら、僕達と成仏できる方法を探しましょう」


「ちょっと、そんなに私に消えてほしいの?」


「違います。悪霊になってほしくないんです。ほら、よく言うでしょう? 幽霊は現世に長く留まると、悪霊になってしまうって。薰ちゃんにはそうなってほしくないんです。絶対に」


「……キクっちゃんは見たことあるの? 悪霊」


「ありますよ」


「どんな悪霊?」


「それは……聞かない方がいいですよ」


「……どうして?」


「怖いからです」


「何それ。幽霊が幽霊を怖がるわけないでしょ。言いなさいよ」


「嫌です。こんな真っ暗闇の中で怪談語るなんて頭おかしいでしょ」


「あんたが怖がってるだけじゃないの! 私に気をつかってるみたいな言い方やめなさいよ」


「僕の身にもなってください。こんな暗い、しかも森の中に放置されるなんて。僕じゃなくても怖がりますよ」


「あっそ。じゃ、私と一緒にいない方がいいわね。神崎君の所に戻るわ」


 薰ちゃんが離れていく。僕はその足にすかさずしがみついた。


「ちょっと、何やってんのよ!」


「こっちのセリフですよ。怖いって言ってるのにどうして僕から離れるんですか? 実はもう悪霊なんですか?」


「あんたさっきは怖いからくっつくなって言ってたでしょ!」


「その時とは状況が違いますよ。今は一緒にいてください。ほら、餓死寸前の時なら、どんなに嫌いな食べ物でも喜んで食べるでしょ? それと同じです」


「例えが失礼極まりないのよ!」


「お願いしますお願いしますお願いします」


「……仕方ないわね」


 薰ちゃんはしぶしぶといった様子で僕の横に腰を降ろした。


「ありがとうございます。薰ちゃん」


「……どういたしまして」


「人って、ただ隣に誰かがいてくれれば、それでいいんですよね……」


「あんたがそのセリフ言ってもダサいだけだから」


 薰ちゃんと雑談をしながら時が過ぎていく。スマホの電源も切ってしまったので、今の時刻は分からない。


 日が沈んでから体感で二時間が経過する。犯人が来る気配は無い。辺りは静まり返っている。


 菅原君の言葉を思い出しす。犯人は人目を避けるために深夜に来る。暗くなったのは19時頃だから、そこから二時間が経過していたとしても、まだ21時だ。とうてい深夜とはいえない。せめて23時くらいにならないと、犯人は来ないだろう。


 早く時間が来てほしいような、いつまでも来てほしくないような、複雑な気持ちになる。


 ただそんな思いも、薰ちゃんとの好きな漫画談義で煙のように消え去った。


 時間を忘れて談義に熱中していた時、薰ちゃんが突然話をやめ、鋭く言った。


「来たわよ、犯人」

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