第6話 戦いの代償! 遠いハーレム
はじめてのモンスターを倒した俺たち。
レオナードの魔法の直撃を受けたモンスターの死体は、まだその場に倒れていた。
その時、モンスターの死体が淡い光を放って消え、その代わりに何かがその場に残された。
それは淡い光を放つ小さな結晶のようなものだった。
「これが……エレメントか?」
レオナードがそれを拾い上げ、慎重に俺に差し出した。
「ああ、モンスターを倒した証、魔力の結晶。健太郎、お前の力の証明でもあるな」
俺はそのエレメントを手に取ろうとする。
そのとき突然、体から力が抜けた。
視界がぐらつき、膝が震え、次の瞬間にはその場に倒れ込んでいた。
「健太郎!」
アルベルトが駆け寄り、俺を支えた。
全身が鉛のように重く、意識が遠のいていく。
「体が……動かない……」
その時、女神の声が耳のそばで響く。
「覚醒の力を使うことで、あなたの体力は大きく消耗されるのです。そのため、一日に一度しか使えず、その後は体を休める必要があるの」
「そ……そういうことは最初に言え…」
俺は薄れゆく意識の中で反論をする。
覚醒の力には、俺自身の体力という代償があるらしい。
「村へ戻りましょう、健太郎。大丈夫です、私たちに任せてください」
アルベルトが優しく言った。
「ありがとう……アルベルト……」
そのまま俺は意識を手放し、深い眠りに落ちていった。
※※※
気がついた時、俺は柔らかなベッドの上に横たわっていた。
頭が重く、体が鉛のように動かない。
目を開けると、心配そうに見下ろすアルベルトとレオナードの顔が目に入った。
「健太郎、目が覚めましたか?」
アルベルトが優しく問いかける。
「ここは……?」
俺は周囲を見回した。
見覚えのない部屋のベッドに俺は寝かされていた。
「村の宿屋の一室です。村に戻り、モンスターを倒したことを告げたら、快く迎え入れてくれました」
「お前は森で倒れたんだぜ。覚えているか? あのモンスターから何かされたわけじゃないよな」
心配そうな目を向けるレオナードに、俺は首を振る。
「違う。覚醒の力を使ったせいだ。体力を消耗するらしい」
「代償があるんですね」
「そういうのは、先に言ってくれよな、健太郎」
俺だって知らなかったんだよ!
とは言えない。
せめてにらんでやろうと女神の姿を探すが、アルベルトに隠れるように俺の視線から逃れていた。
覚醒の力を使った直後に感じた強烈な疲労を思い出した。全身が疲弊し、その場で倒れ込んだことも。
「ともかく、……ありがとう、二人とも」
その時、数人の老人が部屋に入ってきた。
彼らの顔には深い皺が刻まれ、疲れが見えるが、その目には感謝の意が込められていた。
先頭に立つ威厳のある人物は、どうやらこの村の村長らしい。
「勇者様、本当にありがとうございました。村を守ってくださり、心から感謝しています」
その目は、ベッドに寝ている俺ではなく、アルベルトに向けられている。
いや、それはそうだろうと俺も考える。
どこからどう見ても、俺は明らかに、二人の英雄に救われた一般人だ。
でも、そのあたりはアルベルトがフォローしてくれるだろう。
だいたい俺たち、勇者でもなんでもないし。
「いえ。私たちは当然のことをしただけです」
だが、どうやら天然らしいアルベルトは、何の疑問も抱くことなく丁寧に答える。
村長も、深くうなずいて言葉を続けた。
「あのモンスター……実はこれまで村と共生関係にありました。村を襲うことはなく、むしろ村を狙う他のモンスターを好んで狩ってくれることで、平和が保たれていたのです。しかし、最近、魔王の力が強まっているという噂が広がっています。あのモンスターが凶暴化したのも、そのためじゃないかと……」
レオナードが眉をひそめた。
「魔王の影響、か……。どこでも状況は似たようなものだな」
村長は悲しそうにうなずいた。
「残念ながら、そのようですな。今後は自分たちの力で村を守る覚悟です。むしろ、モンスター頼みだった今までが、甘かった」
「そうですね……。ですが、あなた方のその決意は立派です」
アルベルトが村長の覚悟を称賛する。
「ありがとうございます、勇者様。魔王の影響がどれほど深刻であろうと、この村は立ち向かいます」
村長はそう、アルベルトとレオナードに告げる。
「だとすると、オレたちもさっさと、魔王を倒さなくちゃな」
レオナードも力強く答えた。
「勇者様、どうかお気をつけて」
村長が深く頭を下げて部屋を後にした。
※※※
村長が去った後、俺たちは宿屋で再び話し合うことにした。
「魔王の影響がこれほどまでに広がっているとは……、放っておくわけにはいきませんね」
アルベルトが真剣な表情で言った。
「そうだな。この村は、自分たちで何とか出来そうだ。だがそうじゃない人々も多いだろう」
レオナードも同意する。
俺は彼らの言葉にうなずきながらも、思い浮かんでくるのはハーレムのことだ。
「魔王を倒して、この世界を救う……そのために俺たちは強くならなければならない」
俺はリーダーとしてそう言いつつ、心の片隅では、どうやれば美少女を召喚できるんだろうか、と考えている。
「健太郎、今こそ、あなたの力が必要です。魔王との戦いは厳しいものになるでしょうが、あなたには覚醒の力がある」
アルベルトが真剣な眼差しで俺を見つめる。
「ありがとう、アルベルト。俺もお前たちを信じてる」
そうして、俺は一瞬、迷う。
果たして、ハーレムのことをこの仲間たちに共有すべきか?
心を許す仲間たちなら、同じ方向性を目指すべきだ。
だが、今さら美少女を一人二人召喚できたところで、一体どうなる?
勇者と間違われる二人になびくのが関の山だ。
なら、俺がとれる選択肢は、たった一つだ。
「仲間を増やそう」
アルベルトとレオナードが力強くうなずく。
そう、俺がハーレムを生み出すには――たくさんの美少女たちが必要だ。
そりゃ、アルベルトとレオナードはモテるだろう。
だからやっぱり、一人や二人の美少女では足りない。
なら、たくさんの美少女がいれば……。
「ねえ、健太郎。何かものすごいことを考えてない?」
そんな女神の声が傍らから聞こえるが、そんなのは無視だ。
だいたい、この荒廃しつつある世界を生み出している魔王だって、たった三人で立ち向かえるほど、甘っちょろい相手ではないだろう。
その時、ふと、部屋のテーブルの上で淡く輝くエレメントが俺たちの視線を引いた。
「新たな仲間の召喚のためには、魔力が必要ですよね?」
アルベルトがそうつぶやく。
召喚のことについて、俺も詳しく知らない。
だからこの二人にも詳しくは説明できていない。
アルベルトとレオナードを呼び出したはじめの二回は、ただ女神に言われるがままに行っていた。
女神によれば、召喚にはエレメントが必要だ。
そのぐらいのことしか俺にはわからない。
「このエレメントで新たな仲間を呼び出せるか?」
レオナードがそう聞く。
俺は女神に目を向けるが、彼女は首を横に振り、小さくささやく。
「ダメ。もっと多くのエレメント――魔力が必要よ」
わずかに期待をしていた俺は、膝から崩れ落ちる。
ハーレム、遠すぎやしませんかね……。