第4話 不穏な足跡! モンスターの危機
異世界から来たことを、二人の仲間に告げた俺。
アルベルトとレオナードは驚いた表情を見せたが、すぐに理解を示した。
「異世界から、ですか。……それなら、あなたがこの世界のこと……フェリックスのことだって、ロクに知らないのも無理はないですね」
そんなアルベルトの言葉を受けて、レオナードが続けた。
「それならお前、この世界の基本のキの字すら、何も知らんというわけか?」
俺は一瞬躊躇ったが、真剣な顔でレオナードに答えた。
「そうだ。俺はこの世界でどう生き抜けばいいかも知らない。教えてくれないか?」
アルベルトが少し考えてから口を開く。
「『魔力』のことはご存知ですか?」
俺はかろうじてうなずいてみせる。
何しろ、ついさっき学んだばかりの概念だ。
「詳しくは知らないけど……魔力は、この世界の根幹を支えるもの、というぐらいなら……」
レオナードがうなずいて続けた。
「そうだ。オレたち魔法使いは、この魔力を操って魔法を使う。たとえば、オレが得意とする火の魔法は、魔力を集中させて火球を生み出すんだ。実際に見せた方が早いかな?」
レオナードは手をかざし、小さな火球を生み出した。
「これが、魔法……?」
俺は目を見張った。
現実世界ではあり得ない光景が、目の前で繰り広げられている。
「もちろん魔力は無限じゃない。魔力が尽きれば、魔法は使えなくなるし、疲労もたまる。ムダに使わないように気をつけるのも、この世界の基本のキだ」
レオナードの生み出した火球が宙に浮かび、ゆっくりと俺の前に滑るように近づき、そして消える。
「すごいな……」
「そんなのは大したものじゃない。モンスターとの戦闘になれば、もっとすごいのを披露してやるぜ」
レオナードの言葉に、俺はうなずく。
魔力。
ゲームでいう、MPみたいなものと理解しておけばいいのか。
アルベルトが口を挟む。
「モンスターといえば、近頃の彼らは脅威です。以前は大した力のなかったものまでも、人に危害を与えはじめている」
それはついさっき聞いたばかりの女神の話と一致している。
俺にしか見えない女神が、アルベルトの隣で自慢げに胸を張る。
「いつ何時、襲われるかもわからない。……ところで健太郎、戦いの経験は?」
不意にたずねられ、俺は答えに迷う。
俺はついさっきまで立ち読みをしていた、平凡な高校生に過ぎない。
ケンカの経験すらない。
そのように答えるまでもなかった。
俺の表情を読んだアルベルトが、話を続ける。
「いざ戦いとなれば、私たちがあなたを守ります。ただ、何か一つくらいは、身を守る武器があった方がいいでしょうね」
そう言って、アルベルトは腰に下げていた剣を俺に手渡した。
俺はその重さに少し驚きながら、剣を手に取った。
「これを……俺が使うのか?」
「ええ。まずはその剣を握って、基本的な動きを覚えてみてください。防御と反撃のタイミングを掴むことが重要ですよ」
アルベルトの言葉を聞きながら、俺は剣を握りしめ、ぎこちなく構えてみた。
しかし、どうにも手に馴染まない。
こんな重い剣を振り回すなんて、本当にできるのか……?
「こうやって構えるんですよ。手首を柔らかく使って、力を抜くことが重要です」
アルベルトが見本を見せてくれる。
が、そのしなやかな動きは真似できそうもない。
「ま、最初は誰でも戸惑うものさ。それに、お前が戦えないからこそ、オレたちが呼ばれたんだろ?」
レオナードが励ましの言葉をかけてくれた。
いや、俺はただ、ハーレムを作るための美少女を呼んだつもりだったんだけどな……。
だが、レオナードの言葉に安心をもらったのも確かだ。
俺は剣を握り直す。
「ありがとう、レオナード。せめて、二人の邪魔にならないようにしてみる」
「まあ、すぐには無理でしょうね」
アルベルトはにこやかな顔で、そう即答する。
別に皮肉を言った様子もない。
コイツ、もしや天然か……?
俺が何をいぶかしんでいるかわからないらしいアルベルトを横目に、レオナードは笑いをこらえていた。
※※※
その後、俺たちは歩きながら、女神の示した村へ向かうための準備を整える。
アルベルトの指導を受けつつ、少しずつ剣を使う練習を続けるうちに、なんとか基本的な動きが様になってきた、ような気がする。
やがて、草原が続いていた景色の先に、木柵で囲まれた村が遠くに見えた。
「あれが例の村か?」
レオナードのその言葉を受け、傍らを歩く女神に目を向けると、小さくうなずいてみせる。
俺も同じようにうなずく。
ちなみに、彼らにはこの村のことは、女神の導きにあって知っている、としか告げていない。
「村に着いたら、まずモンスターの痕跡を探しましょう。村人たちに話を聞くのが一番でしょうか」
アルベルトがそう言い、俺たちは村へと足を進めた。
道中、俺は剣を握りしめながら、さすがに緊張していた。
モンスターに遭遇するかもしれない。
村に到着すると、異様な静けさが村全体を包んでいた。
家々の窓は閉ざされ、村人たちの姿は見えない。
まるで何かに怯えているかのように、全てが静まり返っていた。
「なんだか、嫌な感じだな…」
俺がつぶやくと、アルベルトが警戒しながら辺りを見回した。
「モンスターの気配がします。慎重に行動しましょう」
村の中心へと進むと、地面には大きな足跡がいくつも残されているのが見えた。
それは、明らかに人間のものではなく、異常に大きな生物のものだった。
「これが村を襲ったモンスターの痕跡か……?」
俺が足跡に目を留めると、アルベルトがひざまづいて詳しく調べはじめた。
「かなりの大きさですね。このサイズなら、以前から人を襲っていてもおかしくはない」
「健太郎、気をつけろよ。お前は、弱っちいんだから、決して焦るな。オレたちがいることを忘れるなよ」
「わかった……」
モンスターと同様、仲間二人の力もまた未知数だ。
だが今は彼らを信じることしか出来ない。
「大丈夫、仲間を信じなさい、健太郎。そしてあなたにしか出来ない戦い方も、わたしが教えるわ」
俺の考えに呼応するように、いつしかそばに来ていた女神がそうささやく。
戦い方?
やっぱり、俺も戦わなければいけないらしい。
ハーレムの代償にしては重すぎませんかねえ?
そうたずねることすら出来そうもない、重苦しい空気が周囲を包んでいた。