Epilogue〖交錯の種〗
机の上を転がった万年筆は、カラカラと音を立て、やがて電気スタンドにコツンとぶつかり、その動きを止めた。
「……終わった。」
『思い出の日記』を書き上げたときとは違う喜びが私を包んでいる。書き終えた後の私の心は、雲一つない、澄み切った空のように晴れ渡っていた。
不思議なものだ。
私たちはみんな別々の生き物で、それぞれがそれぞれの思いを持って日々を過ごしている。それが何かのタイミングで交差する瞬間がある。
誰かの選択と誰かの選択が交錯するのだ。それを思うといつも、じんわりと鳥肌が立ってしまう。科学的根拠とか、そういうのなんてどうでもよくなってしまうほどの、もっと超越した何かに恐怖する。
『思い出の日記』に登場したあの子たちも、選択と選択が交錯した結果なのだろうと思う。
あの子たちで綴る十個のエピソードは、種になり、私の心の空を飛んでいった。
右手を丸め、口元に運んだ。そして私は、煤けた天井に心の青空を重ね、丸めた右手に息を吹き込んだ。
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私にだけ見えるしゃぼん玉。
視界良好の青空にそっと浮かべた。
喜びのタネとあの子たちを包んで……。
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