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空のたね【憧憬】


୨୧┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈୨୧


 シャワーのように降り注ぐ

 陽の光を浴びながら


 青く澄んだ空

 音も無く渦巻く雲海を翔び回る日々


 ずっと、それで満足していたんだ


 君と出会うまでは……


୨୧┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈୨୧



 ボクは空が好き。この大空が、ボクの宝物。


 うまく上昇気流をつかまえれば、何にもない大空を羽ばたきなしで自由に飛べる。羽ばたかなくていいと疲れないから、色んなものを観察するの。


 ボクは、空中散歩の途中で寄り道をする。最近友だちになった白猫の健太さんとおしゃべりをするために、お家の窓がよく見える電線で羽根を休めるのが日課。


「やあ、(とんび)くん。」


 健太さんは、おっとりしていて優しい猫さんだけど、ボクはその心の中に、遠くの世界をみすえているような強さがあるのを知っている。どこからやってくる強さなのか分からないけれど、いつか教えて欲しいと思っている。


「前から思っていたのだが、君には同族の友だちはいないのかい?」


 ぎくりとした。特に必要だと思っていないし、今まで考えたこともなかった。なにより友だちになりたいと思える同族がいない。ボクは健太さんにそう伝えた。


 健太さんは、ボクの目を真っすぐ見ると、うなずきながら微笑んだ。


「最近、友だちになったカラスがいてね、口は荒いが、なかなかの好青年だ。隣の畑でご飯を分けてもらっているようだから、今度会ってみるといい。」


「隣の畑? もしかして、おじいさんの食堂かな。確かにカラスも来てるね。」


「君なら誰が私の友だちか、すぐに判ると思うよ。」


 健太さんは、愉快そうに笑った。



 帰る途中で隣の畑に立ち寄り、健太さんに言われた通りカラスを探した。


 たしかに畑にカラスたちがいる。でも、畑にいるどのカラスが健太さんの友だちなのか、じっくり観察したけれどボクには判らなかった。あきらめて帰ろうと、止まり木から離れて空高く舞い上がったときだった。


「ねぇ、パパぁ。」


「旅立ちの時期が近いんだぞ。自分で食べなさい。」


 地上から、おさない子どもとその父親らしい声が聞こえた。困りながらも優しく諭す声に強い愛情を感じ取ったボクは、どんな家族なのかと声の主を探した。


 おじいさんの畑にカラスの親子がいるのを見つけ、ボクは近くの電線に降りた。声を聞いたときは幼い子どもだと思ったけれど、よく見たら独り立ち間近の子どもだった。でも、周りにいる兄弟たちよりもずっと小柄で、本当に独り立ちできるのか、関係のないボクでさえ何だか不安になってしまう。

 父親もそう思っているのだろう。その子のそばで虫の捕まえ方などを熱心に教えているけれど、当の子どもはすぐに飽きてしまい、結局父親にねだっている。どうやら小柄なあの子はかなりの甘え上手のようだ。父親はかわいらしくおねだりする子どもにすっかりでれでれで、困り顔と喜び顔を交互に繰り返しながら、子どもに食べさせていた。


「健太さんが言っていたのは、きっと、あのカラスだ。」


 しかも、毎朝ボクとご飯を取り合っているカラスだ。


「鴉くん、本当は子どもに甘いんだ……。」


 あの鴉は、この辺りでは百戦錬磨(ひゃくせんれんま)強者(つわもの)だ。山のカラスたちがおじいさんの食堂を狙ってやってくるけれど、彼は傷だらけになりながら戦って追い返している。ボクは毎朝彼とご飯を取り合っているけれど、そのときの気迫はすさまじい。それも、家族を養うためだった。


 純粋で、子どもに甘くて、真っすぐで、決して偉ぶったりしない。


 今まで知らなかった彼の姿はボクの心を震わせた。


「鴉くんと、友だちになれるかな……。」


 この日、ボクは初めて友だちになりたいと思える鳥と出会った。



 数日たったある日、いつものように空中散歩を楽しんでいると、健太さんと鴉くんの声が聞こえた。ボクの胸が大きく弾んだ。ふたりは真剣な顔で話していた。健太さんたちに気付かれないようにそっと近付くと、とても興味深い話をしている。


 ──ボクもふたりの仲間に入りたい。


 ボクは気づかれないように飛び立った。突き上げる感情に従って、ボクは一気に空高く飛び上がった。


 呼吸を整えたあと、円を描きながら大空を舞って、大声でふたりに話しかけた。


「ねぇ、何だか楽しそうな話をしているね。ボクも仲間に入れてよ!」


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