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prologue『日記の種』


 紙のこすれる音が部屋に響く。

 赤でたくさんの修正を入れた『思い出の日記』の原稿を、睨むようにチェックしていた私の担当者は、ふと原稿から目を離し、すすけた天井を仰いだ。


玄井(くろい)先生……、」


 縁なしの眼鏡からのぞく瞳は、とてもつぶらだ。


「僕は、精一杯『生きて』いると言えるのでしょうか。」


 つぶやくように発せられた彼の言葉は、とても優しく哀しげに響き、部屋のいたる所に、溶けるように吸いこまれていった。


 私はあえて何も言わず、彼の横顔を見つめた。


 目の前で天井を眺めている青年の瞳は、何かを求め、探し、迷っているような複雑な色をしていた。


 彼は、とても魅力のある青年だ。大人びた少年のような彼の顔には、落ち着いたグリーン・フレームの縁なし眼鏡が居心地が悪そうに座っている。


 天井を眺めていたのはどのくらいの時間だったのだろうか。彼は、そのつぶらな瞳をそっと原稿に戻した。


 私は、黙々と原稿のチェックをする担当者から目を離し、膝の上でうたた寝をする白猫をなでながら、絵画のような窓の外をぼんやりと眺めた。



『お前、幸せか?』



 私は窓の外を見たまま、喉の奥で、あの質問を白猫と自分に問い、答えを探した。


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