お味噌汁の中に水死体が浮いている
ホラー要素がありますので注意して下さい。
同僚の中島と行きつけの定食屋へ向かう。
会社の近くには老舗の定食屋があり、いつもそこで昼食を済ますのが日課だ。
ランチは一食600円。
ご飯と味噌汁はお替りし放題という、なんとも嬉しいサービスつき。
そのため、店は大繁盛。
早くいかないと席が取れないほど人でにぎわっている。
「今日は俺、メンチカツ定食にするわ。お前は?」
「俺は……ミックスフライにするよ。
すみませーん! 注文お願いしまーす!」
注文を済ませ、しばらく待っているとすぐに料理が運ばれてくる。
俺の目の前にミックスフライ定食が置かれた。
カラっとあがっていて、おいしそう。
香ばしい匂いが胃袋を刺激する。
そして何より炊き立てのお米とお味噌汁が……。
……え?
俺は目を疑った。
味噌汁の中に水死体が浮いているのだ。
それは小太りの中年男性だった。
うつぶせになって浮かんでいる。
「うわぁ、今日もうめぇなぁ!」
おいしそうにとんかつを頬張る中島。
彼にはこれが見えていないらしい。
いや……マジでどうした?
なんでおっさんが浮いてるの?
試しに箸でつついてみると、妙な触感が指先に伝わる。
間違いない。
これは現実に存在している。
俺だけに見える水死体だ。
こんなのが浮いている味噌汁を飲むことはできない。
とりあえず……他のものを食べよう。
俺は黙々と食事を続ける。
妙に冷静な自分が怖い。
こつん……。
白米をつついていたら、何かに箸がぶつかる。
嫌な予感がする。
俺は白米をかき分けて、その物体の正体を探った。
そこには……ステテコ姿のおっさんが埋まっていた。
おっさあああああああああん!
なんでだああああああ!
俺の白米返せよおおおおおおおおお!
「ん? どうした?」
中島が怪訝そうな表情を浮かべている。
何でもないと言いながら、白米を元に戻す。
もう……コメも食べられない。
もしかしたらだけど……。
ミックスフライ定食のカキフライに箸を入れた。
妙な感触。
やっぱり……これにも……。
俺はカキフライの衣を箸で開いた。
そこには……。
「なぁ……何かいいことでもあったのかよ?」
会社へ向かう、帰り道。
中島が不思議そうに尋ねてくる。
「味噌汁もご飯も残してただろ。
具合悪いんじゃないかって心配したよ」
「別に……むしろいいぐらいさ、すこぶる」
「そっ……そうか」
中島はどこか引き気味だ。
それにしても……おいしかったなぁ。
またあの定食屋へ行こう。
もう一度、アレを味わいたい。