目を覚ますと異世界だった
目を覚ますと、そこは見知らぬ部屋だった。
あれ、なんでこんなところにいるんだっけ……?
ぼんやりと寝る前のことをおもいだしながら、ゆっくりとベッドから起き上がり部屋をを見渡す。
ここはどこだ?
昨日俺何してたんだっけ。
「あっ!目が覚めたんですね!」
後ろからの声に思わず驚き振り返ると、そこには美少女がいた。
その美少女は積み上げられた本で転びそうになりながらも慌てて駆け寄ってくる。
「お願いです…どうかこの世界をお救い下さい!」
「………は?」
1度状況を整理しよう
まずはこの部屋だが、全体的に薄暗く埃っぽい。
よく見ると床や壁にいくつも魔法陣のようなものが書かれている。
次にこの美少女。
銀髪のボブヘア、ぱっちりと大きな青い瞳にまるで魔法使いの様なローブ。
さらにテンプレの様な助けを求めるお願い。
これらの要因から考えられる答えは……
「あなたは私たちを救うためにこの世界に召喚されたのです!」
考えをまとめている間に先に言われてしまった。
目を覚ました途端そこは異世界でした〜なんて現実感が無さ過ぎてどうにも実感が湧かないが、まずは…
「あの、まずは顔を洗ってきてもいいかな?」
蛇口をひねり水を出し顔を洗う。
水が冷たい。
頬をつねるとちゃんと痛みも感じる。
どうやらこれは夢ではないようだ。
しかし、異世界転生したということは俺は死んでしまったのか?
それに、異世界転生ものと言えば神様や女神様から特殊な能力を貰うのが定番だが…そんなものを貰った覚えはない。
これからどうすれば……
そんなことを考えていると、あることに気づいた。
俺ってこんな見た目だっけ?
髪も瞳も少し青い。
それに少しイケメンになったような気がする。
容姿が変わるのも異世界転生あるあるなのか…?
それに、見た目が変わったこと以外になにか違和感を覚える。
だけど、それの正体が分からない。
今は考えても仕方がない、まずは彼女の話を聞こう。
部屋に戻ると、彼女はまるで飼い主が帰りを待つ子犬のように目を輝かせていた。
俺がベッドに腰かけると彼女はコホンと咳払いをして、話し始める。
「長くの間この聖マストラ王国は隣国であるオルベンド帝国と対立関係にありましたが、今では和平が結ばれ平穏な日々が続いていました」
彼女は壁に貼られた世界地図を指しながら説明する。
やはり俺のいた世界では聞いたことがない国ばかりだ。
「ですが…突如として凶悪な魔物達を率いた魔王軍が侵攻を始めました。今も王国軍と帝国軍がその侵攻をなんとか食い止めていますが…それも長くは持ちません。そこで!どうかあなたにこの世界を救って頂きたいのです」
魔王が現れ、自分は勇者として退治に向かう…まさに王道ファンタジー的展開だ。
俺がこの世界に呼ばれた理由は分かった。
しかし……
「王国や帝国が戦ってるような相手に俺一人が力を貸したところで何とかなるとは思えないな」
それに対して彼女は得意げに答える。
「あなたには特別なスキルがあるのです!それを使えば魔王軍なんてあっという間にやっつけちゃいますよ!」
よかった、どうやら俺にもちゃんと特殊能力が備わっているようだ。
この身一つで戦いに駆り出されるなんてことになれば運動経験0の俺にとってはまさに地獄だ。
「あなたのスキルは"インヘリットメモリー"!これは他の異世界転生者から能力を貰うことが出来る能力です」
「能力を貰う……って、他にも転生者がいるの?!」
転生したのが俺だけだと思い込んでいたが、他にもいるなら心強い。
「ええ。もちろん何人か居ますよ!……多分」
先程とは打って変わって自信が無さそうな彼女の態度が気にかかった。
「多分?キミが転生者をこの世界に呼び出してるんじゃないの?」
「いえいえ!私にそんな力はありません」
どういうことだ?この子ではなく、他に俺たちをこの世界に転生させている神や女神がいるということだろうか。
それならこの子は一体何者なんだ…
「俺のスキルは他の人から能力を貰うって言ってたよね、それって渡した相手は力が使えなくなるの?」
「え〜っと…あなたのスキルが使える相手はすでに亡くなっている方だけなのでその心配はありません」
「……えっ」
人から能力を奪うのは泥棒のようで少し気が引けていたが、死者から奪うとなるとさらに悪いことをしているような気になる…。
ん?まてよ…
「そ…それじゃあ、その転生者を見つけるまで俺の能力って……」
「使えません……。で、でも大丈夫!!!ちゃんと力が得られそうな場所は何ヶ所か調べてるので!!!!大丈夫!!!!」
拝啓 父さん、母さん、俺はこの見知らぬ土地で一生を終えるかもしれま────
………ん?
俺の親ってどんな顔だったっけ?
その時、ずっと感じていた違和感の正体が分かった。
一部の記憶がすっぽりと消えている
大体のことは覚えているが、何かがどうしても思い出せない。
家族のことや昨日のこと、それよりもっと大事な何かが…
「あの〜…大丈夫ですか?」
つい黙り込んでしまった俺を心配して彼女が声をかける。
「すみません…あなたが来るまでにきちんと全部調べておこうとしたのですが、どうしても資料が足りなくて……」
どうやらスキルのことで俺が不安に思っていると勘違いしてるようだ。
確かに不安はあるが、こんな美少女に気を遣わせるわけにはいかない。
「あぁ、いや大丈夫だよ。それよりまだ自己紹介してなかった。俺の名前はネクト」
「ネクトさん!私はアリルネと言います。これからどうぞよろしくお願いします」
果たしてこんな俺が魔王軍を倒すような英雄になれるのか、はっきり言って自信はない。
それでも、失った記憶を取り戻すために。
なぜこの世界に呼ばれたのが俺だったのかを知るために。
何よりこんな美少女にお願いされたのだからやるしかない。
こうして俺は旅立つことを決意した。
優しく微笑むアリルネの笑顔は、俺にどこか懐かしさを感じさせた。
「マストラの山奥に強い反応!こりゃ間違いなく"鍵"だね、間違いない」
「そうか。準備をしろ、今すぐ向かうぞ」
「げげっ?!はぁ〜……あんたも人使いが荒いなぁ」
「全ては我らが王の為だ」
「へいへい、王サマのため、分かってますよ〜」