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白か黒か白と黒か  作者: 丑十八 higure
一章 動き始めた歯車のネ
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(肆)秘密之事

 耳に流れてくる音。流暢に、一つも噛まずにアナウンサーが読み上げる文章は、まるで清流のようだと思った。

「A-kaneさん、この件に関してはどうお考えですか?」

「そうですね。最近のIT業界にて、探心学代表のFockグループは広く知れ渡っている大企業ですから。この調子で更なる活躍に期待、といったトコロでしょうかァ」

 オレに向かって問い掛けられた質問に、少し考えるようにして台本と今の話題を再確認して想起する。台本に少し載っていた件だったので、事前に或る程度決めておいた文言を、なるべくはきはきと伝えた。

 そうだ。ココはテレビ局のスタジオ。今は生放送中だった、とふと再度認識し直した。オレは今、アイドル・A-kaneとして席に座らせていただいている。有難い話だ、ニュース番組のゲストとして呼んでもらえるとは。普段はそんなものは見ないが、生放送にお邪魔すると意外と面白いものだ。

 アナウンサーが次の題目へ移る。確か次は……とオレが思い返す前に、彼は企画名を振ってくれた。

 明るい話題を特集する恒例のコーナー。専属のアナウンサーに切り替わると、彼女は話し出した。

「今回特集するのは、魔力についてです! 皆さん、御自分が魔力保持者かどうか、何属性魔力の保持者か、ちゃんと把握していますか?」

 語り掛けるように話す彼女。自然に頷いてしまうのが単純に凄いと感じた。

「知らない人が居ても可笑しくはありません。魔力を持っていても発現していない可能性もあります。健康診断等に行ったり血液検査をしたら直ぐに分かることですが、中々行くのにも手間が掛かる……。ということで本日は、簡単にできる魔力判別法を特集しました!」

 出演者が皆で拍手をして盛り上げる。彼女は素敵な笑顔を浮かべつつ、次に移った。

「先ず、魔力についてご説明します。魔力というのは魔力保持者の体内に常に存在する物質で、心臓の隣にある魔力臓で生成され、血液中に混じり全身を回ります。また、魔力は保持者の意思で固体・液体・気体の状態に変化します。魔力は体外に放出することが可能で、その魔力で創り出された何らかの効果を生じさせるもの、それが魔法と呼ばれています」

 オレはワイプに映る可能性も鑑みて頷く。彼女が話しているのは基礎中の基礎の情報だ。逆に知らないことすら有り得る。

「魔力にも種類があり、無・焱・湖・森・光・闇の六属性です。それぞれ効果や状態が異なり、無属性魔力は唯一状態変化がありません。その他、五属性の状態についてはここに纏めましたので、御覧ください」

 テレビの画面上に分かり易く作られた表が映し出された。

 オレは無論、焱属性魔力の保持者だ。焱の魔力は、気体では火・液体では岩漿(マグマ)・固体では鉄になる。

 また、その他の魔力について見てみる。見れば見るほど、この表の見易さが分かって、その凄さに感動すら覚えた。

 湖の魔力は水の状態変化と何一つ変わらない。

 森の魔力は、気体では胞子や花粉・液体では毒・固体では植物になる。

 光の魔力は、気体では光・液体ではゲル・固体ではガラスになる。

 闇の魔力は、気体では闇・液体ではスライム・固体ではブラックダイヤになる。

「それでは、早速判別法の手順を一緒に見ていきましょう」

 確か、この後に手順の説明が入り、アナウンサーとオレと他のパーソナリティタレントが行うという段取りだったな、と確認して、再度彼女の話に耳を傾けた。


 後日、オレはマールムの地下にある戦闘訓練場に居た。隣には青髪、蒼も居る。

「……へぇ〜、そんなのがあるんだねぇ」

 オレが先日の魔力判別法の話を終えると、蒼は何度も頷いた。

「本気を出すと一発で守り人だとばれちまうからなァ、そのトキは本気を出せず、大分加減したァ。だがなァ、少し気になってよォ。本気でやったらどうなんのかッてェ」

「確かに気になるかもぉ! でもでも、何でボクも呼んだのぉ?」

 蒼の疑問は尤もだ。オレは渋りながら答える。

「……一人で試すとなると、少し寂しかったからなァ。アト、単純な疑問と興味だァ。オマエもやったらどうなるのかなッてよォ」

 蒼はニヤニヤしながらオレの方を見ている。

「そっかぁ〜! じゃあ仕方無いねぇ〜!! ボクも気になるしぃ~?」

 蒼の顔はなるべく見ないようにして、オレは咳払いをした。

「ホラ、手順を説明するぞォ!! 良く聞いとけェ!」

 蒼が間延びする声で「は~い」と返答してきたので、記憶してきたものの一応手順を記してきた小さな紙切れをポケットから取り出して読み上げ始めた。ちゃんと折り畳んできたので皺は無かった。

「先ず紙を用意するゥ。持ってきたかァ?」

 蒼は頷きながら二枚の紙をひらつかせていたので、安心して話を進めた。

「次に、ソレを手で挟むゥ。なるべく強くだァ。そしたらァ、なるべく大声で長く好きなコトを叫ぶゥ! 何か歌を歌っても良いらしいぞォ」

 頷きながら聞いていた蒼だったが、オレの説明が区切りを迎えた途端、行動に移そうとする。そんな蒼をオレは急いで止めた。

「オイ、待てェ! 結果が分からねェままやってどうすんだァ! 今から教えるから、もう少し聞いてろォ」

 その声はどうにか届いたようで、蒼は「は〜い」と返してきた。

「焱属性魔力保持者の場合、紙が点々と焦げるゥ。湖属性魔力保持者の場合、紙が湿ったり水滴が付くんだってよォ。まァ、()()()魔力量の場合の話だがァ。実際、アナウンサーの方は紙がぽつぽつと濡れたァ。パーソナリティの方は四分の一くらい焦げていて、スタジオが盛り上がったぞォ。オレは負けたくねェから、半分焦がしたがァ」

 オレは話を終えた。これで説明すべきことは全て終えたろう。オレは仕事柄もあってせっかちなので、早速実行しようという心持ちだったが、蒼は違うようだった。

「他の魔力だとどうなるのぉ?」

「聞きたいのかァ?」

「うん〜!」

 大きく頷かれたので、オレは致し方無く説明を続行した。少し早口になっていたかもしれない。

「森属性魔力保持者の場合、紙に植物が生えるゥ。光属性魔力保持者の場合、紙の色が黄色に変色するゥ。闇属性魔力保持者の場合、紙の色が紫色に変色するゥ。無属性魔力保持者の場合、紙の形が変化するゥ。そして非魔力保持者の場合、紙には皺ができるゥ。以上だァ」

「へぇ〜!」

 蒼は明るい表情で何回も頷いていた。

「他の皆にもやらせたいねぇ〜! 何か面白そぉ!!」

「だなァ。確かに気になるゥ。またあとでやらせてみようぜェ」

 再度、蒼は頷いた。すると、蒼はうずうずして提案する。

「良し、じゃあ早速やろぉ? 茜もやるよねぇ?」

「あァ、モチロン。どうせだから、交代交代でやろうぜェ。何かデカい変化でもありゃ、二人同時だと分かりづれェからなァ」

「分かったぁ! じゃあ、茜が先ねぇ?」

 その提案は唐突だったが、特に問題は無いし、コイツの場合はいつものコトか、と思って、滞り無く了承した。

 先程、自分で説明した手順どおりに事を進める。先ずは紙を両手で強く挟むことだ。蒼から一枚紙を手に取ると、それを目一杯力を込めて挟んだ。

「次にィ……!」

 そう態と吐いて、腹の奥底まで酸素を吸い込んで蓄えると、次に、声帯を震わす。閉鎖した声帯から発せられた声という響きは、鼻腔の中で共鳴し、ようやく体外に放出された。同時に、目を瞑る。

 この空間は完璧な閉鎖空間なので、音が良く響いて気持ちが良い。自分の声もクリアに反射して聞こえる。ここも、意外とボイストレーニングをするのには適切な場所なのかもしれない、と全力で歌いながら思った。

 体がかなり温まった。矢張り、歌うのは気持ちが良い。ギターでもあれば、もっと気分がブチ上がっただろう。いつかここにギターを持ってきて、思い切り掻き鳴らしたいと強く望んだ。

 最後の一息さえも無駄にせず、声を乗せて吐き出し切った。心底気持ちが良く、満足し切った心持ちでゆっくり目蓋を開けると、そこには慌てふためく蒼の姿があった。周囲の音もようやく聞こえたので、矢張りオレは歌うという行為に魅入られていると感じて喜悦した。

 そんなことを考えている状況では無いことを直ぐに思い直す。蒼は慌てながら、白い無機質な床から噴き出す炎を避けていた。

「ハァ!? どうなってんだァ、こりゃァ!?」

 走りながら、蒼は必死に返答する。その間に強く合わせた掌を開くと、元の紙は影も形も無く、ただの黒い粉塵の塊と化していた。燃えれば、全て同じ物に帰すのだな、とまた余計なことを考えてしまうので、自分に苦笑した。

「こっちが知りたいよぉ~!! 良いから、早くどうにかしてよぉ~!! うわぁっ!」

 付近に火柱が立ち上ったので、蒼は飛び上がった。展開されてしまった魔法を急いで無力化しようと思ったが、そこで良い案を思いついたので、走る蒼に向かって提案した。必死なのだろうが、少し酷だがその姿がコミカルに見えてしまう。

「そうだァ。蒼、そのまま魔力判別法を試してみろォ! 確か、運動後や運動中でも大声を出すのと同等かそれ以上の効果があると言っていた気がするぜェ。要は心拍数を上げりゃ良いワケだからなァ」

「な、何で今なのぉ!? ……あ、そっかぁ! 分かったよ、試してみるぅ〜!!」

 ひいひい怯えながらも紙を取り出して、次に強く挟む。先程までと何も変わらずに走り続けているが、急に息を深くまで吸い込んだ。

「イカサン〜! 花林〜! 海ぃ! みんなぁ〜っ!!」

 急に叫ばれたので、オレは些か驚いて仰け反った。走りながら、最後の一息まで振り絞る蒼。すると唐突に、猛烈な豪雨が降り出した。当然ここは地下なので、本当の雨など降るわけが無い。この雨は、蒼の結果に間違い無かった。

 雨の勢いは正にバケツをひっくり返した様に喩えられるほど強く、服をぐっしょりと濡らした。同時に、段々と弱まってきたものの依然猛威を振るっていた火柱を、確実に沈静化していった。

 矢張り、オレの想像どおり。

「わぁ〜っ……! 凄いね、これぇ」

 蒼は、半ば他人事に雨を見上げて全身で受けていた。次第に収まっていく雨。床に溜まった水も、いつしか消えていった。

「フゥ……。すまねェな、蒼」

「良いんだよぉ〜! ちょっとびっくりしたけどぉ、何か面白かったぁ!」

 蒼の言葉に、コイツは本当に抜けていて天然でそれでいて良いヤツだ、と再認識した。

「ソレにしても、オレ達の魔力ッて凄ェんだなァ」

「うん〜、みたいだねぇ」

 そう会話はしてみたものの、些か他人事だという自覚が後から追いかけてきた。同時に、オレは他のことも強く思っていた。

「早く他の守り人にもやらせたいねぇ〜! 面白いことになりそう〜」

 どうやら蒼も同じことを思っていたようだ。コイツは花林にやらせる心算で居るらしいことは想像がつく。一方オレは、あの兄妹にもやらせよう、と思った。恐らく蒼もオレに任せる気で居る。

「……なァ、蒼。この後、空いてるかァ?」

 ふと思って訊くと、蒼は首を傾げてから答えた。女性的な長いポニーテールともみあげが振れる。

「え? うん〜、空いてるけどぉ。何かするのぉ?」

「あァ、丁度良いコトを思い出したァ」

 再度蒼が首を捻るので、オレは回答を示した。

「どうせこうやって集まってんだし、任務にでも行こうぜェ。ちゃっちゃか消化しちまわねェと面倒臭ェぞォ」

 蒼はそこまで言って、ようやく分かったようだ。ハッとした後に激しく首を縦に振る。

「そういえば、そうだねぇ! ボク達、二人でやる任務があったっけぇ。じゃ〜、早速行こぉ!」

 能天気に、提案したオレよりも先に両腕を広げて走り出す蒼に、オレは「オイ、待てよォ!」と焦りながら、急いで駆け出した。

 圧倒的な強さを誇る守り人。湖の悪魔と焱の悪魔は任務に赴く。


 次回「燃える湖、天に地に。」

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