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恋を発酵させて  作者: howari
4/9

デート

私は布団を頭に被りながら、指を滑らせスマホを触っていた。



「美沙ちゃん、明日卵屋さんとメガネ買いに行く事になった」

「え?あのイケメンの若者と?デートじゃん!」

「ただメガネを買いに行くだけなんだけどね。男の人と出かけるなんて久しぶり過ぎて緊張するよ〜どうしよう?」

「いいな〜頑張っておいで!また感想教えてね!」

「うん、頑張ってくるよ!おやすみ」

「おやすみ」



今からドキドキしてどうする?はぁ〜と深呼吸をしてスマホを置いた時、ピロンとまた音が鳴った。




「明日、11時に迎えに行くね」



あの爽やかな笑顔を思い出し、一気に顔が火照る。

少し時間が経つのを待ってから「ありがとう」と返事を返す。


冷えた掛け布団が頬に触ると少しだけ冷静になれた。

何を浮かれているんだろう。彼なんてきっと緊張なんてしていないだろう。ただメガネを壊してしまったから、一緒に買いに行くだけ。そして……私は後藤さんの事が好き。


そう思いながら、私はぎゅっと目を瞑った。






アパートの下で卵屋さんを待っていた。今日はだいぶ前に使っていたコンタクトをはめていた。はーっと吐く息が白くて、冷えた手のひらにはーっとまた息を吐く。その時プップッとクラクションが聞こえ、頭を上げた。



道路の向こう側に〝後藤商店〟と書かれた軽トラが止まっていて、運転席の窓から手を振っている卵屋さんが見える。私服だからか全然雰囲気が違う。

私は急いで助手席側へ回り、ドアを開けた。



「ありがとう」


「ごめん、軽トラしかあいてなくてさ」


「うん、大丈夫」


「よし、出発しよう」



彼はネイビーのパーカーにベージュのチノパン、濃いグレーのダウンを着ていた。すらっとした彼に良く似合っていてかっこいい。今の若い子たちはこんなファッションをするんだなーなんて事を思う。



「どこでメガネ買う?」


「分かんないから、どこか安い所で」


「僕はいつもコンタクトなんだけど、メガネも持ってて、いつも買ってる所でもいい?」


「うん、卵屋さんのおすすめのお店でいいよ」



私の返答を聞いた後、彼がくすくすと笑い出した。

え?私、変な事言ったかしら?



「その卵屋さんやめない?」


「え?」


「隼人でいいよ」


「え……じゃあ隼人くんで」


「じゃあ僕は利香さんて呼んでいい?」



え?!利香さん?男の人から下の名前で呼ばれるのは久しぶりだ。なんか恥ずかしい。



「い、いいけど」


「よし、決まり」



隼人くんは初めて会った時から話しやすい感じがしていた。年が離れているから話が合わないかと思っていたけど、そんな心配はなく話が尽きる事がないままメガネ屋へと到着した。




たくさんのフレームがあり、どれがいいのか分からなかった。今のメガネフレームは本当に種類が多い。とりあえず見えればいいから安いのでいい。


隼人くんは仲の良い店員さんと話をしている。たぶん私たちは親子に見えるんだろうな。母のメガネを探しに息子が着いて来てるみたいな。

隼人くんがこっち、こっちと手招きをしているのが見える。


その店員さんにペコッと頭を下げ、何?と隼人くんに尋ねる。近くにあったメガネを取って突然はめられる。



「あ、やっぱこれ似合う!」


鏡で見ると、少し丸い形の細いワイヤーフレームの端にべっ甲の飾りが付いているオシャレなメガネだ。


「人気の形でお似合いですよ」


「こ、これでお願いします」



似合うだなんて言われて恥ずかくて、顔がボッと赤面するのが分かった。似合うなんて自分じゃ分からないし、店員さんも人気と言っているからこれでいっか。



レンズの調整をして、一時間ほどしたら出来上がった。

コンタクトを外してしまったので、今日はそのメガネをして帰る事にした。 




「お会計35000円になります」


「え?!」


「はい、これで」



隼人くんが何の躊躇いもなく、自分の財布からお金を出している。え?高いやつだったんだ!値段を見なかったから。ここで騒ぐのはやめて後で返そう、そう思ってお店を後にした。店員さん達には、息子が母のプレゼントにメガネを買ってあげているという光景にきっと見えただろう。



「隼人くん、ありがと!お金返すから、あ、今日そんなに持ってないから、今度……」


「あ、いいよ。プレゼントするつもりだったし」


「え?だめ!こんなに高いの!困る!」


「じゃあ、お昼奢ってよ!この近くにベーカリーカフェがあって、パン好きだよね?」


「好きだけど……お昼奢るだけじゃ……」



こんな高いメガネ、プレゼントで貰っても困るよ。でも、今そんなにお金持ってないし……どうしよう?お昼代だけじゃ足りないよ。

私はずーっと車の中で悩んでいた。「着いたよ」と彼が車を停め、私は仕方なく車を降りた。



ログハウスの様な可愛いベーカリーカフェが見える。懐かしいパンのいい香りが鼻腔をくすぐる。




その時、彼が私に向かって左手をひらひらと伸ばしている。





「これで許してあげる」




その笑顔は少し照れ臭そうで、可愛くて、私の胸をキュンとさせた。私は熱くなった右手を伸ばし、その大きな手のひらを包み込む様にぎゅっと握った。

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