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オカルトカルト!  作者: シクル


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7/10

カルト7「魔女、自撮りにキレる! の巻」

 グズるエリスを何とか連れ出し、僕はひとまず自宅へと撤退する。とりあえずエリスはベッドの上に座らせたが、まだ引きずっているようで表情が浮かない。コメントし辛いからこのまま流してしまいたいが、現状を相談出来るのは彼女だけだ。

 そして怪裏々に蹴られまくったせいでメチャクチャ痛い僕の背中に湿布を貼れるのも、今は彼女だけだ。

「エリス……なあ、エリス」

「うああ……」

「……なあ、怪裏々」

「いいえ……」

 母音だけだと微妙に判別し辛いな。

「エリス、気持ちはわかるけどいつまでも下向いてたって仕方がないだろ? 前は無理に向かなくて良いからさ、せめて横向いてみろよ、僕がいるぜ」

 右隣に座ってそう言ってやると即座に左を向かれた。

「そっちに僕はいないぜ」

「何でや!」

「ぼ、僕が右隣に座ったからだよぅ……」

「ちゃうわ! 何で藍ちゃんはウチのこと見捨てたんやぁ……!」

「えぇ……知らんよ……」

 僕はちょっとその件についてはコメントに困るからスルーしたいな……。いやでもこういう多様性は大事にしていきたい。でもそれとコメント出来るかはまた別だと思うんだよ。なんか適当なこと言いたくないし。

「……そもそもどのくらいの仲だったんだよ」

 とは言えこのまま放っておくわけにもいかない。とりあえず気にはなっていた部分を口にして見ると、エリスはやっと僕の方を向いた。

「仲良し……」

「ぐ、具体性がない……」

「めっちゃ仲良しやってん……」

「エピソードとか話してもらえる?」

「ちゅーした……」

「存外ガチだった!」

 もっとこうエリスの誤解とかあるかなと思ったんだけど、結構お互い本気だったらしい。そう言えば裁人も別に遊びではなかったって言ってたしな。

「そっか……裁人もほんとに遊びではなかったんだな……」

「うん……」

「僕としても二人には仲良しに戻ってもらいたいと思うんだけど、まずは邪神を止めないといけないと思うんだよ。でもそれは僕だけじゃ出来ない」

「何でや!」

「ぼ、ぼぼっ……僕クソ雑魚だかりゃ……」

「ほんまにな……」

 全然フォローしてくれないし事実だし段々泣きたくなってきた。

 僕ほんとどうしようもないくらい弱っちいしマジで一人じゃ何にも出来ない。一体僕って何なんだ……? 僕に何が出来るんだよ……。

「う、うおお……おおん……」

「駆人くん……?」

「うええ……クソ雑魚でごめんよぉ……」

 さっきの戦いのことを思い出してあまりの情けなさに泣き出す僕であった。



「駆人くん……なあ、駆人くん」

「うああ……」

 エリスの横に座ったまま泣き出した僕の背中をエリスが優しくさする。さっきまでとは立場が逆転してしまったが、エリスはとりあえず落ち着いたように感じる。

「いやその、私も無理させて悪かった。さっきまで散々グズっておいてなんだが、今は今後どうするかを話し合おう」

「うん……。とりあえず着替えてきて良い?」

「うむ。破廉恥を押し付けてすまなかった。落ち着ける服装に着替えてきてくれ」

 この修道服は修道服で気に入ってたけど、やっぱり部屋にいる時はルームウェアの方が落ち着ける。僕はすぐにセーラー服に着替えてエリスの隣に座り直した。

「……膝上スカートは破廉恥ではないのか?」

「論点がそこになってる辺りエリス僕慣れ早いな」

「すまないがちょっとコメントし辛いんだ。好きでやっているのだろうし否定はしたくないし、適当なことも言いたくないのでな」

「僕と同じ思考だ……」

「……そもそもセーラー服はどのくらい好きなんだ?」

「ちゅーした!」

「存外キモかったな……」

「そんなことよりちゃんと話し合おうぜ」

 僕の提案に心底不服そうだったものの、エリスはとりあえず頷いてくれる。

「とは言え、ここまで来てしまうと私にもどうしたものか……」

「だよなぁ……。怪裏々であれだけ強いんなら、邪神はもっと強いんだろ? 毒手も効くかわかんないし、戦うのは無理じゃないか?」

「そうだな……。そもそもデル・ゲルドラは得体が知れん。藍ちゃ……魔女が本当にアレと結婚出来るかもわからんな」

 裁人は本気で結婚する気みたいだし、邪神は邪神でやけに紳士だったりするし、案外何とかなりそうな気もする。結婚自体は。

 問題なのは邪神が世界を滅ぼす、という点だ。

「僕は結婚自体はそんなにない話じゃないと思う。紳士だしむしろ僕が嫁ぎたいくらいでもある」

「駆人くん、どうしても気になるから聞いておきたいんだが君はその……そういうアレなのか?」

「いや? 女の子とえっちしてえよ? してくれるのか?」

「せんわアホ」

 あともうちょいだったな。

「でもさ、紳士で強大な邪神に嫁ぐのって結構アリなんじゃないか? 愛されれば僕安泰だし、何より世界の滅亡を防げるし」

「理想ではあるがな……。やはり完全に顕現する前に止める必要がある。まだ時間の猶予は少しだけあるハズだ」

 邪神はまだ完全に顕現したわけではない。ほとんどの部分が部室に現れてはいたが、肝心の頭が出てきていない。エリスの言う通り、儀式そのものを止めればまだ間に合うかも知れない。

「あ、そういえば湿布貼ってもらって良い?」

「……ん、ああ。わかった、持ってきてくれ」

 薬箱を持ってきて湿布を渡すと、エリスは快く僕の背中に湿布を貼り始める。怪裏々のたわしみたいな感触の触手と違ってひんやり感が気持ち良い。

「明日招待状を送ると言っていたな……。ということは一晩くらいは猶予があるのかも知れないな」

「あっ……! そうだ……なっ……! 今夜は……んんっ……! 一応休める……かもっっ……な……」

「…………。私もあの汚泥との戦いで消耗しているし、少し考える時間が欲しいところではある」

「やっ……そこはぁぁ……っんっ! そう、だな……僕……もぉぉぉっ! そう、思うぅ……」

「駆人くん、何かおかしいとは思わんのか」

「あぁっん……!」

「今何も貼ってないぞ」

「ごめんちょっと楽しくなってきて……」

 ふざけてる場合かって怒られるかと思ったけど、エリスが後ろで小さく笑みをこぼすのが聞こえてくる。

「……ありがとう、少し気が抜けたよ」

 セーラー服の裾を丁寧におろしつつ、エリスはそう言って穏やかに微笑む。特に何か考えてやってたわけじゃないけど、何だか僕も安心して微笑んだ。

「さてと……私はひとまず帰るとするかな。明日の学校がどうなるのかもわからない」

「そうだな……。っていうかあの魔法陣、騒ぎになってねーのかな」

 変な地震も一緒に起こってるし、あの魔法陣だって僕ら以外に気づいている人がいるかも知れない。そう思って携帯から色々調べてみたけど、誰も話題にはしていないようだった。テレビをつけても魔法陣のことはおろか、地震の速報すらない。

「妙だな……まるで私達だけ狐か何かに化かされているような気分だ」

「ほんとにそうだと良いんだけどな……あ、なんか来た」

 調べている間に、ふと携帯にメッセージが届く。すぐに開いて確認すると、我らがオカ研部室の写真が添付されていた。

「……裁人だ」

「何!?」

 部室の中央に机と鍋が置かれており、それを囲むようにして座る裁人達の写真だ。それぞれがピースしており、鍋の中からは新たなスワンプくんが顔を出してピースしている。そしてその周囲には邪神の各部位が写り込んでおり、さっきの現象が白昼夢でも何でもないことを思い知らせてきた。

「こ、こいつ煽ってやがる……僕らを鍋パからハブって煽ってやがるんだ……」

「いや、そこよりもあの毒性の怪物が増えていることの方がまずくないか?」

「エリス! 鍋パしよ鍋パ! 僕らも仲良ししようぜ!」

「……いや、今日は帰らせてくれ。休みたい」

「あ、うん……」

 僕の鍋パをしたいという思いは叶わず、エリスは連絡先だけ交換するとそのまま帰宅してしまう。

 丁度そのタイミングで裁人からメッセージが届き、また煽られてイラッとした僕は撮り下ろしの自撮りを送りつけてそのまま携帯を放置した。

 僕のえっちな写真を堪能するが良い。





 翌朝携帯を見ると、大量に届いている裁人からの罵倒メッセージの通知に紛れてエリスからの着信通知を見つけた。かけてきたのはわりとついさっきのようで、つまり裁人は昨日の夜中だけでなく今朝も起きるなり罵倒メッセージを送ってきていたということになる。僕のえっちな写真が相当気に入ったようだ。

 とりあえずエリスにかけ直すと、数秒としない内にエリスの声が聞こえてくる。

「駆人くん! 大変だ! 君の家の傍のコンビニで待っているから今すぐ来てくれ!」

「え、あ、うん……エリス学校は?」

「ええから来んかいこのタコ! 大体電話くらい一回で出ろや寝坊助か!?」

「は、はいぃ……」

 エリス段々僕に対して素でキレるようになってきたな。



 慌てて着替えて(勿論普段の男子制服)外へ出てコンビニへ向かうと、すぐに僕も異変に気がついた。

「な、何だあのポップ……」

 コンビニの入り口に貼られた「裁人藍だけ無料」のポップに唖然としていると、すぐに店の中からいつもの格好のエリスが出てくる。

「来たか……早かったな」

「怖かったからな……。エリスって実は怒りっぽい?」

「それより見たかあのポップを。そこら中の店に当たり前のように貼り付けてある」

「そこら中って……他の店にもあるのかよあのふざけたポップ」

 それよりでさらっと流されてしまったが、話題が話題なので僕もそっちに食いついてしまう。

「その上学校も休みでな……。そっちの学校はどうだ?」

 話をしている内に僕の携帯にクラスメイトから着信が来る。出るとどうやら連絡網だったようで、今日の学校が休みになったということを伝えられた。

「……連絡網か?」

「ああ……。あと最後に邪神デル・ゲルドラ様を讃えよって言われた」

「やはりな……」

「やはりって……エリスも言われたのか?」

「言われたよ。おまけにここに来るまでの間道行く人ほぼ全てに同じことを言われた」

「えぇ……」

 試しにコンビニに入って適当にガムを買ってみたが、やはり最後に邪神デル・ゲルドラ様を讃えよ、と言われた。

「あの……マジで讃えてます?」

「ありがとうございました。またお讃えくださいませ」

 駄目だ。目も虚ろだし何言ってるかわからない。何だか薄気味悪くなって慌てて店を出ると、店内のスタッフ全員が僕の背中に「またお讃えくださいませ」を投げつけてくる。

「どうだった駆人くん」

「異世界に迷い込んだ気分だった……」

 このコンビニはいつも通っている場所で、大体の店員の顔は覚えている。さっきレジをやってくれた店員だってほぼ毎日見る顔だった。

 知っている人のハズなのに、普段のその人からは考えられないような言動が自然に脈絡なく飛び出すのは気味が悪い。まるでパラレルワールドだ。

「気持ち悪いな……裁人が何かしたのか?」

「さあな……直接確かめる必要があるだろう」

「……わかった」

 エリスの言葉に頷いて、僕はすぐに携帯を取り出す。相変わらず裁人からの罵倒メッセージが何通も届いており、お礼にもう一枚自撮りを送ってやりたい気分になる。

 裁人の携帯に電話をかけて待つこと数十秒。裁人は電話に出るなり力いっぱい死ね! と怒号を飛ばしてきた。

「ふ、いきなり死ねとはご挨拶だな裁人」

『死ね!』

「まあいきなりえっちな写真を送って悪かったよ。それより聞きたいことがある」

『死ね!』

「お前……この町の人達に何かしたのか?」

『死ね! 駆人死ね! 変態! セーラー服ボーイ! うんこ虫!』

「うんこ虫死なないもん! いいから答えろよ!」

『死ね!』

 このままでは埒が明かない。どうやらうんこ虫の言葉には聞く耳を持たないようなので、諦めて隣のエリスに電話を代わる。

「エリス、スピーカーで裁人の声流してくれ」

「……ああ。魔女よ、貴様一体この町に何をした?」

『その声は谷中? まあ大体アンタのお察しの通りよ。この町は今、あの魔法陣の力で邪神様の支配下にあるわ……実は昨日の時点でね』

 昨日の時点……ということは、魔法陣が発動した時点でこの町はもうお讃えくださいませ状態だったということになる。

『アンタ達が何ともないってことは、あの時着てた変な衣装のせいでしょうね。まあ良いわ、アンタ達は普通に私達を祝福しなさい!』

「誰がするかよ! 町を元に戻せ!」

『死ね駆人ォ!』

 さ、殺意がブレない……!

「魔女! 関係ない人達を巻き込むな!」

『ふん、心配しなくたって誰も傷つけてないし生贄にもしてないわ。ただ邪神様を讃えるよう意識に刷り込んだだけよ。邪神様の力でね』

「傷つけなきゃ良いってモンじゃねえ! お前、人の心を捻じ曲げてるんだぞ!」

『駆人は死ね! 絶対殺す!』

「そうだ……他人の心を捻じ曲げて、それで祝ってもらってどうするんだ? こういうことは心から祝福されてこそじゃないのか?」

『そ、それは一理あるけど……でもこうしないと今日学校休みにならないし……』

 え、そんな理由?

『とにかく! もうじきデル・ゲルドラ様にはこの町の中央公園で顕現していただくわ! そこで式を挙げるから見に来なさい! 絶対来てね!』

 それだけ言って、裁人は一方的に電話を切ってしまう。エリスはしばらくプルプルと震えていたが、やがて何とか持ち直して拳を握りしめる。

「止めるぞ……駆人くん」

「ああ、だが待ってくれ。少しやることがある」

「何か策があるのか?」

「まあな。あと、裁人に僕の自撮りをもう一枚送る」

 数分後、死ね! だけのメッセージが百通くらい届いた。





 一度部屋に戻り、僕はエリスの用意してくれていた破廉恥スリット修道服へ着替える。怪裏々との戦いでは何の意味もなかったこの破廉恥だが、この後何が起こるのかわからない。着替え終わってすぐに、僕はエリスと共に中央公園に向かった。

「……エリス、裁人を止めた後、エリスはどうするんだ?」

「どうするとはどういうことだ?」

「裁人のことだよ。邪神の顕現を止めても、裁人の気持ちは変わらないかも知れない。っていうか、僕はそこまで変わらないんじゃないかと思う」

 邪神と結婚出来なかったとしても、それでエリスに気持ちが向くわけじゃない。こういうのには疎いから確かなことは言えないけど、そううまくはいかないんじゃないかと僕は思う。

「そう、だな……。まあ、そうだろうな」

 そう答えて、エリスは一度顔をうつむかせる。また泣き出してしまうのかとも思ったが、エリスはグッとこらえてから僕の方を見る。

「そん時はまた、色々一から考え直さんとな。下ばっか見てもしゃあないし、とりあえず横でも見るわ。そこにおってくれるんやろ? 駆人くんは」

「……ああ、右隣にな」

 お互いに微笑みあってから、僕らは中央公園へ向かって走り出す。しかしその入口に、不気味な人影が立っているのを見て一度足を止めた。

「怪裏々……じゃないな、あの体格は。なんか蠢いてるし」

 あのどろどろとした不定形な蠢きは……多分アイツだ。

「まずいな……奴には聖剣が一切通用しない」

「気になってたんだけどエリスって聖剣しか持ってないの?」

「聖剣しか持ってない」

 ピーキーだなぁ……。

 歩み寄っていくと、そいつは……スワンプくんは僕達に気づいてニヤリと顔を歪める。

「ガルドッヂジャン……マジ、ヴゲ……ボボボ……」

「あれ、なんかお前様子おかしくない?」

「ヴィヴァッ……ノンッ……ノンッ……ウォウッ」

 というか一回り大きくなってない……?

「……まさか!」

 ふと、昨日送られてきた写真を思い出す。鍋から飛び出していたもう一体のスワンプくん……恐らくあのスワンプくんは……

「お前……また合体したのか!?」

「ヴェ、ヴェーイ……ヴェイヴェヴェ……オー……アバーン……」

 ただでさえ毒手の効かないスワンプくんが強化されている。ってこれ……詰んでない?

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