カルト1「邪神招来! の巻」
「来たれ~~~~~~来たれ~~~~我が神デル・ゲルドラよ、今こそ御身を顕現しこの世に絶望と混沌をもたらしたまえ~~~~はぁ~~~~~来たれ~~~~~~~~~~」
僕の名前は大岡駆人、椅子に縛られた男子高校生だ。
「うぅ~~~~あぁ~~~~ああぁ~~~~ああえ~~~~~」
ここは僕の通う高校の部室棟の一室だ。全ての窓には黒いカーテンがかけられており、電気も切られているので部屋の角においてある蝋燭以外に明かりはない。
「はぁ~~~~~~んんっ! ん~~~~~来たれ~~~~~~」
「いぃいあえ~~~~~~~」
この二人のことは僕には全くわからない。さっきから来たれを繰り返しながら僕の周りをくるくる回りながら両手を上げてわけのわからないダンスを踊っている。正直この状況である程度正気を保っている辺り僕ははなから正気じゃなかったのかも知れない。
そんな狂気的な状態が続くこと数分、踊り疲れたのか二人は不意に動きを止めて膝に左手をついて右手を真っ直ぐに上げる。休憩が欲しい時のサインだ。知らんけど。
「来たれもうちょいいる?」
知らん。
「あうあ」
こいつは言語を持たないんだな。
「わかる、ちょっと今私ら信仰足んないよね、もうちょいいるね」
あうあの三文字に意味圧縮され過ぎだろ。
「うーあ」
「マイケル」
「むーあ」
僕を放ったらかしにしたまま遊ぶな。
「あの……」
マイケル・ムーアがよっぽど面白かったのか僕を放置したままケタケタ笑い始める二人の少女におずおずと声をかけると、まだ半笑いのまま二人は僕へ視線を集中させる。
「すんませんこれ何やってるんですかね」
「儀式」
あー、儀式ね。
ふざけろ!
事の起こりは三日前、僕が趣味でやっている女装が人にバレたところから始まる。
僕は現在一人暮らしでアパートから高校に通っている。実家を出て親の目から解放された僕は妙にハイになって、何か隠れた趣味を持とうとしていた。そこでうっかり目をつけてしまったのが女装だ。元々特別興味があったわけじゃないけど、あの何とも言えない背徳感とかそういう”ヤバさ”にどうしようもなく引かれたのである。
そうして通販を駆使して購入したセーラー服に心を踊らせ、僕は夜中に早速着込んで何をするでもなくウキウキしていた。
しかしその時僕は気づいていなかった。引っ越す時に横着して買った安いカーテンがアホみたいに薄いということに。
くるくる回転して意味もなくスカートをひらひらさせている僕の耳に、突如として窓をノックする音が聞こえる。あまりに唐突な音の乱入に肩をビクつかせながら窓に目をやると何かが窓に貼りついているのが見える。内側からでもハッキリと見える、ワンピースと長い髪、これだけシルエットがハッキリするということはマジでカーテンが薄いのである。
気のせいだろと思って目をそらすと再び窓がノックされる。そのまま無視してるとどんどんノックの勢いが増していく……というか身体をぶつけ始めていた。うわ窓に窓に。
ていうかこの人ベランダ乗り越えて入ってきたのかよマジでやべえ。
この時僕はまだ、何とかやり過ごそうとしていたせいでとんでもない浅知恵から出てきたアホみたいな対策に出てしまう。
「きゃーえっち!」
ガラスが割れんばかりの勢いで窓をどつかれた。僕の裏声ではダメだったか。
「開けなさい」
窓越しにくぐもった声でそう指示され、僕は渋々了承して窓を開ける。えっちな風が僕のスカートをちょっとめくってとんだToLOVEるだ。
ベランダにいたのは、ちょっと勝ち気な顔つきの少女だった。染めているのか若干緑がかった黒髪(ダークグリーン的な感じ)のロングヘアで、背は高くスラッとしていて真っ黒なワンピースと魔女然とした黒いとんがり帽子がよく似合っている。
「明日放課後部室棟前に来なさい。来なければ今日のことを昼の放送で言うわ」
「いやちょっと待っ――」
僕が言い終わらない内に、彼女は変な跳躍力でベランダを飛び越えてそのまま走り去ってしまう。ベランダに出てその背中を見つめてはいたが、セーラー服のままなので追いかけることは出来なかった。
よく考えたら通報すれば僕の勝ちだった。
そして素直に部室棟の前に現れた僕を彼女は――――裁人藍は容赦なく部室へ連行し――――
「わけのわからん儀式の供物にするために椅子に縛り付けたわけだ」
「そういう考え方もあるっちゃあるわね」
「他の考え方の一例を言ってみろ」
「ケンシロウ……」
「誰が僕の名前を言えと言った」
「あのね、ジャギだかなんだか知らないけど」
「いや違う、僕が悪かった。僕はジャギじゃない」
「デル・ゲルドラ様招来の儀式を捕まえてわけのわからん儀式とはとんでもない言い草ね! 信仰が足りないわ信仰が!」
「信仰も何も僕はそのデルなんとかのことなんざ微塵も知らねえよ!」
「違うデルなんとかじゃない! デル・ゲルドラ様よ! 何度も間違えないで!」
「えぇ……僕まだ一回しか言ってない……」
「一回だけなら間違えても良いとでも思ってんの!?」
「た、確かに……」
まずいこのままでは丸め込まれてしまうぞ。
「いや待て丸め込まれてたまるか! こんなわけわかんねー目に遭わせやがって!」
「まあそう言わず……」
こいつ……急に柔らかい対応を……。
なんとかこの場から逃げ出したいが縛られている上に部屋は真っ暗。このままでは部屋の中すら満足に確認出来ない。
「とにかく電気をつけるかカーテンを開けてくれ、僕は暗所恐怖症なんだ。はやくしないと恐怖のあまり糞尿を撒き散らすぞ、僕は最近下痢気味なんだ」
「く……卑劣な脅しを……!」
プライドをかなぐり捨てた僕の脅しが効いたのか、裁人は渋々部屋の電気をつける。白い光が部屋を照らし出し、文字通り闇に包まれていた部屋の全貌を曝け出す。
部屋の四角には冒頭で述べた通り蝋燭。後は端に寄せられた本棚と長机、ホワイトボードがあるばかりでどちらかというと殺風景な部屋だった。足元を見るとリノリウムの床になんだかよくわからない魔法陣が描かれており、僕の生贄感が尋常じゃない。
「さあケンシロウ、私達の休憩が終わったら儀式の続きをするわよ」
「ジャギだぞ」
「さあジャギ、私達の休憩が終わったら儀式の続きをするわよ」
「ごめん僕ジャギじゃないよぅ……」
「……忙しいやつね」
迂闊な発言が僕という存在を曖昧にしていく……。
「とにかくこんな儀式やめてくれ! 僕だって生きてるんだぞ!」
「嫌だと言ったら?」
「……僕の財布の半分をやろう」
「アンタの財布千円しかなかったじゃない。ハッタリかますならもっとうまくやることね」
道理でズボンのポケットが寂しいと思ったら縛るついでにスられていた。裁人が目の前で僕の財布をひらひらと見せつけてくるのが非常に腹立たしい。
「ま、別に財布が欲しいわけじゃないから後で返すわね。私達が欲しいのは一定以上の知能を持つ生き物よ」
「いや待て、それなら猿とかじゃダメなのか!? ほら猿って賢いだろ!? いやむしろ僕より賢いかも知れない。どうだろう、僕って猿以下の知能じゃないかな!?」
「プライドが猿以下なのはわかるけど、猿じゃちょっと微妙だったのよね」
「畜生! 僕の同胞を供物にしやがったのか! 許さねえウキー!」
「うっさい猿!」
この女これみよがしに僕の長財布で引っ叩きやがった。思わず涙出てきた。
「ていうか猿は試してもないわよ。『邪神王誕生』によるとやっぱり人間くらいが丁度良いみたい」
「勇者王みたいな生まれ方しやがって」
ダメだこの女正気じゃない。デル・ゲルドラとやらを復活させるためなら、本当に僕を供物にするのも厭わない気だ。隣の少女なんか奇怪な笑い声を上げている。
「ゲッゲッゲッ」
やばいだろあいつ。
「そもそも何なんだよお前ら! 一体何者なんだ!」
「私? 私は三年でこのオカルト同好会ことデル・ゲルドラ教の教祖の裁人藍……って私のことはもう話したでしょ。そんでこっちは小豪寺怪裏々《しょうごうじけりり》」
「あっあー」
事態の更なる混乱を招く新情報をしこたまぶつけられた。
この小豪寺怪裏々という少女、一見小学生くらいにも見える華奢な体躯に銀髪のツインテール、日本の一般的な高校にはあまりにも似つかわしくない。おまけに日本語はおろかまともな言語を話さない。
「さあこれでもうわかったでしょ。はい儀式やります」
「あ、こら待てもうちょっと命乞いさせろ」
「もう結構したでしょ」
「いやまだだ、僕の交渉は手持ちのカードを全部切ってからが本番なんだよ」
返事もしないで電気を消された。ダメだ逆転出来ない。
「は~~~~~来たれ~~~~~~~~~」
再び開始される異様な儀式。裁人も怪裏々も先程と同じように僕の周囲を回り始め、僕の精神力をガリガリと削り始めた。
「待てー! 嫌だ! まだ死にたくない! 父さん! 母さん! セーラー服ー!」
「来たれ~~~~来た……セーラー服!? 本気で言ってる!?」
「しまった幼馴染と間違えた!」
「最悪でしょアンタ!」
うるせえ人を供物にするカルト教団の教祖にだけは言われたくねえ。
「ていうかそんなに嫌がることないでしょ! 死にゃしないわよ!」
「はぁ!? 死ぬだろ供物死ぬだろ! ばーかお前僕が国語出来ないと思ってんだろばーーーか! 供物知ってますー! 死にますー!」
「供物? あ、そうか私――」
そんな会話をしていると、裁人が言葉を言い切らない内に僕の背後で眩い光が発せられる。まずい、もう儀式は終わってしまったのか!
しかし何で背後に……? と訝しんでいる余裕もなく、不意に僕は心臓を鷲掴みにされているかのような感覚に陥る。ギリギリと心臓が締め上げられるような苦痛を覚え、額や縛られた手足から脂汗が滲み出る。おまけに暗所だ、下手すると本当に糞尿を撒き散らしかねない。
とにかくとんでもない圧迫感が背後から僕を威圧する。
「あ、ああぁ……ああああ……!」
震えが止まらない。汗と涙と恐怖で顔が滅茶苦茶になっていく。来る……来る……後ろから来る! 形容し難い悍ましい気配が来る! 食べられるだとか、そんな簡単な話じゃない。恐怖のあまり暴れ出す僕を、縄は離してはくれない。必死に身体を揺らしたせいで椅子ごと倒れ、僕は鼻っ柱をリノリウムに派手にぶつけた。
「あああああああ! ああああああ! 嫌だああああああああ! 助けて! 助けて!」
ぶつけた鼻が熱い。確認しなくてもわかる、出血だ。
しかしもがけどもがけど縄と椅子からは逃れられない。そのまま無限にも思える時間もがき続けた後、中々背後から悍ましい気配が近づいて来ないことに気づいて少しだけ冷静になる。ぐちゃぐちゃの顔を上げて見ると、ほくそ笑んでいるのかと思った裁人と怪裏々はポカンと口を開けていた。
「え!? え!? 何!? 何その顔!?」
とにかくチャンスだと思って暴れていると、緩みつつあったのか縄が解ける。すぐに僕は出口に向かって駆け出したけど、その首には裁人のラリアットが食い込んだ。
「ぉぇぐッ」
多分今のが一番死にかけた。
「何すンだよ!」
「後ろ見なさい!」
「嫌だ怖い! もう漏れそう!」
「……先にうんこしてきていいから」
「あ、ほんと?」
実は結構我慢してたし今のラリアットでやばかった――――トイレ行って良いのか!? 供物だぞ僕。
恐る恐る振り向いて見ると、そこには一本の腕が生えていた。
僕が唖然として腕を見つめていると、裁人が部屋の電気をつける。改めて見ても腕だったし、腕の生えている根本にも魔法陣が書いてあった。
腕は確かに禍々しいオーラを放ってはいるが、先程感じた程の威圧感はない。というかよくみると僕がさっきまで縛られていた場所から見て背後に怪裏々が立っているので下手したらあいつの放った悍ましさなのかも知れない。とにかく腕は思いの外怖くない。人間より二回り程大きなその腕は、確かめるように手を握ったり開いたりを繰り返している。
「あ、アレは……!?」
「デル・ゲルドラ様のお手てよ」
「お手て」
「どうやら昨日の予行演習の時に書いた小さめの魔法陣の方に招来したみたいね」
「招来事故じゃん」
予め消しとけ。
「やっべこれミスったわ……」
良かったバカだ。
「あ、あいー……」
裁人が頭を抱えていると、少し気まずそうな表情で怪裏々が歩み寄って来る。
「何? どうしたの?」
「いええあ……おおお……あいっ! あいっ……おえ」
「そ、そもそも魔力不足だったですって……!?」
何で会話出来るのか全然わかんないんだけどもう突っ込むのもめんどくさくなってきた。
そうやって僕が思考を放棄しようとしていると、突如お手ては何かを探すようにその場で暴れ始める。床にビッタンビッタン何度も手のひらをぶつけており、その暴れっぷりは尋常ではない。
「あれ怒ってね?」
「おこかも……」
「まずいんじゃない? 僕行こうか? 供物だし」
いや何を口走ってるんだ僕は。
「その必要はないわ……怪裏々!」
「アッ!!!!」
裁人が声を張り上げると、それに応えるように怪裏々が奇声を上げる。あいつは通常のリアクションが行えないのか。
怪裏々は素早く端の長机に駆け寄り、置かれているバッグからポリ袋を取り出す。ポリ袋の中には生臭そうな赤い物体……アレは恐らく生肉だ。怪裏々はポリ袋から生肉を取り出すと、すぐさまお手てへ振りかぶって……投げたー! 立ち上がりをものともしない美しい投球フォーム! 渾身のストレート……ストライクど真ん中! 邪神、邪神無事に捕球したーーー! これにはバッターひとたまりもない! そもそもいない! ていうか丁寧に渡せお前ら信仰心あんのか!
「よし」
「よしじゃない」
したり顔で腕を組んでいる裁人の監督面が地味にイラッとくる。
「ああっし!」
見事な投球に満足してガッツポーズを取る怪裏々。今のでSの発音も出来ることがわかった。
さてお手ての方はというと、生肉を確かめるように握りしめた後、突如手のひらに出現した口から丸呑みを始めた。やっぱり悍ましいのお手ての方だわグロい。
しばらくお手ては生肉をもぐもぐし(三十秒以上噛んでいたので消化に良い)、やがて満足したかのようにげっぷをして見せた。手から出るんだげっぷ。げっぷ出る・ゲルドラじゃん。
「供物ってこんな感じでよろしかったでしょうか?」
いやに丁寧に裁人が問うと、お手てはしばらくその動きを止める。それから数秒経った後、やがてお手ては力強くその場でサムズアップして見せた。ご満悦である。
「なあ今の肉って……」
「鯨肉よ。用意するのちょっと大変だったんだから」
「ちょっと待て! じゃあ供物って鯨肉だったのか!」
「そうよ」
「僕は!?」
「……あーそうそう、私言い間違えてたみたいね」
「……へ?」
ポカンと僕が口を開けていると、裁人はちょっとだけ申し訳なさそうな顔をしつつ僕に財布を突っ返してきた。
「ごめんごめんアンタは触媒。人間くらいの知能の触媒が必要なのよ招来って」
「お前とんでもない言い間違いしやがって!」
手だけとは言え邪神は招来してしまったが、とりあえず僕は生き延びられたらしかった。
とりあえずお手ての方は満足しているようだし、今はひとまず安心して良いのかも知れない。怪裏々が奇声を上げながらお手てにお祈りしてるのは見なかったことにしたい。
アイツなんなのマジで怖いんだけど。
「はい」
僕が怪裏々からなるべく目を背けようとしていると、裁人は不意に一枚のプリントを手渡してくる。
「おおロミオ、あなたはどうして脈絡がないの」
「何でアンタがジュリエットなのよ」
いやまあ女装とかするし。
「まあ良いわ。ロミオが命ずる、署名せよ」
「ロミジュリってそんなんだっけ」
ジュリエットは使い魔か何かかよ。
渡されたのはお察しの通り入部届けだ。うちの学校は部員数の足りない部活は「部」を名乗らせてもらえない規則だから、名前はオカルト同好会。オカルトなら手広く扱います的な看板掲げてその実邪神のカルトって詐欺にしたって酷すぎる。
「さっさと署名しないと令和のセーラー服ボーイとして学校中に紹介するわよ」
「やめろ僕に年号を背負わせるな重過ぎる」
僕ごときが令和を背負うなんて昭和や大正のセーラー服ボーイに申し訳が立たないだろ。
「……いや昭和以前のセーラー服ボーイは普通に海軍だし平成以降は海自だ」
「思考挟んでから言われても私わかんないからね」
「それはごめん」
しかしだからと言ってこんな真面目にやばい部に入部はしたくない。というか半端とは言え邪神が招来してしまっている以上、普通に人類の危機なのだ。今は平和に怪裏々とじゃんけんして遊んでいるがいつ暴れ出すか……いや何でじゃんけんしてんの。
「まあ別に入らないなら入らないでいいけどね」
「え、いいのマジで、お前案外神じゃん」
「ただまあゲルドラ様は『自身を崇拝する者』に対しては威厳を持ってわりかし良い感じに接するけどそれ以外には何するかわかんないわよ」
裁人がそう言った瞬間、お手てことゲルドラが僕の方を向く。いや腕だけだから向くも何もないんだけど、とにかくその手のひらを僕の方へ向けてくる。
「アンタ、信者よね?」
ゾッと寒気がした。裁人にではなく、ゲルドラにだ。
ついさっきまで鯨肉を咀嚼してサムズアップし、怪裏々とじゃんけんして遊んでいた平和そうな腕がとんでもない威圧感を放って来る。こうして僕が直立出来ていること自体不思議なレベルの威圧感だ。折角引いていた脂汗が再び滲み出るのがわかる。滲み出る・ゲルドラだ。
僕の今のクソみたいなジョークを読み取ったのか、ゲルドラの放つ威圧感は三割増しになった(当社比)。
「そ、それは……」
これは、これは世に放ってはならない。こいつを、世間に知らしめるわけにはいかない。信者としてではなく、一般人としての目線でこいつを知ってしまった以上、僕には義務がある。こいつを世界から、人類からなるべく遠ざけなければ!
「どうなのよ」
「おあぁ?」
裁人、怪裏々が僕に問いかけ、そしてそれに続いてゲルドラが床を叩く。もう迷っている暇はない。こうなった以上、僕が取るべき選択肢はたった一つだ。
「ぼ、僕は……」
額の脂汗を拭い、ゴクリと生唾を飲み込んで、僕は思い切り深呼吸してから口を開く。
「僕、信者! いやあ実は代々デル・ゲルドラ様を信仰する家系でね!? いつかお会いしたいなーーってかねてからずっと、ずっとね? 思ってたわけですよ! 光栄だなあほんと光栄! 光栄過ぎて? 後衛になっちゃった、テニスのね? 前衛お願いしても? なんちゃってね! ははーよろしくお願いしますぅ! あ! ハムとか食べます? 僕買ってきますけどぉ!」
信者になった。
これは、人類を脅かしかねない邪神デル・ゲルドラとその狂信者と僕の戦いの物語……かも知れない。いや知らんけど。