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第341話 愛している、リリス

カシリア様のお部屋。


ここは私達だけのお城。


誰の目も、ルールも、道徳でさえも届かない、甘くてとろけそうな密室。


私はカシリア様が用意してくださった服に着替えた。


肌触りのいいリネンのシャツ。


元はカシリア様のものだというそれは、私にはすごく大きくて、袖を通すと指先まですっぽりと隠れてしまう。


裾は太ももの真ん中くらいまであって、まるでドレスみたいだけれど、下には何も着ていない心細さが、逆に肌を敏感にさせる。


鏡の前に立ってみる。


そこに映る女の子からは、前みたいな悲壮な覚悟も、ピリピリした緊張感もすっかり消えていた。


ただ、穏やかで、少し恥ずかしそうで……そして、幸せいっぱいの顔をしていた。


自分のほっぺたに触れてみる。


指先から伝わってくる温かさは、生きている証拠だ。


お父様に抱きしめてもらい、お姉様に謝ってもらい、お母様にお別れを言った。


氷みたいにカチコチに凍っていた私の時間は、カシリア様という太陽と、家族という焚き火の温かさで溶かされて、また動き出したのだ。


ふわりと、鼻をくすぐるいい香り。


シャツから、カシリア様の匂いがする。


清潔な石鹸と、かすかなタバコ、そして男の人特有の力強い香りが混ざり合って、私の頭の中を甘くしびれさせる。


あぁ……カシリア様……


会いたい。


今すぐに、このあふれそうなほどの感謝と愛を伝えたい。


そう思った瞬間、後ろでドアが開く音がした。


「リリス……」


振り返ると、そこにはお仕事を終えたばかりのカシリア様が立っていた。


堅苦しい王太子の礼服をラフに着崩して、ネクタイをゆるめた姿。


その瞳が、私を見てピタリと止まる。


私は小走りで駆け寄って、彼の胸に飛び込んだ。


「おかえりなさいませ、カシリア様!」


ドン、と胸板にぶつかった。


私は顔を上げて、とびきりの笑顔を向けた。


計算も、お世辞も、演技もなにもない。


ただ純粋に、彼に会えた嬉しさだけを形にした、お花が咲くような笑顔。


「ふふ、このシャツ……やっぱり大きすぎますね。なんだか、子供みたいです」


私は長い袖を振ってみせた。


カシリア様は何も言わない。


ただ、熱っぽい視線で私の顔を、首すじを、そしてシャツの裾からのぞく素足を見つめている。


その瞳の奥で、何かが揺れて、ガラガラと崩れ落ちていくのがわかった。


「……リリス」


低くて、かすれた声。


カシリア様の腕が、私の腰にギュッと回される。


絶対に逃がさないと言うみたいに、強くて、きつく。


「お前は……本当に……」


彼は言葉を続けることができなかったのか、それとも言葉なんていらないと思ったのか。


そのまま顔を近づけて、私の唇をふさいだ。


「んっ……!」


挨拶がわりの軽いキスじゃない。


むさぼるような、喉の渇きを癒やすような、激しいキス。


カシリア様の舌が私のお口の中をかき回し、唾液を絡め取って、息を奪っていく。


私は背伸びをして、彼の首に腕を回してしがみついた。


シャツ越しに伝わってくる彼の手の熱さが、私の肌を焦がしそうなくらい熱い。


腰をなで上げられ、太ももを触られて、私は気持ちよさに声を漏らしてしまう。


「はぁ……っ、カシリア、さま……っ」


唇が離れると、銀色の糸がすーっと引いた。


カシリア様は荒い息を吐きながら、私の耳元に顔を埋めて、首すじに吸い付いた。


「……我慢、できない」


甘いささやきと一緒に、チクリと鋭い痛みが走る。


彼が私の肌に軽く歯を立てて、自分のものだという印をつけているのだ。


カシリア様の手が、シャツのボタンにかかる。


一つ、また一つと外されていくたびに、私の肌があらわになって、ひんやりとした空気に触れる。


けれど、すぐに彼の手のひらの熱さが、それをすっぽり覆い隠してくれる。


「お前が他の男……たとえ父親だとしても、他の誰かに心を向けている時間なんて、一秒たりとも惜しい」


「あっ……!」


シャツが肩からすべり落ちて、私は半裸の状態で彼にギュッと抱きすくめられた。


胸の先が彼の硬い服にこすれて、甘いしびれが全身を駆けめぐる。


「お前はオレのものだ。……髪の一本、吐息の一つまで」


カシリア様の瞳は、強い欲求と独占欲でとろけるように濁っていた。


それは怖いくらいの執着だったけれど、今の私には、それこそが最高のご褒美だった。


この人は、私の全部を欲しがってくれている。


傷ついた過去も、嫌な秘密も、全部まるごと受け止めて、愛してくれている。


「はい……カシリア様……」


私は彼のほっぺたに手を添えて、熱でうるんだ瞳で見つめ返した。


「私はあなたのものです。……心も、身体も、この命でさえも」


「リリス……!」


カシリア様はうなるように私の名前を呼んで、私をひょいっと抱き上げた。


視界がぐるんと回って、次の瞬間にはフカフカの寝台の上に押し倒されていた。


覆いかぶさってくる彼の影。


その向こうに見える天蓋の飾りが、涙でにじんでゆらゆら揺れる。


「愛しています……カシリア様……」


「オレもだ。……愛している、リリス」


私は目を閉じて、彼がくれる気持ちよさと幸せの波に、喜んで身を委ねた。

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