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第315話 アンタが本気で慌てる声が聞きたかった

数秒の完全な沈黙のあと、エリナはゆっくりとまぶたを開き、黄色の瞳でコリンダの顔を見つめた。


「うるさいわね。耳元で叫ばないでよ。死んでないわよ!」


かすれてはいたが、確かな生命力を感じさせる声がこぼれる。


「危なかった。まさか胸当ての革ごと貫かれるとは思わなかった。矢がもう少し深く刺さっていたら、本当に心臓を貫かれて死んでいたかもしれない」


エリナは自分の胸に刺さった矢に目をやり、短く息を吐いた。


その言葉を聞いて、コリンダの全身から極度の緊張が一気に抜け落ちていく。


彼は大きく息を吸い込むと、再び口元を歪めて笑った。


「お前……わざと死ぬフリをして、俺の反応を試していたよな!?」


コリンダの声には、安堵とわずかな怒りが入り混じっていた。


「何を言う。ただ、アンタが本気で慌てる声が、ちょっと聞きたくなっただけだ…」


コリンダはそれ以上の言い合いをやめ、素早くエリナの厚手のコートのボタンを外し、革の胸当てを慎重に開いた。


傷口からの出血と矢の刺さった深さを目で見て確かめ、致命傷ではないと判断する。


彼は矢の柄をしっかりと握り、一気に引き抜いた。


エリナが短くうめき、新たな血があふれ出たが、コリンダはすぐに清潔な布を傷口に強く押し当てて止血した。


「どうだ、私の柔らかい胸の感触は」


エリナは痛みに顔をしかめながらも、挑発するように言った。


「悪くないな。これほど脂肪が詰まっているとは。十分な鎧になりそうだ」


コリンダは止血を続けながら、ニヤリと笑って言い返す。


「しっかり手当してくれよ。傷跡が残ったら、アンタのせいにするからな」


エリナは血の気の引いた顔に薄い笑みを浮かべ、コリンダの胸に頭を預けた。


コリンダは無言のまま片腕で彼女の背中を支え、傷口をしっかりと押さえ続ける。


エリナの呼吸が落ち着いたのを見届けてから、コリンダはゆっくりと立ち上がった。


彼の視線は、自身が放った矢に首を貫かれてこと切れた、カヴィット・ミセシルの遺体に向けられる。


大量の血が、森の湿った土を広範囲にわたって黒々と染め上げていた。


「おい、こいつの所持品を調べろ」


コリンダの低い命令を受け、待機していた私兵の一人が遺体の懐を探る。


数秒後、私兵は血に濡れた銀色の紋章証を取り出し、コリンダの前に差し出した。


「殿下。間違いありません。ミセシル伯爵家の家紋です。この男は、本物の貴族の子息です」


コリンダは赤い瞳でその細やかな彫金を睨みつけ、鼻で短く笑った。


「王都の貴族が、麻薬の密売と恐喝を行う闇組織の幹部だったというわけか。随分と腐った国だな、ここは」


彼の声には、他国の政治的腐敗に対する純粋な嘲笑がこもっていた。


しかし次の瞬間、コリンダの顔から嘲りの色が消え、表情が硬く引き締まった。


赤い瞳がわずかに細められ、今の状況がもたらす政治的なリスクを頭の中で素早く弾き出し始める。


「伯爵家の正統な子息か。……それは、ただじゃ済まないことだ」


コリンダの口から、重苦しい声が漏れた。


他国の人間である彼がメニア王国の高位貴族の血縁者を殺害したという事実は、正当防衛や正義の執行といった名目で処理できるレベルを超えている。


タロシア公爵家の次期当主であるエリナが関わっていることも、事態をより複雑で致命的なものにしていた。


その時、森の静寂を切り裂くように、無数の馬の蹄が地面を叩く重低音が周囲に響き渡った。


金属の鎧が擦れ合う硬い音が、風に乗って彼らの耳に届く。


コリンダが森の入り口の方へ視線を向けた。


それは間違いなく、荘園での大規模な火災と戦闘を察知して王都から緊急出動してきた、王国の正規軍の接近を意味していた。


圧倒的な武力と権力を持つ集団が、今彼らのいる場所を完全に包囲しようとしている。

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