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第311話 お前は最高に狂っている

北の森を貫く街道を、七騎の馬が駆けていく。


背後の木々が遠ざかるにつれて、先頭を走るコリンダの口角が、ゆっくりと上がっていった。


「森に荘園を構えるとは、随分と優雅なものだ。間違いなく、相手は貴族だろうな」


彼は隣を走るエリナの横顔へ、面白がるような視線を向ける。


「さて、どうする? 公爵令嬢殿。貴族相手に、本気で事を構えるのか」


その挑発的な言葉を後ろで聞いていたコリンダの私兵の一人が、血相を変えて馬を寄せてきた。


「殿下! それだけは! 貴族に手を出すなど…!」


兵士の悲痛な叫びに対し、エリナは前を向いたまま、冷ややかな声で言い放った。


「ああ、構わん。全ての責任は、私が背負う」


その言葉を聞いたコリンダは、楽しそうに喉を鳴らした。


「聞いたか。公爵令嬢自らが、我々の盾となってくれるそうだ」


彼は何かを言いかけた兵士の顔を鋭く睨みつけ、その言葉を無理やり飲み込ませた。


約20分後、彼らは深い森の中にふいに現れた荘園の前に立っていた。


男が吐いた情報通り、そこには古い貴族の館が静かに佇んでいる。


しかし、その規模は彼らの予想をはるかに超えていた。


高い石壁に囲まれ、周囲には手入れの行き届いた広い庭園が広がっている。


エリナとコリンダ、そして五人の私兵。


わずか七名の戦力では、この巨大な要塞を落とすことはどう見ても不可能だった。


「はは、これはまた……とんでもないお城だな」


コリンダが乾いた笑いを漏らす。


「下手に中へ入れば、罠にかかって全滅がいいところだ。まともに戦っても、人数的に勝ち目はない」


正面からの突入は、自殺行為に等しい。


どう攻めるべきかという重苦しい空気が、彼らの上にのしかかる。


全員が荘園の立派さに言葉を失う中、エリナだけが、全く別のものに目を向けていた。


彼女の視線は、建物を囲むようにびっしりと植えられた、見事な木々に向けられている。


「……木がたくさん植わっているな。どれも、上等な木だ」


エリナが、独り言のように呟く。


その黄色の瞳が、獲物を見つけた肉食獣のようだ。


「いい薪になる。燃やしてやれば、中にいるネズミも自分から出てくるだろう」


正面から入れないのなら、巣ごと焼き払えばいい。


彼女の考え方は、いつも一番合理的で、一番手っ取り早く壊せる答えを導き出す。


エリナの言葉を聞いた瞬間、コリンダは一瞬ぽかんと呆気にとられた。


数秒の沈黙の後、彼のお腹の底から大爆笑が弾けた。


「ははははは! 派手なやり方だな! 気に入った! やはりお前は最高に狂っている!」


彼の赤い瞳が、これから始まる大暴れを想像して、嬉しそうにギラギラと輝き出す。


「いいだろう! その狂気に、俺も付き合ってやる!」


コリンダは馬の上で振り返り、後ろに控える私兵たちへ向かって、高らかに命令を下した。


「全員! 聞いた通りだ! この荘園を、根こそぎ燃やし尽くせ!」

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