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【35万PV感謝】罪人令嬢は、二度目の人生でも幸せになれない~誰にも愛されていないと信じたまま、私はまた笑う~  作者: 水無瀬 霧乃
次期公爵、エリナ

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第304話 お金と兵をよこせ

夜が更け、タロシア公爵邸が静寂に包まれる中、エリナは自室の寝台に腰掛け、震える手でその羊皮紙を握りしめていた。


窓から差し込む月光が、汚れた紙面に記された残酷な文字を青白く照らし出す。


『重度の鬱病』


『慢性的な希死念慮』


何度読み返しても、その内容は変わらない。


文字の一つ一つが、毒針のように私の目を刺した。


リリス。


あんなにも美しく、完璧で、誰からも愛されるお姫様のような妹。


彼女が、死にたいと願っていたなんて。


想像することさえ恐ろしい深淵が、突然足元に口を開けたようだった。


父は何も知らない。


母も、屋敷の誰も、この事実を知らない。


もし知られれば、どうなるか。


王家との婚約は破棄され、リリスは廃人扱いされ、一生塔の中に幽閉されるかもしれない。


そんなことは、絶対にさせてはならない。


リリスがどんな思いで、あの完璧な微笑みを貼り付けていたのか。


私には分からない。


けれど、彼女が必死に守り抜いてきたものを、こんな卑劣な脅迫ごときで壊させてたまるかという、怒りにも似た感情が湧き上がってくる。


だが、どうすればいい。


要求されているのは金貨十万枚。


途方もない金額だ。


私個人の貯えなど、雀の涙にもならない。


公爵家の金庫を開けるには父様の許可がいるし、理由を問われれば答えに窮する。


リリス本人に聞く?


だめだ。


そんなことをすれば、彼女の傷口に塩を塗り込み、今度こそ彼女を殺してしまうかもしれない。


八方塞がりだ。


私の手には剣があるけれど、見えない敵を斬ることはできない。


この国には、私の味方はいないのか。


誰も彼もが、公爵家の名誉や王家の顔色ばかりを伺う者たちばかりだ。


ふと、ある男の顔が脳裏をよぎる。


尊大で、好戦的で、こちらの事情など知ったことではないという顔で笑う、赤色の瞳の男。


敵国の王子。


彼なら。


しがらみも、常識も、この国の法律さえも意に介さない彼なら。


エリナは唇を噛み締め、手紙を胸元に押し込んだ。


これは賭けだ。


身の程知らずの、あまりにも危険な賭け。


けれど、優しく家を作ってくれた妹を守るためなら、私は悪魔にだって魂を売る。


翌日、王家学院の裏手にある古びた資材置き場。


普段は人気のないこの場所に、私は彼を呼び出した。


午後の日差しが、積み上げられた木材の影を長く伸ばしている。


足音が近づいてくる。


迷いのない、傲慢な響き。


「おいおい、女。こんな埃っぽい場所に呼び出すとは、何の用だ?」


現れたのは、ラペオ帝国の第三王子、コリンダだった。


彼は腕を組み、面白そうに私を見下ろしている。


その野性的な笑みは、獲物を見つけた猛獣のようだ。


いつもなら、その減らず口に言い返して剣を抜くところだが、今の私にそんな余裕はない。


私は深く息を吸い込み、彼の目を真っ直ぐに見つめた。


「コリンダ。……お願いがあるんだ!」


「ほう? 稽古の誘いじゃなさそうだな。……顔色が悪いぞ、戦乙女」


彼は私の深刻さを察したのか、少しだけ声のトーンを落とした。


「単刀直入に言う」


心臓が早鐘を打つ。


口に出してしまえば、もう後戻りはできない。


これは、国を売る行為にも等しいかもしれない。


それでも。


「私に……兵を貸して。それと、お金も」


「……は?」


コリンダの目が丸くなる。


さすがの彼も、予想外だったようだ。


「金貨十万枚……いえ、もっと必要かもしれない。そして、秘密裏に動ける信頼できる兵士を数名。」


「おいおい、待て待て」


コリンダは片手を上げて私を制し、呆れたように笑った。


「頭でも打ったか? オレは帝国の王子だぞ。敵国の、だ。そのオレに、軍資金と兵をよこせだと? ……正気か?」


「正気だ。……これ以上ないくらい」


私は一歩も引かなかった。


国内の誰にも頼れない。


公爵家の兵も動かせない。


王家に知られるわけにはいかない。


ならば、外部の力を使うしかない。


「理由は言えない。……でも、これは私の家族の命に関わることだ」


私は拳を握りしめ、頭を下げた。


プライドなど、どうでもいい。


「お願い。……この借りは、必ず返す。私の命に代えても」


沈黙が落ちた。


風が木々の葉を揺らす音だけが響く。


コリンダは無言で私を見下ろしていたが、やがて低い声で唸った。


「……命、か」


彼は私の顎を指で持ち上げ、無理やり顔を上げさせた。


その赤色の瞳が、私の瞳の奥を覗き込むように輝く。


「面白い。……あの堅物のタロシア家の娘が、国を裏切ってまで守りたい秘密か」


彼の口元が、凶悪に歪んだ。


それは嘲笑ではなく、極上の遊戯を見つけた子供のような歓喜の笑みだった。


「いいだろう、乗ってやる。……ただし、代償は高くつくぞ?」


「……いいだろう」


私は彼の視線から逃げずに言い放った。


リリスを守れるなら、何だって払う

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