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【40万PV感謝】罪人令嬢は、二度目の人生でも幸せになれない~誰にも愛されていないと信じたまま、私はまた笑う~  作者: 水無瀬 霧乃
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第23話 私は失敗作

冷めた紅茶の苦味を噛み締めながら、私は思考を巡らせた。


焦る必要はない。


殿下の愛など、最初から期待していなかったはずだ。


目的はただ一つ。


前世と同じ破滅を避けること。


そして――あの泥棒猫(エリナ)に、甘い汁を吸わせないこと。


エリナが輝いたあの瞬間を、私が奪えばいい。


単純で、残酷な結論。


私は仮面を被り直し、努めて公的な声色を作った。


「殿下。生徒会選挙の後、新入生への剣術指導を導入してはいかがでしょう?」


殿下が顔を上げる。


私は畳み掛けるように続けた。


「殿下の剣技が優れていることは周知の事実ですが、他の生徒があまりに貧弱では、王国の威厳に関わります。それに……昨今の誘拐事件。私自身、身をもって痛感いたしました。自分の身を守る術を知らぬことが、どれほどの恐怖か」


誘拐被害者という立場すら利用する。


浅ましいと笑わば笑え。


「殿下が指導されれば、生徒たちの士気も高まるでしょう。もちろん、私も参加させていただきたく存じます」


どう?これなら文句はないでしょう。


あなたの愛しいエリナの出番は、私がすべて塗り潰してあげる。


どす黒い愉悦が、胸のつかえを少しだけ溶かした。


「……悪くない提案だ」


殿下は短く頷いた。


「カリキュラムは私が組もう。君の言う通り、護身は必要だ」


「ありがとうございます、殿下」


完璧な淑女の笑みで応える。


これで決まりだ。


だが、会話が途切れた瞬間、再び重苦しい沈黙が降りてきた。


空気の粒子までもが凍りついたような静寂。


前世の記憶が脳裏を過る。


エリナと話す時の殿下は、あんなにも雄弁で、楽しげだった。


なぜ私だと、こうも会話が続かない?


私には、人を楽しませる何かが欠落しているのだろうか。


認めよう。


私はつまらない女なのだ。


美しく、優秀で、けれど空っぽな人形。


早くここを出なくては。


窒息しそうだ。


「リリス」


「殿下」


声が重なった。


一瞬、殿下の瞳に微かな動揺が走ったように見えた。


「……どうぞ、殿下から」


私は促す。


彼は口を開きかけ、何かを言い淀み、そして静かに目を伏せた。


「……いや。なんでもない」


その諦めたような吐息が、胸にチクリと刺さる。


何を言おうとしたの?


昨夜のこと?ナミスのこと?


それとも、私への失望の言葉?


聞くのが怖くて、私は逃げるように立ち上がった。


「明日のテストに備え、勉強に戻らせていただきます。本日はありがとうございました」


「ああ……わかった」


休憩室を出ると、廊下の冷たい空気が肌に触れた。


私は、また逃げたのだ。


その後の授業は、水槽の外から眺める景色のように現実味がなかった。


教師の声も、必死にノートを取る生徒たちの熱気も、すべてが遠い。


明日のテスト内容など、前世ですでに知っている。


未来を知っていることの優越感。


けれど、未来を知っていてもなお、愛される方法だけがわからないという絶望感。


私はただ、時間が過ぎ去るのを待つだけの亡霊のようだった。


放課後の鐘と共に、私は馬車へ乗り込む。


学院と屋敷を往復するだけの、単調で贅沢な牢獄生活。


友人もいない。


恋人もいない。


あるのは、過去の怨念と、未来への恐怖だけ。


生まれ変わったというのに、私は何一つ成長していない。


ただ、傷つくことを恐れて牙を剥く、臆病な獣のままだ。


屋敷に着くと、ロキナが出迎えてくれた。


「お帰りなさいませ、お嬢様」


「ただいま。……父上は?」


わかりきった問いを口にする。


これは、自分を傷つけるための儀式だ。


「旦那様は、まだお戻りではありません。お仕事がお忙しいようで……」


ロキナの困ったような顔。


違うわ、ロキナ。


仕事なんかじゃない。


父上は今頃、あの森の奥の別邸で、ミカレンとエリナに囲まれて笑っているのよ。


私という「失敗作」のことなど忘れて、本当の家族と団欒(だんらん)を楽しんでいるの。


「そうね……仕方ないわ」


私は仮面を貼り付けたまま微笑んだ。


「きっと、もう少ししたら落ち着くわ。……そう信じているの」


「はい。お嬢様が生徒会長になられれば、きっと旦那様もお喜びになって、早くお帰りになりますよ」


ロキナの励ましが、空虚に響く。


私がどれだけ優秀な成績を収めても、父上が私を見ることはない。


その残酷な真実を知っているのは、世界で私だけだ。


「ええ。そうね」


私は嘘をつき、自室への階段を上った。


孤独な夜が、また始まる。

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