表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

161/164

第161話 虚飾

王宮の執務室、夜の静寂を蝋燭の揺らめきだけが照らし出していた。


カシリアは、羊皮紙に向かい、羽根ペンを走らせていた。


黒いインクが紙に染み込んでいく様は、まるで彼の心に広がる罪悪感の投影のようだ。


リリスへの手紙。


それは本来、愛を囁くものであるべきだが、今の彼にとっては、最も高度な政治的文書であり、そして最も残酷な虚構の構築作業であった。


『親愛なるリリスへ』


書き出しは、いつも通り滑らかだ。


『王都は今、ラペオ帝国のコリンダ王子の来訪により、かつてない緊張と熱狂に包まれている。だが、安心してほしい。全ては君の予見通りに進んでいる』


カシリアは一度手を止め、深いため息をついた。


予見通り。


確かに、コリンダの挑発、武力の誇示、それらはリリスがガーナー領へ発つ前に残した予測と完全に一致していた。


彼女の知性は、遠く離れた地にあってもなお、王都の政局を支配している。


だが、唯一つ、彼女のシナリオにない異物が混入していた。


エリナだ。


『コリンダ王子との模擬戦が行われた。我が国からは、君の提案通り、学生の中から代表を選出した』


ここでペン先が微かに震え、インクが小さな染みを作った。


リリスは「優秀な男子生徒」を推薦していたはずだ。


だが、実際に舞台に立ち、帝国王子を打ち負かしたのは、あの天真爛漫な異母姉だった。


これをどう説明する?


エリナの実力を認めれば、リリスは傷つくか?


それとも、自分がエリナを重用していると悟られるか?


カシリアは数秒の葛藤の末、最も安易で、そして最もリリスを侮った「嘘」を選択した。


『運命の悪戯というべきか、くじ引きのような偶然によって、あのエリナ嬢が選ばれてしまった。……心配しないでくれ。彼女は無作法ではあるが、奇跡的な運によって勝利を拾い、我が国の面目を保ってくれた』


運。


あの圧倒的な身体能力と、型破りな戦闘センスを、「運」という一言で片付けた。


そうしなければ、リリスの完璧なプライドを守れないと判断したからだ。


いや、違う。


リリスに、自分がエリナに惹かれていること、エリナの才能に魅了されていることを悟られたくなかっただけだ。


カシリアは自嘲の笑みを浮かべ、最後の一文を綴った。


『君の描いた未来図は完璧だ。……早く会いたい』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ