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詩集:詩人の時を刻む

作者: めい

日々のささやかな気付きを詩に描いてみました。恋し、涙し、苦しみ、喜んだ、気持ちがつまっています。

1、恋の時


      深海へ

  

 恋はするものではなく落ちるものだ


 荒海に漕ぎ出てしまった不安定な小舟


 過ぎた時間が元に戻せないように


 岸に帰ることも叶わない


 あなたのたった一つの些細な言葉で


 激しく揺すぶられ


 あなたの何気ない行いに


 至福の凪を見る


 自分の心さえ思い通りにならず


 溺れて息もできない


 波に弄ばれて海面を行ったり来たり


 これほどの苦しみならば


 いっそ共に溺れてしまおうか


 手を取り合って海へ沈んでいけたら


 そこは静寂の支配する蒼く暗い深海だろうか


 あなたと私の境界線すら無い静かな世界




    照れ屋のお願い


 一つお願いがあります


 あなたの寝顔が見たいんです 


 そっと好きなだけ見つめていたい


 瞼を撫でて頬に口づけしても起きてはだめ


 私は照れ屋だから


 もし目を覚ましても眠ったふりしていてね


 あなたの心はどうがんばっても覗けないから


 せめて愛しいあなたの寝顔だけでも目に焼き付けたいの


 夢の中だけでもいいから好きなだけ見つめさせて


 でも目を開けてはだめ


 私は照れ屋だから


 夢の中でも


 照れ屋だから


 

     私の小さなかけら


 ふわふわあなたの前髪の上を飛び跳ねて


 いたずらっ子な優しい瞳をすり抜けて


 ざらざら頬を滑り降りたら


 やわらかい笑い声をあげる口に吸い込まれ


 そんな私の小さなかけらは


 今日も幸せの夢を見る




     二人のあなた


 会いたくて会えなくて


 何度もあなたの姿を思い浮かべて


 会わないあいだに私の中のあなたは


 どんどん大きくなって


 本当のあなたが思い出せない


 現身のあなたと


 私の中のあなたとの距離を


 いったいどうやって埋めればいいと言うの


 会いたい


 でもこわい


 本当のあなたに会うことが


 今はとてもこわいの





     ひとしずくの宝物


 あなたの額から落ちた一粒の


 透明なそれに私はなりたい


 あなたから生まれて落ちて


 空にまた還り


 また大地に落ちて


 ひとしずくの水になり


 あなたを潤して


 あなたの一部になりたい


 けれどそしたら


 あなたの姿を見られないね


 ひとしずくの宝物


 やっぱり私は人でありたい


 あなたの前で人間でいたい


 女でありたい





       好きだよ好きだよ好きだよ


 風が耳元で鳴っている


 好きだよ好きだよ好きだよと


 やっと気付いた大切なこと


 ただ見つめているだけでいい


 好きだよ好きだよ好きだよ


 それだけで十分


 なにもいらない


 君を失うことを考えたら


 それ以上悲しいことなんて無い


 好きだよ好きだよ好きだよ


 君がただここにいてくれれば


 それだけでいいんだ





       欲しいもの


 狂おしいほど人を欲したことはありますか


 胸を掻きむしられるような寂しさを感じたことはありますか


 今離れたばかりなのに


 もう会いたくてたまらないことはありますか


 いくら想っても叶わないことを知っているのに


 ただ空を見上げて涙を流すことしかできない


 そんな経験をしたことありますか


 恋は望むものではなく落ちるもの


 意志じゃない抗えない熱の塊


 独りよがりの自分勝手な情熱に


 自分自身が焼き尽くされてしまわないように


 この世で一番欲しいものから


 目をそらせていよう


 あまりにも愛おしすぎて


 もしも悪魔がなにかを捧げれば


 与えてくれると言うならば


 果てしなく落ちてしまうかもしれない


 違うそうじゃない


 なにもかも無条件に捧げてしまいたくなるほどに


 ただ好きなだけ


 なにもいらない


 もしかしたらもう彼の心さえ


 欲しいのではないのかもしれない


 ただ恋焦がれて


 届かぬ月を眺めるように


 見つめ続けているのだろうか




想い


 私は自分が老いたこと


 美しくないことも知っている


 けれどもし私にほんのひとかけらでも


 女としての魅力が残っているとしたら


 残らずそれはあなたのもの


 この世に別れを告げて


 目を閉じるその瞬間まで


 私はあなたのもの




      片想いの終止符


 ずっとこのままでもいいと思ってた


 想いが通じることはなくても


 大切にあなたを想い続けていけると


 でもそんなのは大嘘


 あなたの気持ちが私にないこと


 それを見せられるたびに


 片想いの終止符をうつ決意をします


 自分の気持ちに気付く前に戻りたい


 なのに私はまたあなたを見つめてしまう


 苦しいのに楽しいふり


 大人な私を演じながら


 一人で泣くのです


 片想いの終止符


 うってくれませんか





2、涙の時



      少しだけましな人間になりたい


 少しだけましな人間になりたい


 こんなに心の狭い人間じゃなく


 こんなにずるい人間ではなく


 こんなに弱い人間ではないもの


 誰かのことをうらやんだり


 他の人と比べたり


 自分だけをあわれんだり


 そういうものにはなりたくない


 もう少しだけましな人間になるために


 もがいてもあがいても


 生きていようと思う




     私たちはみんなつながっている


 私たちはみんなつながっている


 ここが平和で暖かな食べものがあるとしても


 ほんの少し生まれる場所が違えば


 生き抜くことさえ困難な大地


 暖かく安全な部屋にいて


 狭い思考に蝕まれて


 生きることはこんなにも難しい




         しょっぱいレモンティー


 むかし幼いころ


 大人になるとつらいことばかりだよ


 子供のうちが一番いいよなんて言われて


 そんなのうそだ


 だって私にはつらいこといっぱいある


 そんなふうに思ってた


 子供の頃が幸せだったなんて


 言えないけれど


 でもやっぱり


 つらいことたくさんある大人になった


 どうすることもできなくて


 かといってあの頃のように


 大声で泣くわけにもいかない


 たまってたまって


 突然流れ出すのは


 今日はたまたまレモンティーの上だったというだけ


 しょっぱいレモンティーを飲みながら


 次はカプチーノにしようとか思う


 シナモンをたくさん入れてね




       その子はあなたです


 目の前で泣いているその子はあなたです


 幼い頃の弱く守ってもらわなければ生きていけないあなたです


 あなたは小さい頃抱きしめてもらえず


 頭をやさしく撫ぜてもらうこともなく


 ときに力任せに殴られ


 寒空の放っておかれたかもしれない


 だけどあなたの目の前にいるその子には


 温かい食事を与え抱きしめてかわいがって


 そうやって生きてほしい


 その子はあなただから


 あなたを抱きしめるように


 抱きしめて大切に守ってください




       大切にされて


 大切に扱われたことのない人は


 自分を大切にする術を知らず


 誰かを愛することもできない


 今がどんなにひどい状況でも


 あなたを大切にしてくれる人が


 必ずいるということに気付いて


 いつかあなたが愛を知ったなら


 周りの誰かを大切にして


 大切にされて愛は育つもの




       いつでも希望を


 怒りも悲しみも必要なものだと言うの


 これ以上まだ苦しみは必要ですか


 どんなにもがいても懸命にあがいても


 どうしようもないことだらけのこの世の中で


 それでもあきらめではない憎しみでもない


 そんなものがあるとしたらそれはなんですか


 私は寛容の心をもって歩きたい


 いつでも希望は捨てないで




       この瞳に映る世界を


 私が見ているこの風景を


 あなたが見ることができないように


 あなたの瞳に映る世界を


 私が見ることはできない


 どんなに望んでも


 あなたが今なにを見ているか

 

 知ることはできない


 この世に生のある限り


 それは叶わぬこと


 今あなたの瞳はなにを映しているの


 この瞳に映る美しい世界を


 あなたと一緒に眺めていたいのに




     不幸について


 不幸な大事件より


 小さな不幸の重なりが


 より人を蝕むのだ


 人はそれらよって知らずに


 人生に縛られ


 不幸に致命傷を負わされるのだ




       許すって難しい


 許すって難しい


 いっそ忘れられたら


 でも許せないことほど忘れられないもの


 許すって難しい


 なかったことにできたら


 でももう起きてしまったこと


 消すことはできない


 

 だから私はそれをそっと包み込む


 包み込んで心の奥にしまっておく


 本当に許せるときがくるまで


 

 久しぶりにそれを取り出してみる


 まだ私の心は疼きだす


 私はそれをまた包み


 そっとしまっておくのです




     人生の教本


 私に与えられた教本は


 とても難しくて


 解けずに日々苦悶し


 たびたび間違えては


 バツの字をつけられて


 消すこともできずに


 無理に落とそうとこすっても


 赤い字が滲むばかり


 やり直すことも


 進めることもできぬまま


 解けない項に


 泣きながら顔をうずめて眠る日々


 なぜ私にこのような難しい教本を


 くださったのですか


 弱い私の身の丈に似合うだけの


 教本を与えられないのは


 なぜですか


 生まれたときには


 まっさらの美しかった私の教本は


 今では間違いだらけの


 涙の滲んだよれよれの代物です


 それでも死ぬまで


 これと向き合わなければなりませんか


 少しでいいので


 解き方を教えてくれませんか




 


3、追憶の時



春の日に



 私を見てください


 私を見て


 あれから月日が私の顔にも年輪を刻みました


 白髪もシワも増えました


 もう若くも美しくもない私を見て


 いろいろあったけど


 頑張って生きてきたよ


 あなたに会えなくてもこうして


 頑張って生きてきたよ


 あなたも少しは


 年を取ったの


 どんなにおじいになっても


 私の大切な人


 こんな春の日には


 痛いほど思い出す


 ありがとう


 生きる力をくれて


 私を見て


 シワはあるけど


 こうして頑張って生きているから



     愛しい人


 心より心臓が勝手に鳴り出したあの遠い日


 別れの日がすぐそこに来ていました


 あなたは元気に暮らしているでしょうか


 私は元気です


 相変わらず荒波にもまれて


 それでも生きています

 

 あなたに出会えたことを今でも感謝しながら


 いつまでも頑張ろうと思っています





      一期一会



 旅立つあなたに


 贈る言葉一つかけることができず


 ただ立ち尽くす私は


 失ったものの大きさに茫然として


 もう二度と会えないのだという事実だけが


 まるで魂を半分もぎ取られたような痛みに変わる


 気づかぬうちにあなたから多くをもらっていたね


 なのに私はあなたになにもあげられなかった


 かなうものならばあの日に戻って


 せめてあなたの力になる言霊とともに

 

 笑顔で送り出したい


 ひまわりのように笑うあなた


 あなたの笑顔は誰より素敵だと


 そしてそういうあなたを大好きだったと


 いつまでもあなたの幸せを祈っていると




     やさしい両手の輪の中に


 優しい両手の輪の中に


 あなたの差し出したその両手は


 あなたのやさしさくらい


 大きくて


 わたしがそこに入れたのは


 ほんとにつまらないものだったけれど


 なんだか大切なものに思えてきて


 きっと心までのせてしまっていたんだね





      たくさんたくさん


 たくさんたくさん


 あなたに会いたい


 たくさんあなたの


 声が聴きたい


 たくさんあなたの


 姿を見たい


 たくさんあなたの


 笑顔を見たい



 たくさんたくさん


 あなたと話し


 たくさんたくさん


 そばにいたいと


 たくさんたくさん


 願ってもそれは


 かなえられない願いでしょうか



 たくさんあなたを


 あなたを見つめ


 短い人生共に時をすごしたい



 たくさんあなたを思い出し


 たくさんたくさん


 あなたを思う


 





4、障害の息子の時



      一息


 いっぱいいっぱいの私は


 まるで風船のようにぱんぱんに膨らんで


 これ以上頑張れと言われたら


 壊れてしまいそう


 逃げるように小さな庭に出て


 琵琶の木の下で珈琲を飲みました


 葉の間から青空が見えて


 喉がゴクリといいました


 私のトゲトゲでいっぱいの風船は


 ほんの少し空気が抜けました






    嬉しい時も悲しい時も



 昨日幼い大きな息子が


 なにがつらいのか悲しそうに泣いて


 頭をコンクリートの壁に打ち付けていました


 歯を食いしばって自分の服の袖を引きちぎりました


 その息子が


 生まれて初めて歌をうたいました


 小さな声でそっとうたいました


 私は嬉しくてそっと感激しました


 嬉しい時も悲しい時も


 誰かに一緒に感じてほしいと


 切なくなりました


 私は息子の話をしてみました


 一緒に喜んでくれる人がいることに


 またそっと嬉しくなりました



      心の海で泳ごう


 小さな部屋の白い壁


 傍らには幼い息子


 私の小さな世界の中で


 苦しいほどに心が固まっていく


 たとえ外には美しい空が広がっていようとも


 果てしない海がどこかにあろうとも


 私に許されたのは


 このささやかな空間だけ


 息をするのも苦しくなったら


 窓を開けようか


 空さえも区切られて


 私をここに閉じ込める


 目をつぶろう


 そこになにが見える


 今日は果てしない海が見える


 海さえ灰色の悲しい色


 私はここで泳いでみようか


 涙と同じしょっぱい海で


 溺れないように


 心の海で泳ごう




5、詩人の時



      風が吹く日に愛を植えよう


 風が吹く日に愛を植えよう


 きっとしなやかに育つだろう


 ときに傷つきときには倒され


 それでも大きく育っておくれ


  

 風が吹く日に愛を植えよう


 いつかきっと花を咲かすだろう


 たとえ枯れてしまっても


 また植えればいい


 

 あなたの流した涙は


 めぐみの雨になり


 あなたの苦しみは


 喜びのかてになる



 風が吹く日に愛を植えよう


 命絶えるその日まで


 その愛につくそう


 いつまでもいつまでも




       朧月夜


 闇の中をさまよい歩く小さな影のように


 灯台の明かりさえ与えられぬ人間に


 正しい道を選んでいるかなんて


 答えられるはずもなく


 ただひたすらに進むその道には


 なにも頼れるものなどなく


 今宵の朧月のように


 ほんの時々惜しげにうっすらと


 影を映し出すだけ


 せめて満月のその晩には


 すべてをさらけ出して


 行くべき道を照らしてほしいと


 朧月に叫んでも

 

 ただばんやりと曇りガラスの向こうに


 その姿を映すだけ


 朧月夜の晩にさえ


 人はただ道に迷う子猫のように


 心寂しく泣くだけのこと




     あとからわかること


 何年もすぎて


 あとからわかることがある


 一見理不尽な出来事も


 不必要に思える遠回りも


 意味の分からない言動も


 長い間答えのでなかったことも


 ある日ふと知る時がくる


 あの頃の私が


 今の私になるために


 それらは必然であったということ


 すべてはつながっているということを



       詩人の時を刻む


 閉ざされた冬の心のままに


 うなだれて歩いていてはなにも見えない


 ほんの少しだけ顔を上げて


 広がる若葉色の春の海を見て


 目に鮮やかなツツジの花が


 明るい心を持った山吹が


 青空の下で笑いあっている


 どんなに悲しい日が続いても


 どれほど病み衰えても


 春はちゃんとやってくる


 果てしなく広がるこの世界に


 命の喜びを歌おう


 詩人の時を刻むように



     


                                  了


  


 


 





    






 



 


 


      


 

お読みいただきありがとうございました。

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