8話 小さな漁村
次の日、空き家で目が覚める。
顔を洗って食堂に行くと、昨日と違って食堂内は閑散としていた。
漁師の男たちは既に漁に出ているようだ。
朝食を頼むとパンとワカメのスープ、焼き魚が出てきた。
私はのんびりと朝食を食べていると、昨日の若い女性が声を掛けてきた。
「実は冒険者さんに依頼したいことがあるんだ。この村を出て砂浜を暫く歩くと崖下に洞窟がある。そこにモンスターが巣食って困っているんだ。退治してくれたら村としてギルドから報酬を支払うから依頼を受けてくれないかい?」
「村の漁師の方が私より強いと思うぞ。流石に彼等より強いモンスターを私一人では倒せない」
「いやぁ……、一度村の男衆たちで洞窟に行ってモンスターを倒しに行ったんだけど、途中で逃げ帰って来たんだよ。
村の漁師の連中は信仰深くて、海で相手しちゃいけない恐ろしいモンスターだから倒したくないと怯えてしまってるんだ。
大きい図体している割に肝の小さい連中だよ。私が戦えたら洞窟に行っているんだけど、生憎そんな力は無い。
あの洞窟は村にとって大切な場所なんだ。冒険者のあなたに頼むしかないんだよ。
依頼に失敗しても前金は払うよ、一度でいいから洞窟に行って様子を見て来てくれないかい?」
若い女性は村の漁師の腰抜け具合に憤りながら、大切な場所をモンスターに占領されていることを悲しんでいた。
「……一度洞窟の様子を見てみよう。モンスターを倒せそうだったら、倒してみるよ」
「それは助かった! お願いするよ。ありがとう!」
朝食を食べ終わってギルドに行くと、本当に崖下の洞窟内のモンスター討伐の依頼があった。
ギルド職員にはすでに話が通っていて、依頼を受けることを話すと喜んでいた。
私は一度洞窟に行ってモンスターの様子を見てから依頼を受けるかどうか判断しようとしたが、ギルド職員はすでに依頼を受注扱いにしてしまった。
一度洞窟に様子を見て来るだけでも、大変助かると言うのだ。
それだけで前金を受け取るのも気が引けるが、ギルド職員は気にしなかった。
しょうがないのでそのまま依頼を受注して崖下の洞窟に向かった。
キラキラと光る海と押し寄せる白い波を見ながら砂浜を歩いていく。
漁師たちの乗る小舟が、沖合の遠くにかすかに見えた。
海に小舟で乗り出して、荒波に飲まれながら漁をする漁師が恐れるモンスターとはどんなものだろう?
砂浜でモンスターを倒しながら、崖下の洞窟に向かった。
砂浜から岩が多くなった場所、ゴツゴツとした岩肌の崖下にその洞窟はあった。
洞窟の中に入ると貝やカニのモンスターがうじゃうじゃいる。
銛を構えて突き刺すと面白いぐらいにモンスターを倒せる。
貝とカニは固いが、動きは鈍いし銛で突き刺せば固い甲殻を貫いて倒せる。
しかし数が多くて洞窟内は広く、入り組んでいた。
モンスターを倒し続けてレベルが12に上がったが、そう洞窟の奥に進めずにその日の探索は終わった。
洞窟の探索を切り上げて、漁村に戻りギルドに報告とモンスターの素材を売りにいった。
「洞窟には入れたが、モンスターが多くて碌に進むことは出来なかった。モンスター討伐には数日は掛かるだろう」
「そうですか! 何日掛かってもいいですので、是非洞窟内のモンスター討伐をお願いしますだ」
「分かった」
ギルドから食堂に行き、夕食を頼む時に若い女性に同様のことを説明した。
「それは良かった。村として支援はいくらでもするので、少しでも多くのモンスターを討伐をしてくれると助かります」
そう言って昨日より豪華な料理が出てきた。
食事も無料だと言って酒やつまみまで出てきたが、それほど多くの量は食べられない。
いくつかの品は手を付けず、お酒はちょっと味見をしたがキツイ味だったので飲むのを止めた。
荒くれ漁師に合わせた強いお酒は、呑み慣れていない私には合わなかった。
一日中モンスター退治をして疲れていた。
食事を済ませるとさっさと空き家に戻る。
夜の海辺はさざ波が静かに聞こえて、月明かりの下散歩しながら空き家に帰るのは心地よかった。
空き家に帰ると、海のさざ波の音を聞きながら眠りについた。
翌日朝食を食べに食堂に行けば、やはり食事が豪華になっていた。
朝食を食べ終わって洞窟に向かおうとすると、昼食用の食料を持たせてくれる好待遇ぶりだ。
冒険者として普通に依頼を受けてモンスターを倒しているだけなのに、こんな接待みたいな待遇は慣れなくて戸惑う。
別に食事代は払うし適正な依頼金を貰えればモンスターを倒す。
余程この村にとって洞窟が大切な存在で、モンスターを私に退治して欲しいようだった。
洞窟内のモンスターは数は多いが、苦戦する程強くはない。
貝やカニのモンスターの甲殻は硬いが、銛で突き刺せば貫いて倒すことが出来る。
モンスターの動きも鈍いので、攻撃が当たることもない。
数日かけて駆除をするようにモンスターを倒していった。
その間にレベルは15にまで上がっていた。