7話 川沿いの町
急に町から出発することになったが支障はない。
ある程度あの町に滞在してモンスターを倒すことも出来た。
それよりはあの男性3人組に目を付けられて、声を掛けられる方が面倒くさい。
さっさと町を出たかった。
川沿いを下るように歩いていく。
モンスターはビーバー、シロサギ、アリゲーターが川から襲ってきた。
川のモンスターは皮が厚く、負けそうになると川に逃げ込むので倒すのに苦労した。
川から誘って引き揚げさせて、それから畳み掛けるように倒したが上手いモンスターはそれでもすぐさま逃げてしまう。
素材はビーバーは11Gと厚い毛皮に前歯、シロサギは12Gと嘴と羽毛、アリゲーターは15Gと鰐皮と牙だった。
レベルも10になる頃に次の町が見えた。
次の町は魚料理が出る町だった。
ギルドに行くと川の魚を獲る依頼が多くて、宿屋に行くと魚料理が出て来た。
道具屋に行くと様々な釣り竿が置かれていた。
うーん……、機能的な物や頑丈な物などがあったが、いまいちしっくりこない。
前の釣り竿は簡素な釣り竿だったが、一番しっくりときた。
あれに勝る物が見つからなかった。
結局似たような簡素な釣り竿を買った。
川に行って釣りを始めたが、全然魚が釣れることはなかった。
その日は釣りをしたが魚が釣れなくて、ぼっ――としつつ襲って来たモンスターを倒していた。
夕暮れなり町に戻って宿屋に戻って食事をしたが、魚料理は美味しかった。
ただの塩焼きだったが、焼き加減が絶妙で食べ応えがあった。
惜しむべくは白いご飯がないことだな。
食事に満足して部屋に戻って寝た。
翌日は朝食を食べて宿屋を出た。
朝食の魚料理も煮付けのような味で美味しかった。
ギルドに行って倒した魔物の素材を換金する。
町の外に出てまた釣りを始めたが、魚は中々釣れなかった。
暇になってぼけっ――と釣り糸の先を見ながら今後のことを考えた。
ある程度今の段階ではモンスターに対応して戦うことは出来ている。
この地方一帯ぐらいならいまのレベルでも十分戦って行けるだろう。
しかし未だに生活は安定していない。
安宿と安い食事で切り詰めて、毎日モンスターを倒す生活をしないと暮らして行けないだろう。
急かされる様に村や町を進んで、緊張と疲労は溜まっていた。
もうちょっと余裕を持って生活出来るようになれば、気に入った街で定住してもいいと考えている。
しかし定住するために必要な物やお金は多い。
家を買うなら家具や料理や家事を自分でしないといけない。
大金がないと家を買うことは出来ないだろう。
ならば宿屋でその日暮らしを続けるのも気苦労は絶えない。
毎日知らない他人に会わないといけないし、安宿は他人の気配がして気が休まらない。
お金の出費を抑えることも難しくて、日々生活するために働き続けないといけない。
余裕を持った生活を求めるなら、高レベルで高価な素材を落とすモンスターを倒すか、もっと別の収入源を見つける必要があった。
人によっては生産者として武器や防具制作の鍛冶屋やアクセサリー制作に転身するプレイヤーもいるだろう。
私もいくつか考えたが、作りたい物が思いつかない。
商売を始めるような頭もなく、口達者でもない。
やはりやれる仕事はモンスターを倒す冒険者ぐらいだった。
精々無理しない程度にゆっくり町や村を旅してお金を貯めつつ、気に入った街があればそこで暮らそう。
この町は魚料理は美味しいから数日過ごして、それから次の町に行こうと決めた。
この町はまあまあ住み心地はいい。
なんせ魚料理が上手い。
しかし周辺の川のモンスターは逃げ足が速くてあまり倒せない。
魚も釣れないから収入が心元なくなってきた。
魚料理は美味しいが、数日も過ごすと魚料理を食べ尽くして同じ料理に飽きてしまった。
まあ…‥、数日のんびり釣りをしながら休憩できたので、いい息抜きが出来たと思う。
魚釣りは全然上手くならなかったが。
更に川を下ると次は海に出るらしい。
次は海の幸とモンスターに期待して町を出て旅に出た。
歩きながら進むと、段々と生臭くて独特の匂いがする。
海の匂いは最初はちょっと嫌だなぁ……と思うが、段々気にならなくなる。
住み慣れたら故郷の匂いになるのだろう。
川が広がり、海に辿り着くとモンスターも変わった。
砂浜に着くと、貝やカニのモンスターや空に海鳥のような群れが飛んでいる。
海鳥はともかく、浜辺のモンスターは剣や弓矢だと効果が薄い。
あまり戦いたくないモンスターが多かった。
砂浜をモンスターを避けつつ歩いていると、次に辿り着いたのは漁村だった。
のんびりとした小さな村で、冒険者らしいプレイヤーは見られない。
村人は皆日に焼けて上半身裸の男性や、ラフな格好の人が多かった。
どうやら私はいつの間にか主街道から外れて、辺境に来ていたようだ。
前の魚料理が美味しい町ぐらいからなんか冒険者に会わないなと思っていたが、声を掛けてきた男性3人組のプレイヤーみたいなのが居なくて良かったと気にしていなかった。
前の町は川のモンスターを倒すのが難しくて、冒険者が住み付きにくい場所だった。
今回の漁村も辛うじて、小さなギルドと道具屋がある位の村で冒険者の姿はない。
まぁ…‥、そういう時もあるだろう。気にしないことにした。
しかし武器屋もない村で剣を振り回して無用に武器を壊したくない。
何か砂浜のモンスターと相性のいい武器はないかと道具屋を見て回ると、店内の片隅に銛が置いてあった。
漁業用に漁師が使う物のようだが、剣よりは使い勝手が良さそうだ。
40Gの銛を道具屋で買うと、村を出て砂浜に引き返してモンスターと戦った。
貝やカニのモンスターの堅い甲羅や貝殻であっても、銛なら容易く貫くことが出来た。
レベルが11に上がってモンスターの素材を獲ると、村に戻ってギルドで売った。
海のモンスターの素材は貝殻、甲殻、偶に真珠など意外にいい値で売れた。
「あんれまぁ! この村に冒険者が来るなんて珍しいべ。あんたこれだけ獲れるなら漁師に成れるさ」
「いや、漁師になる気はないが満足するまではこの村にいるつもりだ。この村に宿屋はあるか?」
「それは残念さね。この村に宿屋はないが冒険者用の空き家があるべ。あんたしか使う人はいないから好きに使ってくれ。
この村は漁師ぐらいしかいない村だべ。ギルドも漁師が獲ってきた魚や海の素材が主だべ。海意外何にもないが海の素材は意外に都会に人に好まれる。稼ぎは良いと思うさね。
それと食事は村の中に唯一の食堂があるから、そこを使ってくれ」
「分かった」
冒険者用の空き家はギルドのすぐ裏手にあった。
あまり使われた形跡はなく、綺麗な家だった。
その後、村で唯一の食堂に行くと屈強な漁師の男達が酒盛りをしながら食事をしていた。
彼らは皆日焼けをして、身体中に傷跡が見られ刺青をしていた。
彼らは一日の仕事の疲れを癒そうと、朗らかに酒を楽しんでいる。
食堂は恰幅の良いおばさんと若い女性が接客をしている。
食堂に入って一人席に着いた私に若い女性が近づいてきた。
「いらっしゃい! お客さん仕入れに来た商人か冒険者かい? うちの店は海の料理しかないけど食べられるかな?」
「旅の冒険者だ。数日はこの村に滞在するつもりだからよろしく。
料理に好き嫌いはないから、この店のお勧めを頼む」
「それは良かった。肉しか食べない人も多いからね。海の物は見るための物で食べ物じゃないなんて言ってくる商人もいるんだよ。毎日海の幸を食べている私たちに失礼しちゃうよね。
冒険者なら大歓迎だよ。好きなだけこの村に滞在していってね!」
そう笑顔で言ってきた。
出された料理は貝のスープに焼き魚とパンだった。
海の幸が多くて、陸の食べ物はパンだけだ。
この魚村では、これが日常的な食事のようだ。
量も中々多くて毎日過酷な漁をする漁師に合わせたメニューのためのようだった。
漁師たちはさらに酒とつまみを頼んで、顔を赤くしながら宴会をしていた。
私は食事を食べるとさっさと引き払って、空き家に帰ると寝た。