3話 森のモンスターは変わらない
村の宿屋で一泊して、同じ宿屋の一階で開いている食堂で朝食を食べた。
部屋は狭いし、食事はいまいちだった。
しかも村にはギルドが無くてモンスターの素材を売ることが出来ないし、寂れた村の割に宿泊と食事代は割高だった。
村としてはこれぐらいしか収入源がないのだろうが、冒険者としては使い辛い村ですぐに立ち去って行くのも分かる。
その後森に出かけて、探索を始める。
森の中のモンスターと戦ったが、強さは草原のモンスターと変わらなかった。
スネークやバードの同じモンスターが出てくるばかりで、目新しいモンスターはいない。
アイテムとして小枝を焚き火用に大量に拾ったぐらいだ。
森の中には様々な草や花や果実が実っている。
しかし私にはそれのどれが薬草で毒草で、効果のある花で、食べられる実なのか分からなかった。
食べれば効果が分かる仕様のようだったが、始まりの街で拾った木の実を不用意に食べて、半日混乱状態に陥ってまともに動けなくなってからは、拾い食いはしないようにしている。
一日森を探索して目新しい物がなければさっさと村を出ようと考えていた時に、やっと初めて遭遇するモンスターに出会った。
そのモンスターはラビットだったが、しかしラビットにしては足が異様に早く真っ白な体毛は異様に目立った。
普通のラビットは茶色い体毛でぴょんぴょん飛んでいたが、このラビットは一回り小さい。
ラビットの変異種のような白いラビットに私は攻撃を仕掛けたが、白いラビットは難なく躱してそのまま草陰に逃げ込もうとした。
このスピードは私も追い付けない。
白いラビットを仕留めることは出来ないと諦めていた時、白いラビットは何故か木に激突して消滅してしまった。
うーーん? これは私が倒したとは言えないが、結果的に私の攻撃を避けた先に木があって激突して倒したことになるのか?
あっけなく消滅してしまった白いラビットに疑問を抱きながら、白いラビットが消滅した木の根元に行くと、そこには白い真ん丸の尻尾だけが残っていた。
〈幸運の尻尾〉
幸運値UP
経験値2倍
白いラビットが落とした素材は驚くべき性能を備えていた。
うわぁ……、これ、他のプレイヤーに知られたら、確実に私から強奪しようとする人が出てくるヤツだ……。
これで強くなって他人を出し抜いて、楽してトップに立とうという思考はなかった。
それよりは厄介事に巻き込まれる危険性を懸念する思いの方が強かった。
だからと言ってこのアイテムを売ったり、他人に渡しても厄介事が付きまとうことが予想される。
変な人にこのアイテムが渡れば、更なる厄介事が巻き起こるかもしれない。
ある意味幸運の尻尾ではなく、呪いのアイテムではないかと思えてくる。
下手に安易な考えでこのアイテムを世に出せば、大騒動や大事件が起こる可能性の方が高かった。
だらだらと冷や汗を流しながらこのアイテムの処遇に悩んで考えた結果、秘匿することに決めた。
それが一番無難で平穏な解決方法だと思ったのだ。
そうと決まれば幸運の尻尾を仕舞い、さっさと忘れることにして再び森の中の探索を続けた。
しかしそれから私に起こる出来事は、幸運の言う名の厄介事が続くようになってしまう。
幸運の尻尾を拾ってから森を数時間探索していたが、相変わらずモンスターは弱くて変わり映えしなかった。
そろそろ村に戻ってもう一泊した後、次の町へ行こうかと考えていた時に突然足元の地面が消えた。
「へっ?」
突然の浮遊感と内臓が押し上げられる感覚にひゅっと血の気が下がりながら落ちていく。
足元は暗闇で、底を見る勇気は私には無かった。
そのまま恐怖に怯えて目を瞑ると、ふっと意識を手放してしまった。