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2話 宿屋のベットで目覚めて

 翌日宿屋の狭い部屋で目が覚めた。

 現実の自分の部屋のベットではないことに落胆しながら起きた。

 ゲームから出ている希望は叶うことはなかった。


 宿屋から出て昨日大勢の人が集っていた広場に行くと、昨日はあんなに混んで大勢いた人はいなくなっていた。

 それでも残っている人は、噴水の縁やベンチに座ってうなだれている。

 

 他のプレイヤーは何処に行ったのだろうか?

 ゲームから出られたとは思えず、それぞれに行動するために広場から去って行ったようだった。




 それにしてもゲームの中だと言うのにお腹と喉が渇きを覚えていた。

 ゲーム的仕様なのか私はよく分かっていない。

 私はゲームの説明書は読まずに、雰囲気と慣れで覚えて行くタイプである。

 

 飢えを解消しようと近くの食堂に入って一番安い食事を頼む。

 3Gで水とパンとスープの食事が出て来たので食べると、ちゃんと味と食感を感じて飢えも解消された。

 一番安い食事だったので美味しくもなかったが、味がしたことに驚いた。

 これが元々のゲームの仕様なのか、ゲームから出られなくなってからなのか私には分からなかった。

 ともかく分かったことは、食事と水分補給は欠かせないということだ。




 次に街の外に出てモンスターを倒しに行った。

 今の私にできることはモンスターを倒してお金を集めることくらいだ。

 ゲームから出る方法なんて、他のプレイヤーが今一生懸命探しているだろう。

 飢えや睡眠はゲームの中でも必要で、その為には宿屋や食堂を利用するためにお金が必要だった。

 私がゲームの中で出来ることと言ったら、ゲームの仕様通りに冒険者になってモンスターを倒したり旅をすることだ。

 ゲームから出る方法が分かれば、またその時考えよう。


 街の中を歩くとプレイヤーと思われる冒険者の多くが、不安そうにしながら歩き、戸惑い、道端に座り込んでうずくまっていた。

 その顔には昨日のゲームの始まりのような楽しさや喜びの顔は見られず、焦りや不安の表情で彩られていた。




 私は街の外に出ると、昨日の続きとしてラビットと対峙した。

 ある程度動きに慣れて対応できるようになっていたが、今日はポーションを使わずとも凌げるような動きとお金稼ぎが目的だ。

 そのままお昼ごろまで戦い続けてレベルが3になり一息つくと、疲労を覚えたので街に戻った。


 街に戻ると屋台で売っていたジュースとホットドックを買ってベンチで食べる。

 街の様子を見ると人が減っているようだった。


 すでに何かしら情報を掴んだ人や先見の明がある人は、この街から立ち去って何処かに行ってしまったようだ。

 パーティーを組んで効率的にモンスターと戦えば、すぐにレベルが上がって先に進むことは出来るだろう。

 ゲームクリアによってゲームから出ることが出来ると考えている人もいるかもしれない。

 何かしら情報を集めるためには、ゲームの世界を旅して強くなる必要がある。

 彼らは何かしらの目的の為に、すでに行動に出て突き進んでいるようだ。 


 それに比べて私にはパーティーを組むような人も、周りの状況を教えてくれる人もいない。

 誰かに聞くかパーティーに入れて貰えばいいのだろうが、その必要性を感じなかった。

 何が何でもゲームの中から出て、現実に戻ろうという考えはなかった。

 昨日は流石に不味いだろうと思っていたが、今日に至って現状を見ると中々悪くないと感じた。

 

 私はゲームが上手くないし、頭も良くない。

 本気でゲームをクリアしようと考えている攻略者や、強くなろうとストイックに戦う猛者には敵わない。

 頭がいい人はゲームの抜け道と見つけるだろうし、ゲームクリア以外でもゲームから出られる方法を見つけるかもしれない。


 私は凡人であり、その他大多数でしかない。

 彼らがよい成果見つけることを願いつつ、どうにかこのゲームの中で生きないといけない。

 ならば一人で出来る範囲で行動しようと考えた。

 

 自分一人の命に責任を持って、気軽に一人で行動したかった。

 ゲームの世界だからこそ許されるようことをしよう。

 ゲームの世界でしか出来ないことをしよう。

 他人に左右されない自分で生きてみよう。

 我儘に自分勝手に生きてみよう。


 ある程度のプレースタイルを決めると、私はお金稼ぎとレベル上げのために再び街の外に出て行った。




 数日をはじまりの街で過ごすと、この街に留まり続ける人々とレベルが上がればさっさと先に進む人々に別れ始めた。

 パーティーを組んだ人は早々と始まりの街を立ち去って行った。

 残っているのは一人で行動している人やゲームをする気のない人だ。

 ゲームから抜けられないことに悲観している人、これ幸いにと自堕落に過ごしている人などもいる。


 このゲームから出られる方法はまだ見つかっていない。

 どうしてゲームから出られなくなったのか、ゲームにどのくらいのプレイヤーがいるのか、ゲームを出た人がいるのかも分かっていない。

 誰が、どうして、何の目的でしていることなのか誰も知らないようだった。


 ゲームを出る方法が分からず、目的や目標を定められなくて気落ちして動かない人がいる中、ゲームクリアがこのゲームから出る糸口だと考える人、情報を集めるために奔走する人など様々だった。




 私はお金を貯めると、訓練用の木刀から青銅の剣へ買い替えて革の鎧を装備した。

 モンスターもラビットからさらに森に生息するスネークやバードといった相手と戦っている。


 スネークは噛み付かれると毒状態になって体力が徐々に減少する危険があった。

 毒状態の対策として毒消し薬を飲めば、毒状態が消えるので道具屋で買っている。


 バードは空から攻撃してくるモンスターで、攻撃するタイミングが難しい。

 常に空で滞空していて、油断している時に空から降ってきて嘴で攻撃してくる。

 攻撃できるチャンスが、バードが空から降ってきて攻撃をタイミングよく反撃して倒さないといけないので大変だ。

 戦いに慣れて倒せるまでに数日を要した。

 

 私は戦い方を知っているわけでも、上手い訳でもない。

 すでに多くのプレイヤーは問題なくこの周辺のモンスターを倒して先に進んでいるだろう。

 私は一人で少しずつしかモンスターを倒せないが、それいいと思っている。

 毎日モンスターを倒せば、その日の生活は凌げる。

 僅かに残ったお金を貯めて、やっと武器防具を買うことが出来た。


 強力な武器や可愛い装飾品、快適で美味しい宿泊と食事を求めるならば、もっともっと強くなってモンスターを倒してお金を稼がないといけない。

 このゲームから出ることを目的に先に進んでいる人や、ゲーム内で快適に過ごせるように行動している人もいるだろう。


 私は相も変わらず、安宿と安い食事で切り詰めて暮らしていた。

 そこに不満も不安も特に感じなかった。

 成る様にしかならないという思いがあったからだ。


 無理をしない程度にモンスターを倒して、お金を稼いで日々を過ごしている。

 偶には休んで街の中を散策したり、いい商品が並んでいないか店を物色して回っている。

 始まりの街はプレイヤーが初めて降り立つ場所ということもあって、街は広く多くの店が並んでいた。

 私は生活区域をある程度決めて、そこの宿屋と道具屋、武器屋しか利用しなかった。

 このまま始まりの街に留まって、暮らしても良いと考えていたぐらいだ。




 しかし始まりの街で暮らし続けていると、街の雰囲気は日に日に悪くなっていった。

 いつか外部から助けが来るだろうと他力本願に考えていた人達は、いつ迄経っても助けが来ないことに絶望して行った。

 自棄になって盗みや強盗を働き始めるプレイヤーが出始める。

 徒党を組んで脅迫しながら他のプレイヤーのアイテムや武器を強奪する者もいた。

 日に日に始まりの街は治安の悪い街へと変貌して行った。


 流石に私も危機感を覚えて、レベルが5に上がったことで次の村へと移動しようと計画した。

 始まりの街にはいくつもの街道があって、様々な町や村や都市に繋がっている。

 どの街に行くにしても一日歩き続ければ、野宿しないで次の街に辿り着ける。

 旅立ちの準備のためになけなしの貯蓄を使って食料、水筒、火打石、マントの必要最低限だと思われる買い物をして始まりの街を旅立った。


 私は始まりの街を旅立ち、いつも狩場にしていた草原を通りつつ街道沿いに森に向かった。

 街道沿いにひたすら歩き続けて時々出会うモンスターを倒しながら、始まりの街から徒歩で半日の距離に森があった。

 森に入る手前に小さな村がある。

 数十軒の家と酒場兼宿屋しかない寂れた村で、冒険者は素通りか一泊する程度でしかこの村には留まらない。


 私がこの小さな村を目指したのは、一番プレイヤーが来ないだろうと考えたからだ。

 一人で行動するなら、私と接点があるのは同じ境遇のプレイヤーぐらいだ。

 正直彼らから声を掛けられたり、パーティーに誘われても迷惑でしかなく邪魔だった。




 私はこの村で泊まり、周辺の森を探索することにした。

 浅い場所はスネークやバードが居たが、森の奥に進めば違うモンスターがいるかもしれない。

 急ぐ旅路でもないし、路銀を稼ぐためにも興味本位で探索することにした。


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