11話 丘上の町からは遠くに海が見えた
漁村で大蛸を倒して休息している間に気付いたが、レベルが17に上がっていた。
最早周辺のモンスターを倒すのに苦労しなくなった。
それと何故か頬の印が増えていた。
気付いた時には驚いた。
誰も指摘してくれないから顔を洗う時にやっと自分で気づいたのだ。
印は頬から顎にかけて増えている。
布で顔下半分を覆っているから問題ないが、このまま増えていくとどうなるのだろうか?
特にこれといって異変は見られない。
顔の印だけが変わっているのだ。
気にはなるが、分からないものはしょうがない。
それとなく調べて原因を探してみよう。
漁村を旅立って、今度は丘に向かって歩いている。
なだらかな丘を登っていると、ホークやバードやクックなど鳥のモンスターによく遭遇するようになった。
海を離れると銛の出番は無くなり、弓矢が活躍するようになった。
弓矢でモンスターを狙って射ると、面白いように矢に当たって鳥が落ちていく。
鳥のモンスターは鶏肉、尾羽、羽毛、鉤爪などを素材として残した。
狙ったモンスターに当たるのが楽しくて夢中になって弓矢を使った。
弓矢の矢は10本しかないが、矢が無くなっても一定時間になるといつの間にか矢が戻っている。
威力が弱いので当たり所や体力の多いモンスターには一撃で倒せないが、射止めた部位によって判定は変わった。
鳥のモンスターの場合は弓矢でも当たれば一撃で倒せるので、弓矢と相性がいいモンスターだった。
気が付けば十数体のモンスターを射落として、レベルが18になっていた。
なだらかな丘の上に次の町があった。
遠くに海が見えつつ、町の中央に高い塔が設置された町だった。
町に入ると貝殻や甲殻、真珠など海の海産物を取り扱っている店が多い。
町の中には荷車や馬車が多く留まっていて、商人が多い。
店も沢山あって多くの店が海産物を取り扱っていた。
彼らの多くは海の商品を取り扱って、都市に運搬する商人のようだった。
店を見て回ったが、金額が漁村と比べるとべらぼうに高い。
本来の海産物の取扱額がこれくらいなのだろうが、漁村の産直で安い価格に慣れてしまった私としては手に取る気にならなかった。
ギルドに行くと道中で手に入れた鳥の素材と、残っていた海の素材を換金した。
鳥類の素材は普通だったけど、海の素材は結構高かった。
その後ギルドを出ると、食堂を見つけて食事を取った。
食堂では魚料理の値段が安く、肉料理が高かった。
安いので魚料理を頼んだが、漁村の料理に比べると美味しくなかった。
しかも漁村の食堂より割高だ。
この町の料金はどうも他と比べて割高に感じてしまう。
物価が変わってしまったのか商人が多いこの町だけが特に割高なのか分からなかったが、あまり長居をしたくない町だ。
町中の店で珍しい物やお得な商品が無い限り、早めに立ち去ろうと思った。
食事をさっさと食べて宿屋を見つけると、部屋に入ってさっさと寝た。
翌朝起きて宿屋を出ると、朝食を食べに食堂に行った。
今度は肉料理を頼んで食べたけど、高級そうな見た目に反してあまり美味しくない。
色々野菜やお肉と使っているが、誤魔化した味だとしか言えなかった。
朝食を食べ終わると、店を回って何かいい商品がない探す。
武器屋や防具屋を見るが、欲しい物はない。
道具屋で消耗品を買って他の商品を見るが、どれもこれと言って目新しい物は無かった。
ギルドにも寄って依頼を見たが、この町から都市へと行き来する商隊の護衛依頼が多かった。
報酬価格は高く、町にも護衛と思われる冒険者を多く見かけた。
しかし商隊と言う集団に長時間拘束されながら、護衛しないといけない仕事は意外と大変そうだ。
私は割高であっても護衛依頼をしようとは思えなかった。
冒険者たちは護衛の仕事を終えて暇なのか、酒場や往来に屯して雑談をしていた。
「おい、聞いたか? 最近都市に行く街道に巣食っていた凶悪なモンスターを、あるパーティーが倒したんだってよ。商人たちがこれで遠回りしなくていいって喜んでいたぜ」
「へぇー、確かあの街道に大熊が巣食って通れなくなっていたよな。あれを倒せる冒険者がこの辺にいるとは驚きだなぁ」
「そうだよな、強い冒険者はもっと強いモンスターを求めてさっさと別の地域に行っちまうからなぁ。この辺の弱いモンスターを相手にしている冒険者なんてたかが知れているぜ」
「おいおいおい、その大したことない冒険者って俺たちのことじゃないかっ」
「あっ!? そう言えばそうだ墓穴を掘っちまったなっ! はっはっはっ。
しかし大熊を倒したパーティーは期待の新人ということだな」
聞き耳を立てて冒険者たちの話を聞いているとこの町から都市に向かう街道は最近までモンスターによって封鎖されていたが、冒険者のパーティーがモンスターを倒したことによって通れるようになったようだ。
プレイヤーの誰かがやった事のような気がするが確証はなかった。
むぅ……この町から都市に向かうとまたプレイヤーに出会う確率が高まりそうだ。
なるべくなら他のプレイヤーに出会いたくなくて小さな村や町を辿って旅を続けていたが、やはり豊富な武器防具や道具となると都市の方が見つけやすいだろう。
一度都市規模の街に行ってもいいかもしれない。
都市なら人に紛れて私のことなど気にもしないだろう。
この町から離れて都市に向かおうと考えた時に誰かに声を掛けられた。
「もしもし、あなたは冒険者とお見受けしますが違いますかな?」
「そうだが私に何か用か?」
声を掛けてきたのは大きなカバンを背負った小太りの中年男だった。
「私は旅をしながら珍しい商品を買い集めている行商人でして、私の嗅覚があなたからお金の匂いがすると言っているんですよ。
どうですか私の商品を見て行かれないですか?
お客さんが私に売りたい品がありましたら是非買いますよ」
ニコニコと笑いながら、もみ手をしている男は如何にも胡散臭くて怪しい。
怪しいが好奇心に駆られて了承してしまった。
「……見てみよう」
「へいっ!」
行商人が笑いながらカバンを下ろし、取り出した商品は数点だった。
指輪400G、イヤリング500G、短剣750G、腕輪600G、短杖1000G
小物しかないと言うのに高すぎて、買わせる気が無いだろうと思う金額だった。
しかし行商人は私の感想と正反対の事を言ってきた。
「どうです? これでも最良品を低価格で販売しているんですよ。なかなかこれだけの品をこの価格で出せるのは私ぐらいでしょう。
今・だ・け・の特別価格ですよぉ。
もう他ではこの品をこの価格で売っている所は無いでしょう。
買いますか、買いませんか、どうしますかぁ?」
「この商品はどういった性能がある物なんだ?」
「お客さんにはそんなことも分からないのですか……、これは私があなたを買いかぶりすぎましたかな?」
行商人はもみ手を止めて薄い額をぺちぺちと叩きながら、細い片目を瞑ってこちらを見つめてくる。
高額な商品の性能を喋る気はなく、こちらを試して見定めているようなムカつく行商人である。
しかしこれだけの商品であっても、魚村で手に入れた報酬金額は500Gだ。
買える商品はさらに限られているし、本当に使える物なのか見た目では分からない。
この行商人が悪徳商人で、偽物を掴ませて騙しているとも考えられる。
この怪しい行商人が信頼するに値するのか、商品は本当に役に立つ物なのか、私自身で見極める必要があった。




