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10話 タコと戦うのは疲れた

 目が覚めると、喉が渇いてお腹がすごく空いていた。

 ぐーぐー鳴るお腹を抱えながら起き上がると、すぐそばに水差しとコップがあった。

 水をコップに入れてごくごくと飲んで一息付いてから周りの状況に気が付いた。


 私は寝巻きのような服を着ていて、身体はさっぱりしていた。

 部屋の床に脱ぎ捨てていた服は無くなって、机の上に綺麗に畳んでいる。

 水差しやコップも用意した覚えは無かった。


 部屋は明るく、太陽は高く昇っている。

 どのくらい寝ていたのか分からないが、いつの間には私が寝ている間に誰か来たようだった。

 空腹のお腹を抱えて起きようとしたが、フラフラと眩暈がしてベットに手を付く。

 取り敢えずベットから起き上がって、動こうとした所で部屋に食堂の若い女性が入って来た。


「あぁ良かったぁ! やっと起きたね。2日間も寝ていたから心配したんだよ。

 体調はどうだい? まだ不調のようなら寝ていていいんだよ。

 私は食堂に行って、食べやすい食事を持って来るよ」


 そう言って出て行ってしまった。

 まだ本調子ではないが、お腹の空きの方が気になった。

 若い女性は食堂から食事を持って来てくれた。

 

 食事は麦粥に魚や貝の身が入った物だった。

 食べやすくて美味しかった。


 私が麦粥を食べている間に彼女は喋る。


「いやー、夜になってもあなたが食堂に来ないから心配になって空き家に言ったら、散乱して濡れた服とベットに倒れ込んでいるあなたがいたからびっくりしたよ。

 海に落ちながらモンスターと死闘を繰り広げたんだろう?

 怪我がないか確認させてもらったけど、濡れたまま寝ていると風邪を引いてしまいそうだったから世話をしたんだ。

 寝巻きや服の洗濯も私がしたから心配しないでね。

 洞窟のモンスターは全部倒したんだろう?」

「……ああ、洞窟内のモンスターは全部倒したよ」

「それは良かった。本当にありがとう! 村を代表してお礼を言うよ。

 こんな大変な目に遭いながらモンスターを倒してくれたんだ。お礼は弾むように言っとくよ」

「洞窟で海に落ちた時に人魚に助けられたんだ。この漁村が大切にしているのは彼女かな?」

「あの子に遇っちゃったんだ。そうだよ、私たちは洞窟じゃなくて彼女が時折出てくるあの場所を守りたかった。

 人魚が来る洞窟を村以外の人に知られれば、人魚を捕まえようとする人が来る恐れがあったんだ。

 だから洞窟の事は不用意に人に話せないし、人魚のことは村での秘密になっていた。

 洞窟に巣食ったモンスターが海で恐れられている大蛸じゃなければ、村だけで解決していたことなんだ。

 男衆が大蛸に恐れてにっちもさっちもいかなくなった時に来たのが、冒険者のあなただったのさ」


 食堂の若い女性は村の事情を説明してくれた。


「人魚の彼女にはこれ(人魚の泡)のお蔭で助かったから人に言うようなことはしない。しかし、これ(人魚の泡)を私が貰っていいのだろうか? 彼女や村にとって大切な物なら返そう」

「人魚の泡は人魚族の宝物だけど、彼女があなたに渡したならいいのよ。私たちは彼女を守れればいいのだから」


 そう言って人魚から貰ったアイテムはそのまま私が持っていることになった。

 食事を済ませるとお腹が満たされてまだ眠りについた。


 次に目覚めると、深夜になっていた。

 身体の調子は戻っていたのでベットから出てきて寝巻きを脱ぐと、机に畳んでいた服を着て革の鎧を身に着ける。

 身体をほぐしながら空き家の外に出ると夜の空に三日月が上り、月明かりによって雲が浮かび暗い海を照らしていた。

 月明かりに照らされる海は結構気に入っている。

 砂浜に腰かけて、波の音を聞いていた。






 翌朝は食堂に行って朝食を食べていると、接客をしていた若い女性が話しかけてきた。


「昨日あなたが起きてから洞窟内に行ったんだ。モンスターはいなくなって洞窟奥にはあの子と大蛸が残した素材があったよ。

 あの子はあんたに感謝して心配していた。私があなたは無事だと伝えると安心していたよ。

 大蛸はあなたが倒したものだから素材はギルドに預けている。後でギルドに行って今回の報酬とモンスターの素材を受け取ってくれ。

 あの子と村はあなたに感謝しているから、いつまでもこの村に居たいようだったら家なんかは融通するよ」

「いや、モンスターを倒せば冒険者は必要ないだろう。数日疲れを癒したらこの村を出よう。報酬が貰えれば私は十分だ」

「そうかい? あなたならこの村でも漁師として十分やっていけるが、やはり冒険者は旅をしてモンスターを倒す方が好きかな。 

 またこの村に来たくなったらいつでも来てくれ。村もあの子も歓迎するよ」


 そう言って若い女性は離れて行った。


 朝食を食べ終わるとギルドに向かった。

 ギルドではギルド職員が私を歓迎して絶賛してくる。


「いやいやいや、よくぞやってくれたべっ! あの海の怪物の大蛸を倒しちまうなんてあんた凄い冒険者だったんだべなっ! 

 依頼達成の報酬と大蛸の素材を預かっていたから、あんたに渡すべ」


 報酬金額は500Gと大蛸の触手、大蛸の墨、大蛸の胴体を手に入れた。

 人魚からも貴重なアイテムも貰っているので、結構大量のアイテムとお金を手に入れている。


 これで暫く金銭的に悩むことは無くなるだろう。

 余裕が出たことは喜ばしいが、しばらくしたらこの村を出よう。

 この村が大蛸を倒した私を歓迎してくれるのは分かるが、私はその待遇に慣れない。

 食堂の若い女性は家や村の定住を優遇してくれると言ってくれたが、居心地の悪さを感じてしまう。

 食事やモンスターに不満はないが、小さくて狭い村で他に何もないことからもいつか飽きそうだ。

 歓迎してくれる村人には悪いが、私はもっと気軽な待遇が良かった。

 村の風潮や雰囲気が合わないと思ったので、定住することはないだろう。


 


 その後はモンスター退治もしないでのんびりと漁村の風景や海を眺めて休息を取った。

 釣りもしたが、さっぱり魚は釣れなかった。


 洞窟に行けばモンスターの姿はなく、洞窟奥の海を覗けば人魚がざばっと海から出て来て笑いかけてくる。

 言葉は分からないが、表情から私のことを気に入ってくれているようだった。

 

 彼女は人魚の泡を使って海の散歩に誘って来たが、私は泳げる服を持っていなかったしずぶ濡れになるのは面倒だったので断った。

 残念そうにしながら彼女は海に帰って行った。


 漁村で数日休息すると私は次の町へ向かって旅立つことにした。

 いい加減村のでの好待遇っぷりが煩わしくなっていた。

 食堂の若い女性やギルド職員、洞窟にいる人魚の別れを告げると魚村を立った。


 お金も潤沢になったし、次の町では装備の買い替えか生活の向上のための日用品の拡充を考えよう。

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