好きな人に好きって伝えることはこの世で一番素敵なことだと歌ったヤツを殺したい
ヤバい何言ったらいいのかわかんねぇ。
誰かの敷地の庭みたいなところ。俺とひかるは向かい合ってた。
みんなが来る15分前にひかるを呼び出したけど、急がないとみんな来ちゃうんだけど、何言ったらいいのかわかんねぇ。
「暑いね~今日も」
ひかるはそう言った。
今から世間話するのか!?あと10分もすればみんな来ちゃうのに!世間話から始めて告白までいけるのか!?
「俺達ってさ、ずっとこのままなのかなぁ。ただのグループの友達なのかな。だって2人で遊んでも結構楽しいし、ひかるとは相性いいと思ってるし、ひかるは凄いし、楽しいし、見てて凄いし、相性は良い方だと思う。だんだん好きになって今は凄い好き。……お返事を…。」
「大賀は友達だよ」
…。
用意してきたかのような言い方だった。別に俺が何を言ってもそう言うつもりだったかのような。
特に「だよ」の言い方が気に入らなかった。ロボットみたいに抑揚がなく、捨てきるような短さだった。
「友達だけど好きなんだよ」
苦し紛れの一言。
「我慢してほしいの」
そういう。その上から目線が気に入らなかった。
「その上から目線が気に入らないけど好きなんだよ」
遂に気まずくなったひかるは沈黙して、それから。
「いやーしかし暑いね」
と言った。
「暑いけど好きなんだよ…」
最悪の空気。
そのあとみんなが来るまで一言も喋らなかった。お互いに。
最初に来たのが亮。
亮は遊びの予定立ててくれるいいヤツ。
遊ぼうってメール打つのもだいたい亮。
そろそろ帰ろうって言うのもだいたい亮。
次に来たのが中西。
下ネタめちゃくちゃ言うのが中西。
一軒家に住んでるのが中西。
母親がいないのが中西。
最後に来たのが睦美。
ひかるじゃない方の女の子。
ひかるの大親友。
ひかるよりも化粧濃いめ。
そんな、男3人女2人のグループだった。
学校に行ったら他にも関わるヤツいるけど、学校外だとこの5人だな。
みんなが揃ったところでひかるが、
「暑いね~」
って言ったんだ。1日に何回言うんだよ。
みんな同意してたように見えた。
ヘラヘラ笑ってるように見えた。
自分もつられて笑ってたかも知れない。もしくは、引きつってたかのか、溜息でも吐いていたのか。
みんなが羨ましい。
ひかると友達のままでいられて。俺は線引きされて仲間に入れてもらえないような気がした。
カラオケに着いて、亮がこう言う。
「5人で予約してる眞鍋です」
この用意周到さが羨ましい。
だからこのあと5時間で亮が、そろそろ終わりにしようって言ったのも、みんな今日うちに来ない?って言ったのも、お酒飲んでみない?って言ったのも計画通りだったんだな。
お酒か。
毒を飲むような緊張感がある。
「亮、これどうやって買ったの?」
睦美は聞いた。俺も気になってた。
「うちの賞味期限ギリギリのやつってまとめられてて、その中から持ってきた」
亮の家は個人商店をやっている。
未成年が買えるわけもないアルコールが此処にあるのはそういう理由だ。
誰も喋らなくなって、それから亮が「え?飲もうよ」と言い、
中西が「チェイサーは?」と言った。
「このタイプの酒はチェイサーで割るんだよ」
亮もそこら辺は詳しくなくて「チェイサーって何?」
「コーラとかでもいいよ」
半分以上コーラのお酒。
そう思うとこの飲み物が飲み干せる気がした。
中西はもう口を付けてた。
中西絶対飲んだことあるだろ…。
俺は、口付けたけど、胃には一滴も入れなかった。
「味、ほぼコーラ!」
と言ってひかるが笑った。
その笑い方が無理したような笑いだったもので、この一瞬で酔ってしまったのかと錯覚した。もしくは酔おうとした結果の笑いなのかも知れない。
一度飲んだらそのあとの抵抗は無かったようだ。
30分くらいで寝てしまった睦美。
中西と亮は4杯ぐらい飲んだんだろうか。男気試してんのかなぁ。
そんなことより…。
ひかるの足が開いている。
笑うとき思いっきり肩振るわせて笑う。
「ねーねー」なんて言いながら亮の肩を叩いたり、指でわき腹をつついたりしてる。
「何見てんのー?」とか言いながらスマホ見てる亮の肩に顎を乗せたりしてる。
お酒は人を変えるのか?お酒は人の本性を表に出すものなのか?
もしも後者なら…。嫌だけどちょっといいな…。
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最近大賀の目線が気になる。
今まではそうでも無かったけど、告白の後ぐらいからずっと目を合わせようとしてくるし。
会話の中でも例えば「ひかるは昔からそんなところあるよな」みたいな、如何にも俺はひかるのことわかってますアピールがすごい。
なんかかえって話しづらいし、今まで通りの友達でいたかったんだけど。
駅の改札を降りたとき、急に声掛けられてナンパかと思ったら大賀だったときある。
「おはよ!」からの「部活どう?」とか話しかけるための話題みたいなそんな会話だから、よけいギクシャクするんだよなぁ。
でも、みんなといるときは喋るの減ったかも知れない。
元々そんな話す方じゃないんだけど、亮くんとかの方がたくさん喋ってくれるんだけど、今の大賀はもっと喋らなくなった。
何考えてるかほんとにわかんない。
大賀からLINEが来た。
『やっぱり抑えられないや、好き』
なんて返したらいいんだろう。
とりあえず返信するのが億劫すぎて4時間は放置した。でも、頭の中で引っ付いて邪魔してくるから早く返信したい。
『ありがとう、友達としては良い人だと思ってます。これからもよろしくお願いします。』
なんだろうね、敬語にすることで距離を感じ取ってもらえないかな…とか、よろしくお願いに含まれる深い忖度を汲み取ってくれないかと、そんな期待をしてしまう。
『友達として、2人でカラオケ行かない?』
あぁもう。
今度は亮くんに「2人でお酒飲もうよ」って言われて、速攻OKした。
お酒飲むのなにが楽しいんだろうね。
ストレス発散はある気もする。
そっかー、今ストレス溜まってるもんなー。
記憶無くなってないからセーフでしょ。
亮くんから「また一緒に飲も」って言われて嬉しかった。
缶チューハイを2本持って帰らせてもらった。うちの冷蔵庫で冷やせないのが残念だけど。
今日は大賀とエレベーターで一緒になって、
「ふいんき変わった?」
って聞かれる。「なんもないよ?」
なんもなくはない。
昨日亮くんと2人でお酒飲んで、やっぱ大人になったと言うか、
みんながしないようなことしてるわけだし、宙に浮いたような気持ち。
そのあと教室までずっと大賀と一緒で、なるべく相手に気を持たせないような冷たい発言を心掛けた。
それでも授業中に大賀からLINE来て。
『もう一度言わせてください。好きです。付き合ってください』
ほんとにどうしよう。
学校で大賀と目を合わせたくない。
こっちのことずっと見てる気がする。
気持ち悪い。みんなもなんで大賀が私のことずっと見てるのかわかんないだろうし。
場の空気が不穏になる。
私がみんなの空気を悪くしてるんだ…。
いや、大賀が空気壊してる。
4人グループならないかな。ほんとに。
不意に大賀と目があった。
私、告白断りすぎて殺されたりしないかな…。
その次の日、私は学校を休んだ。
『体調大丈夫?』
という当たり前のLINEから。
『看病してあげたい』
という一歩踏み込んだ言葉。
『まだ好きだよ』
という、病みに染みる言葉。
『おまえのせいだよ』
って何度言おうと思ったか。
2本のお酒と薬局で買った睡眠薬を一緒に飲んだ。
目覚めたら病院で、皆が優しくしてくれた。
私服の看護士さんかと思ってた人が高校の友達だってことには3日ぐらい経ってから気が付いた。
こんなに優しくしてくれる人ばかりなのに、なんで私は死のうと思ったのかな。
記憶がない。
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ひかるが睡眠薬を飲んだ。
17:41『まだ好きだよ』
それからの返答は無く、俺が一方的にメッセージを送ってた。
『他に好きな人いるの?』
『いないなら試しに俺と付き合ってよ』
『みんなに隠してもいいよ』
『返事ないと嫌いになっちゃいそう』
『さっきの無し、返信くれたら今まで通り好きだから』
『プレゼント渡そうと思ってるんだけどさ、いつがいい?』
『おーい』
『生きてる?』
この2時間後にひかるが自殺未遂した。
もちろんすべてのメッセージは削除した。
ひかるは最近の記憶がほとんど無くなってた。
5人のことも忘れていた。
それでもみんなで必死になって思い出させようとする。
俺は、俺だけは、思い出さないでくれと願っていた。
ひかるを追い込んだのは俺なのか。
ひかるは誰かに相談したりしたのか?
亮あたりには言ってそう。
みんなは俺のことどう思ってるんだ。
面会できる一番早い時間、ひかるに会いに行った。
「きみは確か、大賀くんだよね!」
「そう…俺のことどれくらい覚えてる?」
「ごめんわかんないや」
ひかるは無邪気に笑ってた。
わからない振りでないことだけを心から願う。
「無理に思い出さなくていいと思う」
こちらも笑って見せた。
目にも頬にも口にも力の入ったぎこちない笑顔だったに違いない。
その後なんにも言葉がでなくて「もう帰るよ」って言ってしまった。
ここを出たら俺は一生後悔する。
もう二度とひかるに会えないと直感した。
このまま記憶が戻らなければ…。
友達に戻れたりしないか。
好きだけど、好きだけど、好きって気持ちを表に出さなければ、そばに置かせてくれないか。
もう二度と好きって言わないから。
いやもうダメか。
後悔はどの道する。
ひかるは退院して、しばらくしてから亮と付き合った。
グループはいつも通りに友達の振りをしてくれた。
でもみんなが解散した後、きっと亮とひかるは。
ひかると亮が仲良くしてるのを想像するだけで吐き気がする。
仲良くするなんて幼稚な言葉に変換する自分は、間違いなく童貞で、吐き気がして、体中の血の巡りを感じるほどに思考が停止した。
いつしか中西と睦美と俺の3人で集まることが多くなった。
俺の人生がギリギリ寂しいと思わないように誰かに操られてる気がする。
中西はこんなことを話す。
「ひかる最近、亮といろいろあるらしいよ」
ひかると中西はそんなやり取りする間柄なのか?
「私も相談聞いたー。亮最悪じゃね?」
睦美も。
「俺、ひかるにアタックしちゃおうかなー」
中西は軽口で言ってるが、何度も頭の中で唱えた言葉なのだろう。このときを待っていたかのような。
「何言ってんだよ。人の関係壊していいわけ…」
俺は半年ぶりに発言したような気がする。
「何言ってんの?」
中西は笑ってみせる。
「結婚する前だったら奪ってもいいんだよ」
中西のその言葉は俺の頭から永遠に離れてくれない。
ひかると中西が付き合い始めた。
彼氏いる人を好きになっていいなら俺だって…って気持ちが沸く。
でも俺には絶対に消せない罪がある。
見ているしかないのか。ひかるがこの先誰と繋がっていくかを。
もう見たくないって脳味噌が訴えたって、魂が見届けることを運命づけられている。そうとしか言いようがない。
LINEは『メッセージを削除しました』で止まっている。
好きって文字を打って、送信を押さずに留まった。
未来を見た。それは、彼氏にスマホの画面見せながら「キモいんだけど」って笑うひかるの顔。
最悪な想像だけど、これのおかげで俺は生まれて始めて思いとどまった気がする。
グループは崩壊。友達ごっこすらもしなくなった空の繋がり。
いつだったか睦美と俺だけでご飯食べることがあって、
「なんかさー、みんなひかるひかるだよねー」
そう言ってた睦美の横顔がとても綺麗で、よく見ると髪型も似合っていた。
「俺らも付き合う?」
って言って睦美と付き合った。
それはそれなりの幸せだった。
でも睦美はすぐにでも浮気しそうなほど男好きで、俺を男として見ることはなかった。
高三の夏だった。
何でもない日に買い物へ出たとき、知らない男と仲良く歩くひかるを見た。
亮でも中西でもない、知らない男。
睦美に対して申し訳ない気持ちはあったのかもしれないが、ひかるから目が離せなかった。
ひかるはどこへ行く?何を買いにここへ?
そんな些細なことでさえ知りたいのだ。
あぁ、しかし。
ここは地獄だよ。
キミにとっての運命の人はその人なのか?
本当の愛はそこにあるのか?
永遠の愛はその人と見つけるのか?
いやこの世界にそれはあるのか?
俺は見つけられなかったよ。
さよなら。
男は固執し、女は浮かれ。
一生一人の人を愛することも許されず、また一生一人の人を愛する器を持ち合わせていない。
はたして誰が永遠の愛を手にすることができようか。
同時に、男女の友情は成立するか、という問いかけもある。
これもまた否。
男の束縛か、女の嫉妬か、目に見えぬ因果によって成立を許されぬ。
こうやって男は~女は~って話をすると社会不適合と思われるのでこの辺にしておきますが、
やれ映画や漫画やドラマで真実の愛を書く者に言いたい。
真実の愛はありますか?