異世界からの刺客
筆記用具、教科書、弁当、水筒、ポケットティッシュ、ハンカチ。これで大丈夫かな?
朝の天気予報によれば今日は晴れらしいけど、一応折り畳み傘くらいは持っていこう。
「広にぃ。準備終わった?」
「もうすぐ終わるからもう少し待っててくれ」
「うん、分かった。あ、そういえばこの石って広にぃの?すごく綺麗だね!」
由美が持っていたのは、赤い宝石のような物だった。
形は菱形で中心には不思議な文字が彫られている。
俺は見覚えがないが由美の反応からして由美のものでも無さそうだ。
「俺のじゃないよ。たぶん父さんのじゃないか?」
「・・・・・・お父さんのか。そういえばもう3年経つんだね。お父さん元気かな」
「元気にしてると思うぞ。きっと今も熱心に古代遺跡の研究に励んでるさ」
「そうだね!」
一瞬、由美の表情が暗くなった様に見えたが、大丈夫みたいだ。
親父のやつ、3年前にアメリカに行ったきり、あれから一度も連絡寄越さないなんて。
帰ってきたらたっぷり説教してやる。
娘に心配させるなんて親としてどうなんだってな。
「そのネックレス、欲しいなら由美が持ってればいいんじゃないか?」
「ううん。ここに置いとく」
「・・・・・・そっか」
おっと早く準備を終わらせないとな。
えっと、あとは替えのシャツと靴下も持っていこうかな。
それと由美が怪我した時とか大変だし、絆創膏や包帯も念の為に持っていこうか。
うん!これでもう大丈夫だろう。
そういえば由美はもう準備出来たかな。
「由美、準備出来たか?」
「私はとっくにできてるよ・・・・・・ってもうこんな時間!広にぃ、急がないと本当に遅刻しちゃう!」
「大丈夫だ。登校時間は八時三十分で、今は八時だから充分間に合う」
「広にぃ。今日朝礼があるってこと忘れてない?」
「・・・・・・あっ」
やばい。
そういえば今日は朝礼があるんだった。
登校時間はいつもより十分早い八時二十分。
学校までは急いでも十五分はかかる。
朝礼は校舎から少し離れた場所に建っている体育館で行われる。
たとえ十五分に学校に着いたとしても1度教室に荷物を置いてからじゃとても間に合わない。
俺一人が遅刻するだけならなんてこともないが、由美を遅刻させるわけにはいかない。
一体どうすればっ!
「・・・・・・皆勤賞」
由美は小さく呟いた。
そうだ。由美は今年、皆勤賞を目指して毎日遅刻や欠席をしないように頑張っている。
そんな由美の努力を俺が台無しにしていいはずがない。
必ず間に合わせる!
「・・・・・・由美、行くぞ」
「・・・・・・えっ?」
俺は由美の手を握り締め、部屋から飛び出した。
まだ制服に着替えていないが、今はそんなことどうだっていい。
後で先生に叱られようが皆にアホだと罵られようが関係ない。
今はただ由美を朝礼に間に合わせる。
そのことだけに集中するんだ。
「広にぃ!鞄忘れてる!しかもまだ着替えてないじゃん!」
「そんなのは後でいい!とにかく学校へ急ぐぞ!」
由美が転ばないように慎重に、かつ素早く階段を降りていった。
リビングに着いてから一度息を整えて、再度由美の手を握り玄関を目指す。
「広にぃ、危な・・・・・・!」
『ドンッ!!』
「うぉあ!?」
俺は突然何かにぶつかりその衝撃で後方へに弾き飛ばされた。
まるで窓ガラスを知らない子供が、外に飛び出そうとしてその窓ガラスに突っ込んだような感覚。
だがおかしいぞ?
この位置に窓ガラスなんてあるはずがない。
この家に長年住んでいる俺が、間違えて玄関ではなく窓ガラスに向かって走るなんてことはありえ・・・・・・るかもしれないが、今回は違う。
「広にぃ、大丈夫!?」
「・・・・・・いててっ、一体なんなんだ?」
目の前に見えるのは、黒い、扉?
玄関の扉ってこんな色だっけ?
いやいや、そんなわけがない。
玄関の扉の色は白だったはずだ!
まさか由美が黒いペンキで色を塗り替えたのか?
いや、それもありえないな。
そもそも俺の家の玄関の扉はこんなかっこいいデザインじゃない。
「おや、ここが地球ですか?」
「そのようでございます」
突然謎の扉が開き、2人の男がその扉の中から現れた。
その2人は黒いスーツのようなものを着ていた。
1人は細身で、いかにも執事のおじさんっぽい顔立ち、その紅い瞳は怖いほどに鋭かった。
もう1人は、二メートルはありそうなほどの巨体に加え、手には棍棒のようなものを持っていて、まさに漫画などに出てくるオークを連想させるような容姿だった。
「お、お前ら・・・・・・一体」
「やっと見つけましたよ。ユミル様」