66食目、パエリアとローストビーフ
ピザの後は獅子之助が調理していた〝パエリア〟が出来、王様と王妃様が座る席の横へ出される。皿には盛り付けせず、パエリア鍋のまま出された事に、王様王妃様に騎士隊の方々も驚かれた。
この世界において、一皿ずつ料理を提供するのは常識以前に当たり前の事なのだ。その当たり前の一つを見事に打ち破った品である。
それにパエリア鍋の大きさにも驚愕しているようで、普通のフライパンの五倍はあろう大きさだ。
それにもう一つ、魚介をふんだんに使っておりカラフルなのも目で見て楽しく最近地球で流行ってる『インスタ映え』みたいな料理だろう。
「それでは、今盛り付けますので少々お待ちくださいませ」
盛り付けを平等にするために、魚介の数を揃える。これは良くレトルト食品で使われる手法だ。先に液体を入れ、その後に具材を入れる。偏りを出さないための方法だ。
それに、キレイに盛り付けしやすいのも大きなメリットだ。汚いよりもキレイの方が食欲が増すはずだ。
「これは美しいのぉ。こんな豪勢な料理見た事ない」
一般市民はともかく王国貴族でもここまでカラフルな料理はまず出ない。多くても2~3色位だろう。それだけ、多くの魚介類を使用したのだ。
白がイカ、赤がエビ、黄色がパプリカ、緑がインゲン豆、紫がムール貝、オレンジがサフランという風になっている。
「あなた、この〝パエリア〟とやらを写しても良いかしら?」
王妃様は手に持ってるのは水晶玉らしき物だ。あれは魔道具らしく映像や画像を写し保管するための物らしい。つまり、カメラみたいな物だろう。
「お行儀が悪いぞ」
王様は正論を言ってはいるが、内心は早く食したくてウズウズしている。花より団子的でこの料理は美しいく思えるが、どうしても食欲には勝てない感じに見える。
「お美しいんだもの。王国でもこんな料理をお見かけ出来るかどうか」
王妃様は王妃様で一歩も引かず、言葉数は少ないが喧嘩モードな二人に対してカズトが間に入った。
「王妃様、また私達が王妃様のためにお美しい料理を提供させて貰いますが………どうでしょうか?」
カズトの提案にここは引くワクワク気分な王妃様。これはとんでもない約束をしてしまったと後で後悔するが仕方ない。だって、レイラに「どうにかしてよ」と腰を突っつかれたのだ。嫁達にはどうも頭が上がらないカズトなのだ。
そして、パエリアの次に登場したのがミミ特製〝ローストビーフ〟である。
これは〝パエリア〟とは逆に薄く切り分け一皿ずつ盛り付けてあり、芸術品と想わせる程綺麗に盛り付けてあり食べるのが勿体無いのか誰一人食べようとしない。
その美しさに王様は呆気に取られ、王妃様は瞳をキラキラと輝かせている。薔薇の花弁のように一枚一枚と丁寧に飾り付け、その上から〝マヨネーズソース〟と〝グレイビーソース〟に〝ヨーグルトソース〟を掛けた三種類を用意した。
「お待たせしました。〝ローストビーフ〟でございます」
「「「「「はっ!」」」」」
カズトが声を掛けるまで王様達は我を忘れ、提供された″ローストビーフ″を見詰めていた。城でもこんな美しい料理は先ず出される事はなく、今まで出されたのは家畜のエサと思える程に………キレイだ。ウツクシイ。
「では、みんな頂くとするかの」
ローストビーフの薔薇を崩すのは勿体無いが、目の前にあるのは芸術品ではなく料理なのだ。食べる以外の選択肢など元から存在しない。そして、口の中に運ばれる。
はむ………モグモグ………ゴクン
食べた者は全員これは肉料理だと理解出来ていたが、まず歯応えがおかしい。城で出された物もそうだが大抵歯応えがあり、何十回と噛まないと呑み込めない。
だが、この肉は柔らかく噛む必要がない。むしろ口に入れた途端、溶けるという証言した方が正確だ。
「何だ、これは!これ程固くない肉は食べた事ない!」
「えぇ、スーっと溶けるようなお肉がこの世にあるなんて………本当にもう死んでも良い位に美味しいわ」
死んだら困るのでご遠慮願いたい。
護衛の騎士達も満足そうに食す。やはり体が基本な職業だから肉を食べないと持たないよな。遠征に行くと専ら硬い黒パンと干し肉で味気無いらしい。
そんな味気無い食事をいつもしてるからか騎士隊の中から泣きながら食べてる者が出ている。そこでこの肉は牛肉なのをバラすと食べた者全員驚愕の表情をしていた。
うん、カズトが仕込んだサプライズは大成功だ。これで豚以外も美味しく食べれる事が浸透すれば良いと思っている。
そして、〝ピザ〟から始まり〝パエリア〟に〝ローストビーフ〟は全員に行き渡り大成功に終わる。どれも貴族受けしそうだと王様のお墨付きも貰った。この三品は今日初だと伝えたところ何故か喜ばれた。
貴族(王族を含む)は流行に敏感で、この流行を初めてやったというのは貴族間で相当な箔が付くらしい。それで王様は喜んだという。つまりは自慢話のネタが増えた感じだ。まぁカズトには理解出来ない世界だ。




