SS4-11、赤薔薇隊隊長~婚約報告兼説得するまでの軌跡~決闘その3
折角、土の聖剣ヤマタノオロチに切り替えたは良いが、ここでは攻撃手段が無いに等しい。もっと地面が露出しており、障壁がなければ、攻撃する手段はあったのだ。
いくら防御が優秀でも攻撃が出来なきゃ、勝てるものも勝てない。負けもしないけども。
「……………【赤薔薇のレクイエム】が敗れたとなると、アレを出すしかありませんね」
流石は、赤薔薇隊副━━━じゃなかった。隊長のライラだ。頭の切り替えは早く、次の攻撃方法を頭の中でシミュレーションしている。
いくら衝撃の事があっても、何時まで動揺していたら実際の戦場では、死ぬだけである。
「我らと一つになりなさい!【赤薔薇のヴァルキュリア】」
ライラが装着してるビキニアーマーと剣が赤く輝き出した。いや、良く見ると破砕した巨大鉄球の破片も淡く光り出し、いつの間にかライラの手元に戻り、元の小円盾に戻っていた。
時間が過ぎるに連れ、瞬きを許さない程に輝きを増し数秒後、目映い輝きが修まり、カズトを含め観客全員が瞳を開けると、ライラが変貌を遂げていた。
「まさか、これを使う事になるとはね。光栄に思いなさい。見目麗しい最高の美技にて倒してあげる」
真っ赤な色は変化ないが、装飾が豪華になっている。ビキニアーマーの名残なのか、お腹付近は鎧に覆われてないが、それ以外は血でも浴びたかのように真っ赤に覆われている。
武器も剣から一新され、身長の2~3倍はありそうなランスが握られている。まるで神話に出てきそうな戦乙女が持つと云われる武器を思わせる。
盾に関しても小円盾ではなく、二周り大きい菱盾だ。しかも、その中央に赤い薔薇の花が彫刻が施されてる。実用というよりは、観賞用か儀式用に用いるのが良さそうな盾だ。
「それが本気の姿ですか」
「えぇ、この姿を見た者は、お姉様以外では負けなしですの」
ヤバいかもしれない。距離は離れてるのに、ヒシヒシと威圧感が肌が痛い程に伝わって来る。アレは本当に勝ちに来るぞ。こっちだって、ユニを渡してやるものか。
「では、行きます。はあぁぁぁぁぁぁ【イバラの槍】」
ライラのランスが禍々しく妖艶に赤く光り、まるで血液で染めた程に真っ赤に輝いてる。
カズトも、アレは危険だと今まで勇者として培った経験………………本能がそう告げている。アレだけには触れてはならないと。
つまり、防御でなく回避しないとまずい。その為には、ヤマタノオロチから他の聖剣に切り替えないと、けして避けられない。
「この槍の前では、何事も無力。さぁ、諦めなさい」
「くぅ!この…………離れろ」
ランスの背中に天使だと錯覚する程の白い羽根が生え、地面スレスレで飛びカズトとの距離を縮める。
赤いランスから繰り出される連続の突き攻撃。今のカズトでは、ヤマタノオロチの側面で防御しようにも、ライラのスピードには追い付けず、およそ9割程の突き攻撃を体全体に受け続けている。
「もうそろそろ、この槍の効力はお分かりになったのでは?」
「くっ!力を吸いとる……………能力ですか」
カズトが膝を付きながら、ライラの槍の正体を明かした。一見、大したダメージは喰らってないように見えるが、内面的にはダメージが通ってる。
そして、吸い取った力は……………己の力に加算される仕組みだ。長引けば、カズトが不利になっていく一方だ。だけど、カズトは勇者だ。こんなピンチなんか今まで数え切れない程経験してる。
ピンチをチャンスに変えてこその勇者だ。いくら不利になろうとも、最後まで諦めない。それがカズトとしての、勇者の心構えだ。
「なら、こちらも少し本気を出してやりましょうかね。形態変化……………雷の聖剣…………タケノミカヅチ」
「なっ!他の属性も使えるのですか?!させません」
「遅いよ。【鳴神】」
ヤマタノオロチの時は、鈍足でライラの突き攻撃に置いてけぼりになっていたが、今のカズトは………………まるで別人のような速さでライラの槍を捌き切り、目の止まらぬ速さで一閃をライラに与える。
「ちっ、防いだか」
「えぇ、この【花弁の盾】によって防ぎました(ハァハァ、危ないところでした。この盾がなけりゃ…………今頃、私は………)」
【花弁の盾】は、簡単に言うなれば……………自動的に障壁を発生させる盾。その障壁が花弁に似ている事から【花弁の盾】と呼ばれている。
この盾が無けりゃ、今頃は真っ二つに一刀両断されていたに違いない。手動でなく、自動だったところが勝負の別れ道だった。自動だからこそ、カズトの一閃に間に合った。
良く言えば、どんな攻撃もすかさず防ぐ絶対防御。悪く言えば、自動による障壁の速度よりもカズトが上回れば、ライラに一閃をくわえられる。
そこが決闘の勝敗を左右する事だろう。カズトのタケノミカヅチが速度で勝つか、ライラの【花弁の盾】が防ぎ勝つか。二つに一つだ。