SS4-10、赤薔薇隊隊長~婚約報告兼説得するまでの軌跡~決闘その2
「まさか勇者カズト様は風属性の使い手で在らせるのですね。いやはや、これは驚きの連続です。これは本気を出さざる得ないですね」
ライラは何か勘違いをしている。別に風属性が得意な訳ではない。全属性を満遍なく、極めているのだ。強いて言えば、光属性が苦手かもしれない。
まだ光属性のみ奥義や必殺技みたいなものが、まだないのだ。それに光属性の速さを、まだ使いこなせていない。まぁそれでも充分に速いのだが、光属性の特性上まだまだ速くなれるとカズト自身納得はしていない。
納得はしてはいないが、それを最大限活用しますか。よっぽどの馬鹿か阿呆でない限り、戦いの中で自分の手の内を曝す真似はしない。
ライラが誤解してるなら、したままでいた方が有利に運ぶかもしれないし、真実を知った後の絶望に打ちひしがらせられるかもしれない。絶望に苛まれると蛇に睨まれた蛙の如く上手く体が動かなくなるものだ。
「ほぉ、なら…………俺はその本気を受け止めてやるさ」
カズトは剣先をライラに向ける。この世界での剣士(剣を扱う者の総称)の暗黙上のルールとして剣先を相手に向ける行為は、『俺も本気でやってやる』という意思表示となる。
他にも色々と剣士だけではなく、森精族や獣人等々種族間でも暗黙上のルールがあり、そのルールを知らずに相手を怒らせ殺されたという案件も珍しくない。
「その言葉に甘えまして……………いきます!」
左腕に装備していた小円盾を取り外し、取っ手を持つと円盤投げをするみたく思いっきり空中へ投げた。
いや、良く見ると小円盾は取っ手と鎖で繋がっており、クルクルと飛んでる最中、カズトのほぼ上空に差し迫る。
するとどうなったか?クルクルと飛んで来た小円盾は徐々に大きく………………大きくなっていき直径10mはあるであろうビッグなトゲ付き鉄球に変貌を遂げカズトの頭上へ落下してくる。
「押し潰せ!【赤薔薇のレクイエム】」
何が鎮魂歌だ!ただ巨大鉄球で押し潰そうしてるだけじゃないか!あれか?押し潰して生者の魂を成仏させる腹積もりなのか?!
はっ!と内心でツッコミを入れてる場合でなかった。今にでも落下して近付いて来る。余りの巨大なため、逃げ隠れする場所がないし、回避する時間がない。
それに物量的に【風の衣】では流石に防ぎ切れない。防御・回避がダメになると、残った手段として攻撃による粉砕だ。だけど、あれほど巨大な物を風属性の技術で壊すとなると、派手で障壁と自分の店を壊しかねない。
風属性がダメになると、他の属性に切り替えるしかないが………………さて、何にするか?考える時間は余り残されていない。
ドガァーーーーン
「ふっははははは、これでお姉様は私のものよ。さぁ、審判さん速く勝敗のコールを……………」
「ふわぁ~、まだ勝負は決まってない。カズトが、こんな……………ショボい攻撃に殺られるなんてあり得ない」
「何を言って━━━━」
ミミが眠そうに瞼を擦りながら巨大鉄球を差し、まだ勝負は着いてないと指摘する。ライラも自分が放った巨大鉄球を見ると、何やらヒビが入り、バキバキと全体に広がってるのが見える。
☆★☆★☆
巨大鉄球が落下する直前、カズトは風の聖剣スサノオから土の聖剣ヤマタノオロチに切り替えていた。
土の聖剣ヤマタノオロチは、全聖剣中で最も防御に秀でた聖剣であり、この防御を突破したものは今まで存在しない。
ただし、防御に特化した代わりに俊敏性を犠牲にしてる状態となる。普通の村人よりも歩行速度が遅い程だ。ヤマタノオロチを振り回しても相手に当たりゃしない。
「流石に痛いな。まぁ、これしか方法が思いつかなかったから、しょうがないか」
ガチコチと首を鳴らしながら、カズトは巨大鉄球だったものの中から出て来た。巨大鉄球は、鉄屑へと成り変わっていた。ヤマタノオロチの防御に負けたのだ。
「何で生きてるの?!確かに潰したはずなのに!」
「潰れてないから生きてるんだろ?」
何当たり前を言ってるんだ?コイツと言いたげそうにカズトは質問を質問で返す。
まぁ実際のところギリギリであった。後一歩、聖剣の切り替えが遅れていたら、本当に潰れていたに違いない。それで勝負が決まっていた。
「その剣の色は土属性?風と土の二つを使えるのですか?!まぁ、その程度なら王家直属の騎士隊なら誰だって使えますから」
確かに王家直属の騎士隊は誰だって最低でも二属性の魔法や技術を使える。使える前提でないと、入隊試験をやらせてくれない。
二属性以上持ってると、ウソをつき試験に臨むと極刑に処する程に厳しい。
だけども、ライラは悔しいのか唇を噛んでる。複数属性を持ってると必ずと言っていい程、得意不得意で片寄る物である。
それなのに、カズトは風属性を無色透明になる程に極め、土属性に関しては、ライラの【赤薔薇のレクイエム】を破った硬度から察するに相当極めてると見て取れる。
これを悔しがるなと言われても難しいだろう。しかし、もっと驚愕する事になるとは、ライラは思ってもいなかった。