SS4-9、赤薔薇隊隊長~婚約報告兼説得するまでの軌跡~決闘
ライラの伸びた数十本の剣はカズトを逃がさないよう檻と化し一斉に襲い掛かった。砂ぼこりで剣の檻の中の様子は観客席からは伺えない。
この状況でカズトの事を知らない者が見れば、これは死んだなと判断するだろう。明らかに逃げる事は叶わず、防御も最初の数撃凌いだとしても手数が圧倒的に多すぎる。鍛え上げられた騎士ですら、ほんの数分で防御が突破され袋叩きに合ってしまう。
だが、それはカズトが普通ならの話だ。ここにいる者はカズトが勇者だと知ってるし、魔王を討伐を成し遂げてる事は明白の事実。何らかの方法で防いでいると、大半の者は考えている。
「ライラよ、容赦がないな。だがしかし、普通の冒険者や騎士ならいざ知らず……………私のカズトは、そんな攻撃なぞ微風に等しいぞ」
「ユニ、あなただけのカズトだけでは━━━━」
「ないんですからね。ユニさん」
ユニの隣にいたのは、既にカズトの嫁となっている三人の内の二人であるレイラとドロシー。残り一人は、障壁内で審判役を買って出てるミミだ。
嫁として新米なユニにとって、二人に挟まれては赤薔薇隊元隊長でも生きた心地がしない。
「でも、カズトを応援する事だけは偉いです」
「ほら、二人ともカズトが反撃するみたいですよ」
ドロシーの呟きに剣の檻に目が行く。今だに砂ぼこりで見難いが微かに何かが光ったように見えた。ライラの剣ではない何かだ。
「伸びて貫け!【風牙】」
剣の檻の隙間から何かが飛び出た感じはするが、何も見えない。音だけはするが、目にする事は出来ない。
自分へ迫って来る感覚はあるのに、近づいてる感じはあるのに、距離が縮まってる直感はするのに、今だに直視出来ないでいる。
ライラは己の戦闘経験から察する勘から左腕に装備されてる小円盾を構えた。その"何か"が来るであろう軌道に合わせて。
その結果、命拾いをしたのであった。小円盾に何かが当たり上方へ反れる感覚が確かにあった。あのまま、ボーッと立ち竦んだままであったなら胸を貫通していた事だろう。
この障壁がなければ、完璧にあの世行きであった。今思うと、ぞーっと顔面蒼白になってしまう。
だけど、顔面蒼白になってる時間はない。まだ決闘は続いてる最中で、まだカズトの攻撃は終わってないのだから。
ライラの小円盾によって上方へ反れた"何か"は障壁の天井にぶつかる寸前に、ガクンと下方へ曲がりライラへと向かう。
再び向かって来る"何か"を再び小円盾で二度目も難なく防ぎ切る。"何か"は地面に深く突き刺さってる様で、今まさに"何か"はライラの目の前にあるのだ。
「これは!まさか風属性の……………これでは理論上、見えないかもしれないが……………それはあくまでも理論上の話だ。ここまで無色透明なのは見た事がない」
風属性の魔法や技術の最大にして最高の特徴が無色透明なのだ。ただ何にでも例外は付き物で、相当な大規模だったり、渦を巻いてるものは逆に目立ってしまう傾向にある。
ただし、ライラが告げてる通りに、それは理論上の話でいくら無色透明に近付けても完璧には程遠い代物だ。
唯一、完璧な無色透明に出来た者を告げるならお伽噺や神話に度々登場する"名もない賢者"くらいだ。
本当にいた人物らしいが、永年の月日によって名前を忘れ去られた賢者がいるらしい。その賢者を詩に載せて吟遊詩人が街の広場で度々詠ってるのを見掛ける。
ライラは目の前に突き刺さる風属性の"何か"が本能的にヤバいと感じ【赤薔薇のダンス】を解除し後ろへ後退した。
剣の檻が無くなった箇所を見ると、ライラは衝撃を隠せないでいた。カズトがいるにはいるのだが、その姿に違和感をライラは感じた。
あんなに猛攻撃をしたはずなのに、けろりと無傷で立っていた。しかもホコリや汚れ一つ見当たらない。これが【風の衣】の真価だ。
相当重量がある物は防げないが、ライラの剣程度なら【風の衣】に阻まれ届きはしない。それにホコリも風によって服に付着しないためキレイなままである。
「よくぞ、防ぎましたね。さっきので決着が着くと践んだですが残念です」
確かにギリギリであった。一度目もギリだったのに、間髪入れず真上から二度目が来たのは、もうダメだと覚悟した位だ。
カズトが使用した【風牙】は、スサノオの剣先の延長上に風属性の刃を作り出す。
極めていけば、剣には通常出来ない長さを伸ばし自由自在に曲げる事が可能になる。他の属性もそうだが、風に限らずに炎や水等々決まった形を持っておらぬ故に自在に曲げる事が可能となっている。
カズトが本気でやれば、恐らく数十kmは伸ばせる。だけど、試した事はないので、細かい距離は自分でも分からないし、危険なので試したくない。