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SS4-5、赤薔薇隊隊長~婚約報告兼説得するまでの軌跡~副隊長がカズトを陥れようとする

 今現在、赤薔薇隊が頼んだ料理を作ってるのだろう。厨房から体を刺激する匂いがこちらまで漂って来る。店の外に居た時と比べようがない強い匂いだ。

 匂いだけで我慢が出来なくなり、ついつい早く来ないかと厨房の方を凝視してしまう。


「ぷっくくくくく、ライラも我慢出来ないか?」

「は、はい!王都や城内でも、ここまでの匂いを嗅いだ事ありません」


 カズトが考える料理の四大要素がある。

 一つ目が味だ。これは料理全般に言える常識というよりも生物の本能と言えよう。誰しも不味いものには手を伸ばさず、食さないものだ。

 二つ目は食感だ。柔らかい物や硬い物等々あるが、口に含んだ瞬間に味より先に来る食感は味とは違う意味での「美味しさ」を伝える大事な要素となる。

 三つ目は色彩だ。口に含む前に必ず目に入る。盲目の人なら兎も角、目を瞑って食べる人なんていないだろう。例えば、白いご飯が青かったら食欲が減少すると言われている。

 色彩一つとっても食欲を操作出来たり、味を想像させたりと料理に欠かせない要素である。料理は食べて貰わないと意味を成さないですから。

 そして四つ目が……………ライラがカズトの料理を我慢出来なくなった原因:香り(匂い)なのだ。

 料理によっては色彩よりも先に香りが際立つ時がある。香りによって食欲が促進され、より美味しく召し上がれる事に繋がる。

 それに香りによって店の前を通る客を店内に引き寄せる効果も期待出来る。香りも「美味しさ」を伝える大事な要素の一つである。

 誰もが経験した事はあるでないだろうか。帰り道に漂って来る秋刀魚の焼けた匂いやカレーのスパイシーな匂いを嗅ぎ、早く家に帰り母親の料理が待ち遠しくなった事を。

 ライラも、匂いにやられた一人のようで……………まるで初めてのデートする少女のようにソワソワとしだす。


「お姉様が薦めてくれた料理を…………早く食べたいです」

「ほら、ちょうど来たようだぞ」


 ユニが帰って来たという事で店長オーナー兼料理長シェフであるカズト本人が配膳しに来た。

 その手には、ユニの大好物である若鶏の唐揚げがてんこ盛りに盛り付けされていた。


「ユニ、お帰り。これは俺からのサービスだ。そっちは新顔か?」

「カズトは初めてだったな。コイツは副隊長…………いや、私は辞めるから隊長か。隊長のライラ・レイニドールだ。カズトに会いたいと言うから連れて来た」

「お初にお目見え致します。ライラ・レイニドール……………ライラとお呼び下さい。勇者カズト様にお会いに出来、光栄であります」

「こちらこそお初にお目見え致します。"剣の勇者"のカズトであります。赤薔薇隊隊長と出逢え嬉しい限りです」


 満面な笑顔でカズトに手を差し伸ばすライラ。その手を取り、カズトとライラは握手した。一見、ただ握手してる風に見えるがギシギシと音が聞こえる。

 一般人なら軽く手の骨にヒビが入るであろうライラの握力で握手されてもカズトは表情一つ変えずに笑顔のままだ。


(……………この人、私の全力に近い握手に表情を変えないなんて…………勇者という名は伊達ではないという事なの?)

「今日はどうか私の料理を楽しんで下さいませ」


 と、笑顔のまま厨房へと引っ込み赤薔薇隊のみんなから見えなくなったところで額から脂汗が吹き出ると、握手した手を押さえ込んだ。

 赤薔薇隊の前では平気な顔をしていたが、実際のところ……………手にヒビどころかバキバキに骨折していた。

 光属性の技術スキルである【天使の施し】により手の骨は握手する前と何ら変わらない程に完治していた。


「あれが赤薔薇隊副━━━今は隊長か。隊長のライラ・レイニドールか。噂に聞いていたが、スゴいパワーの持ち主のようだ。まるで竜と握手した感じだ。そしてユニの事が超絶好きだという噂も本当のようだし、おそらく一緒に来たという事はそういう事だろう」


 注文が入ってる料理を確認し次から次へと調理を再開し鍋を振るう。完治した手は痛みはなく、問題なく鍋が振るえる。

 お客様は赤薔薇隊だけではない。注文受けてから料理を出すまでの時間が十数分掛かっていたら客なんて帰ってしまう。


「ユニさん、ライラ隊長お待たせしました。人数分の生ビールでございます」


 ビアガーデンのスタッフみたくレイラは器用にビールが注ぎ込まれた7個のジョッキを両手で赤薔薇隊全員にサーブする。

 一見、重そうに見えるビールジョッキであるが、コツさえ掴めば簡単に十数個を一気に運べる。まぁそれでも腕力は必要になるが、勇者のパーティーメンバーとして魔王城まで遠征したレイラにとっては楽々に運べるのである。

 子供は決して真似をしたらダメですよ。悲惨な状況が目に浮かぶから。


「姫様!私が代わります。お前達、何をやっているのですか?さっさと受け取りなさい。あっ!お姉様は座ったままで。

 姫様に給仕の真似事をさせるなんて、勇者カズト様に憧れを持ってましたが最低の殿方なんですね」


 チャンスと見るやライラはカズトの悪態を突く。隙あらば悪態を突き、カズトの評判を落とす。カズトにユニを渡さないための作戦の一つだ。

 これでユニがカズトから自分へと心変わりしてくれれば、万々歳だ。それに加え、レイラまでもカズトに愛想を尽かせば……………こんな嬉しい事はない。と、これがライラが思い描く最善の索だ。


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