60食目、刀の勇者はレストランで働く事になった
ジブリールは驚愕した後、ジーッとカズトを見詰めている。カズトには何か口では説明しづらい不快感に襲われる。
「鑑定を使いましたね」
ジロリと表情は一切変えず瞳だけでカズトはジブリールを睨む。
鑑定を使われると平均程度のステータス以下しかない者だと何も感じないが、カズトのように勇者や賢者等化け物染みた者だと不快感に襲われる。それは無意識に鑑定させまいと抵抗するからだと言われている。
「わ、悪かったわ。その………覗き………カズト様のステータスを覗いて」
「いや、それで分かったか?」
「うむ、これですわね。【異世界通販】というスキルのお陰で、このエールではなく〝生ビール〟とやらの酒を入手出来る秘密だと思いますのですけど?合ってます?」
流石は魔法だけではなく、スキルにも精通してる魔族のことはある。ジブリールは女婬夢族としては三流だが、知識はあるようだな。
「何か、バカにされたような気がするわ」
「気のせいじゃないか?それよりも、冷めない内に食べてくれ」
「おぉ、そうじゃな」
カズトは日本風の食べる前の挨拶をジブリールに教えた。
「「いただきます」」
獅子之助とジブリールは両手を合わせそう言い、食事を再開する。
獅子之助はカズトと同じ日本人なので、箸を難なく使いこなしバクバクと〝びっくり鉄火丼〟を口に運んで食せている。
ジブリールにはフォークを渡した。最初、獅子之助を見習い箸で食おうとしたが上手く掴めず断念した。
「………なんという懐かしい味だ。もう帰られないと諦め、日本の味を噛み締められないと思っていたが………本当に今日まで生きてて良かった」
獅子之助の瞳にウッスラと涙が浮かび、ポロッと頬を伝う。カズトも獅子之助の気持ち分かるつもりだ。自分の身に染み着いた食文化はなかなか変えられないし、変えるとなると凄いストレスなる。
現代社会において食べ慣れない物を食べ続けるって中々ない。それなのに、いきなり召還され食文化を変えるしかないって相当なストレスになるに違いない。
それでも召還された者の中でカズトはまだマシな方だ。【異世界通販】を手に入れる前でも、この世界で手に入る食材で地球の料理を限り無く近い形で再現出来たのだから。まぁ醤油や日本酒等は無理だったけど。
「はぁ~、生き返った気分だ。マグロなんて何年も食べてなかったからな。日本人がマグロを食べないなんてあり得ないだろ?」
カズトもマグロ好きで獅子之助と同じ感想だ。しかし、昔調べた事があるのだが、金額的にはマグロが一位だ。だが、量的には実は三位なのだ。一位はサーモンらしい。理由な安価だからとか、何とも日本らしい理由だ。
「街道では邪魔が入って返事の途中だったが、どうだ?ここで働けば大抵は賄いとして自由に作っても良いし、食べられるぞ?」
「それは嬉しいが返事は変わらんぞ。もちろん、ここで働かせて貰おう」
これで獅子之助の正式な雇用が決まった訳だ。残りは、獅子之助の隣で無我夢中でバクバクと食べてるジブリールだけだ。まぁこんだけ食べてるから、答えは目に見えてる気がしなくもない。
「ハフハフ、ただのイモのはずなのに何で………ハフハフ、こんなに美味しいのよ」
揚げたてのフライドポテトをあんなに口の中に入れちゃ熱いはずなのに、コイツはバカなのか。ハフハフと言って絶対口の中は火傷負ってる事だろう。
「急いで食べなくても誰も取らないから、ゆっくりと食べたらどうだ?」
「それは分かってるのよ。手が止まらないわ。ハフハフ、この赤と白のソースに付けると妙にイモの美味を倍増させるのよ」
赤いソース:ケッチャプの原材料であるトマトには旨味成分の一種・グルタミン酸が含まれる。それにより美味しさがアップしてる。
白いソース:マヨネーズはポテトサラダにも使用されることからジャガイモと相性がとても良い。
この二つが合わせれば、美味しくなるのは必然である。もちろんカズトにとってありふれた調味料であるが、この世界ではレシピはカズトの頭の中だ。教えれば誰だって簡単に作れるだろうが、教えてやらない。こういう世界では独占した者勝ちだ。
「ハフハフ、こちらは何の肉なの?肉汁がこんなに出て………アチチ、火傷しそうだけど美味なのよ。それにしても豚とは………味と感触が違う気が………でもでも、豚以外でこんなに美味とはあり得ないのよ」
常識的には豚以外の肉は不味いと評価されてると知ってるつもりだったが、それは人間の間だけだとカズトは思っていた。人間と同じく魔族も同じ認識のように全種族的に常識なのだろう。
まぁウチで働いてる水妖精族のスゥみたいに例外はいるだろうけど………。
「そのお肉は鶏でございます」
「に、鶏だとぉぉぉぉ!そんな訳あるか!鶏がこんなに柔らかく美味なある訳………はぐもぐ、あるかぁぁぁぁ!」
文句を言いながらも食べる手が止まらず、常に口の中に物がある状態だ。そのせいでジブリールの口に入ってた物が飛び散ってテーブルが悲惨な状況だ。獅子之助は自分の丼を確保・避難しており被害はない。そして、普通に食べてる。
カズトの内心は怒りで溢れそうになってるが、まぁまだお客様だからカズトは文句を言わずに雑巾やモップで掃除するのである。ただし、正式に雇用されたなら許さない。




