55食目、刀の勇者と一騎討ち~決着~
シュルシュルとカズトが弾いた銀貨が回転しながら落ちて来る。カズトと獅子之助は銀貨の落ちる音に耳を傾け、戦闘開始の合図を息を整え密かに待つ。
チャリーン
と地面に銀貨が落ちる。
シュパっと銀貨の音と同時にお互い攻撃を仕掛け、カズトは上段からタケノミカヅチを振り下ろし、獅子之助は下段から刀を切り上げる。刃と刃が交差し火花が散り、ほぼ力は互角でお互い一歩も引かない。
だが、"刀の勇者"だからか獅子之助は力の受け流しが妙に上手く、タケノミカヅチの刃を滑らせ、カズトが来たところを斬りつける。しかし、それを驚異の反射神経とスピードで回避する。
それに加えカズトはタケノミカヅチから刀に斬り合う際に電気を流してるのだが、獅子之助は一切合切電気に堪えたような素振りを見せない。感電したのなら動きが鈍るなり、動けなくなるのが生物としての道理だ。
獅子之助は、斬撃と同じように電気も受け流してる。まるで避雷針のように地面に流して。これでは電気が効かないのは当たり前で、タケノミカヅチの電気という魅力がなくなってしまう。
このやり取りを数十回と繰り返してる。暗殺者リーダーが遠くの木陰から覗いてるが神速のごとく速すぎて、その二人の姿を追うのにやっとの状況だ。
(………あのダンナのスピードと互角だぞ!信じられん)
暗殺族は、その特性ゆえ洞察視力も優れてはいるがそれでも二人の姿を捕らえるのは困難であり、姿を捕らえた時には二人はその場に移動してる時だ。移動してる合間や攻撃の瞬間は全くもって見えていない。
ガキーンザシュッ
「早く帰りたいのに………いい加減に………喰らいやがれ(ニヤリ)」
ガキッスルッザシュッ
「ハァハァ、お主こそ倒れてくれぬか(ニヤリ)」
二人とも言ってる事は『いい加減に倒れてくれ』みたいな事だが、内心は楽しくてしょうがない。それは男の性であり、勇者として定められた運命でもある。
人によって個人差はあるが、大抵の勇者は"強者と戦って死ねるなら本望"と本能として考える性質がある。この性質がないと誰が好き好んでモンスターや魔王の敵地に行く訳がない。
一種の性質である。そして、その副作用として人々を助けずにはいられないらしい。
勇者だけではなく、一般の冒険者もクエストでモンスターを倒すではないかと思われがちだが、自分の命優先で自分の身の丈に合ったクエストを選択する。
勇者にはほぼそれがない。ほぼ自分より人々優先として体が動く。
「くくくっふははははは、こんなに楽しく思えたのは何時ぶりか」
「それはこちらのセリフだ。早く帰りたいのに………はぁ~、全くもって嫌になる」
カズトが頭を掻きながらため息をを吐く。今直ぐに帰らないと自分が怒られるところしか想像出来ない。でも、この決闘から逃げるのも惜しい。
「ぷくくくく、そんなに帰りたいのなら儂から提案力がある。儂の次の技を受けきれば、お主の勝ちだ」
それなら話が早い。もちろん━━━
「その勝負受けようじゃないか」
カズトが了承すると、獅子之助は刀を鞘に納め何やら構えを取った。その構えとは、カズトも漫画やドラマ等で有名な侍の技、達人になると音を置き去りになると言われる。"居合い抜き"の構えだ。
つまり、俺が斬りに掛かったところをカウンター狙いって事か。狙いが分かっても勝負を挑まれたのだ。男として逃げる気はさらさらない。
「では、行くぞ」
「何時でも来い。これで最後だ」
タタンとカズトは足踏みをすると神速ごときスピードでカズトは消え、次に現れた時には獅子之助の攻撃範囲手前であった。
「はあぁぁぁぁぁ【雷竜閃】」
シャキーン
「甘いわ、そこだ【居合い・円】」
お互いの技が擦れ違い様に交差し、そして獅子之助の数m背後にカズトが着地してから数秒後カズトだけ【疾風迅雷】を解除し、タケノミカヅチを納めた。その後、静かに獅子之助の背中を見詰めてる。
一方の獅子之助は自分の武器である日本刀をジーっと見詰めている中、刀にヒビが全体に入り修復不可能な程に木っ端微塵に砕け散る。
柄だけになった刀を地面に突き刺し胡座で座り込む。カズトが眺めるその背中は何処か寂しく黄昏てる風に見える。
「………くっわはははは、さぁ儂の負けだ。潔く殺せ、刀を失った侍は死んだも同然だ。さぁ殺すが良い」
背中からで分かりにくいが、今まで一緒に切磋琢磨してきた愛刀を亡くし涙を流し肩を震わせている。グスッと泣き声が聞こえるから間違いないだろう。
カズトにもエクスカリバーがいるから、その気持ちは良く分かるつもりだ。こっちに来てから凡そ二年程で出会ったから三年半位の付き合いだろうか。そんな訳でカズトは獅子之助を殺すつもりはない。
「殺す訳ねぇだろ。初めて会った俺以外の勇者だ。いろいろ話聞きてぇところだが、まずはこれだ」
カズトがアイテムボックスから取り出したのは一つの酒ビン。
「儂に生き恥でも………晒す………つもりか………ってお主、それはまさか!」
「このビンのラベルの文字、もちろん読めるだろ?同じ日本人なら」
カズトが取り出した酒ビンを呆然と獅子之助は『信じられない』と言うような表情でずっと見ていた。