54食目、刀の勇者と一騎討ち
「そんな訳で戦おうぞ」
先程の話でどうして戦う事になったのかカズトには理解出来ない。暗殺者のリーダーを庇い、逃がした事以外では戦う理由なくねぇと思うけど、どうしたものか。
まぁ俺も強い者と戦う事に関してはやぶさかではない。ないが、帰り時間が遅くなったら怒られるのではないかと、戦々恐々してくる。
「逃がして貰えないだろうか?」
戦いを楽しむよりも………嫁のご機嫌を損わないようと考えた。だって、怖いんだもの。今から考えると恐怖でブルブルと震えてくる。
「うっわはははは、逃がす訳なかろう。"あの方"の依頼なんてもうどうでもいい。こんな楽しくなる戦いを戦わずして、男に生まれた意味などないわ」
刀を抜きキリッとこちらを睨まれても困るのだけれど、こちらには戦う理由本当にないんだけどな。それに【絶対感知】によると最後の一人はまだ動かずにいるが、何やら魔力の反応がある。
何かをやる気なのか俺は早く帰りたいのに、ここで面倒事とか勘弁して欲しいのだけれど。
そうカズトが思ってるとは裏腹に面倒事となってしまう。カズトが見上げられる程度の空全体が何やら光の屈折の関係で歪んで見える。どうやら、半透明な結界を張られてしまったようだ。
結界の張り手は相当な実力者なようで"剣の勇者"であるカズトでも壊すのに時間が掛かるだろう。結界の破壊作業をしてる内に侍が攻撃してきては破壊出来ない。
結界の張り手を見つけ出し解除をするよう脅す手もあるが、侍がそれを許さないだろう。護衛って言ってたしな。
「はぁ、結局戦うしかないのか。まぁ仕方ないか」
「わっははははは、分かってくれたか。それこそ男に生まれたかいがあるってもんよ」
戦える事がよっぽど嬉しいのか離れていても俺の耳がキーンってなる程五月蝿く高笑いする。
それにしてもコイツは結界の事に気づいてないのか?こんなに分かり易い結界に気づいていないフリをしてるだけなのか?"刀の勇者"っていう位だから魔法適性がまったくないのかもしれない。
魔法適性がないと、全く魔法が使用出来ず感じる事が出来ない。例えば【小炎弾】や【小水弾】等なら使用されて初めて気づき、相手が詠唱したなら何かしてくるだろう程度なら分かる。
「そういえば、自己紹介がまだでしたね。俺は皇和人、カズトと呼んでくれ」
「儂は天座獅子之助、獅子之助でもシシちゃんでも呼んでくれば良い」
最後のは異様にフレンドリーだな。そんな風貌でシシちゃんとは絶対に呼ばねぇぞ。と、カズトは心の内で思ってるが獅子之助の表情がニヤニヤと何とも"シシちゃん"と呼ばれたくてウズウズしてる。
「俺は絶対に呼ばねぇからな。獅子之助」
「えぇ~、つまらんのぉ。儂の妻は"シシちゃん"と呼んでくれたかのぉ。ハァ~」
どんたけ呼ばれたかったのかと、とても残念そうにうつむき、ため息を吐く。カズトにはそれよりも気になった件がある。獅子之助は結婚してたのかと、突っ込みたい。
だって、どうみたって既婚者には見えないだもの。良く物好きがいたものだ。どんな奥さんか超気になる。
「何やらジスられた気がしたが気のせいか?」
"侍の勇者"だからか妙に勘が鋭い。ていうか、良くジスルって言葉知ってたな。
「それよりも、戦うのか戦わないのかどっちにするのだ?」
「戦うに決まっておろう。儂は準備万全じゃ。何時でも何処からでも掛かってきんしゃい」
「それじゃぁ、遠慮なく行きます。はぁぁぁぁぁぁ【疾風迅雷】発動」
カズトからドラ◯ンボー◯のスー◯ーサ◯ヤ◯風なオーラが出てる。黄色というより白っぽく電気を纏ってる感じがするが、電気で髪が逆立ち概ね似ている。それに、タケノミカヅチまでも呼応するかの様に白く輝きが増してる。
「ふむ、雷魔法による身体強化のようじゃが直接使った方が早いだろうに」
獅子之助はバチバチとカズトの周りに電気が走ってる風貌を観察し、魔法適性が全く無い割に推察するが正解は半分てとこか。
身体強化の箇所は概ね正解だが、魔法適性が無いからかこれを魔法と勘違いしてる。魔法じゃなくスキルだ。よって、魔力は消費しないし疲れずらい。
「待たせたな。コイントスで地面にコインが落ちたら開始で良いな」
「やり方は任せる。うふふふふははははは、こんなに気持ちが高まるなんて何時ぶりじゃろうて」
相変わらず獅子之助の高笑いは耳に響く。その大声を抑えて貰えれば俺も少しは好感が持てると思う。多分………持てるかな?
カズトは懐から銀貨を取り出す。コイントスにもアグド流のやり方が暗黙の了解としてルールが存在する。
~コイントスのルール~
その1、コインは銀貨で行う事
その2、右手の親指で弾く事
その3、落ちて来る銀貨をけして触れてはならない事
その4、地面に落下するまで静かに待つ事
その5、後は天に運を委ねましょう。
コイントスは決闘や揉め事が発生した時にやるらしく、冒険者ギルドで正式に推奨してる。カズトが初めて知った時は吹き出しそうになった。
だって、その5はルールですらないと思う。
まぁそれはさておき、俺は銀貨を弾き上空へと飛ばしたのである。




