50食目、カニを試食する
50話突破です。まだ続いていきますので、これからもよろしくお願いします。
「何だこれは!旨めぇべよ」
漁師のおっちゃんがあまりの美味に叫んだ事で、近くにいた他の漁師仲間が「何だ、何だ」と寄って来る。炭火でやってるもんだから団扇ではたたかなくても周囲に煙と一緒に匂いが充満する。
「これは海蜘蛛だべぇよ。これが旨いってありゃしねぇよ」
「海蜘蛛だと?!それが旨いっていうのかい」
「ものは試しによ。あんちゃん、まだあるかい?」
そう言われると思って焼いてます。次から次へ焼き、殻を丁寧に取り除き渡してる。まだ山のようにぎょうさんとあるが、俺も早く食べたいとヨダレが垂れそうだ。
しかし、調理が出来る者がカズトしかいなく仕方ない。だが、蟹には最後のお楽しみがある。それは蟹味噌だ。取り敢えず、蟹味噌さえ食えれば、今現在満足感が得られバッチグーだ。
「「「「旨めぇぇぇぇぇぇぇ」」」」
漁師のおっちゃんみたく、漁師仲間が同様に叫ぶ。俺達の御先祖様も初めて食した時はこんな風だったのか?
俺は蟹の身は諦め蟹味噌をひっそりと頬張る。「旨めぇぇぇぇぇぇぇ」と久し振りに食べた感動で叫びそうになるが我慢する。蟹味噌の事がバレたら全部奪われる気がするから。
「あんちゃん、こんな旨めぇぇぇぇ物初めて食べたよ」
「おらもだ、おらもだ」
「海蜘蛛がこんなに美味しんだなんて、食べた今でも信じられないだ」
ふぅー、どうやら蟹の美味しさについては伝わったようだ。食文化が違うとこうも大変だとは改めて思い知ったカズトである。
そこで蟹の美味しさを伝えたとこで、後は交渉だ。蟹を売ってくれるかどうかを交渉する。
「この海蜘蛛改め蟹を売ってくれませんか?」
食べるのに夢中である漁師一行は一旦、食べる手を止め害獣として駆除するために山積みなってる蟹を見て考える。
こんなに美味な物を売っても良いのか?しかし、売らなくても自分達に蟹を調理出来る技術がない。その技術を勇者カズトが無償で教えてくれるはずもないし、そこで全員一致で決まった。
「あんちゃんに売る事に決まったべ。俺達にゃ調理出来ねぇしよ」
よし、交渉成立だ。後はお金だが、この国の物価による相場だと1㎏当たり銀貨五枚が妥当だろ。これでも網が破れる可能性があるから普通の魚類を売買する時よりも高く上乗せしてる。
それに蟹の山がひぃ、ふぅ、みぃ、よっ………全漁師のを合わせると凡そ1トンはくだらないだろう。そう考えると、王金貨1枚になるが漁師達に払うには大き過ぎる。よって、金貨100枚で払う事にする。
「おぉ、金貨なんて初めて見たっべよ」
「こんなに良いのか。た、大金だぞ」
海がキレイな街でも王都と比べたら儲からないか。それに魚は運賃の方が掛かってしまい、食べる人が少ないのが現状だ。まぁ俺自身直接買い付けに来てるから運賃事態掛からないし、レストラン"カズト"では安く提供出来る。
安く食べられるとあってレストラン"カズト"で初めて魚を食べたって言う人もいる位だ。その者は揃って旨いと口揃えて言う。
「問題ない。むしろ俺がお礼を言いたい位だ。それにこれはプレゼントだ」
カズトが取り出したのは魚捕獲用投網を含め数種類を用意した。漁師に詳しくないカズトは、異世界通販で適当に選んで出しただけだ。まぁ地球産でもそこそこ良い値段がしたが、そこは漁師達の未来に投資だ。
地球産なだけあって頑丈だし蟹やサメでも中々切れないだろう。魚型モンスターなら話は別だが。
「「「「良いのか!!」」」」
「あぁ、網があんな状態だと漁に当分無理だろう?それだと、俺も困る訳だ。あんた達だけのためじゃない、俺自身のためでもあるんだ。それでも受け取ってくれないのか」
「あんちゃんがそこまで言うなら………ありがとう」
地球産よりも新鮮ならこちらの方が美味しいのだ。それを無くす訳にはいかない。料理技術は地球の方が優れてるがな。
漁師からお礼を言われ目的以上の物を手に入り、帰ろうと転移を展開させる瞬間に体全体が何か錘でも付けられたかのように重い。
この感覚は、冒険途中に何度か俺達を暗殺しようと企んだバカ共がいた。そいつらが使用してた魔道具にスキルや魔法を封じるヤツがあった。その感じに似ている。転移は使用出来ないが、まぁ問題ない。
カズトは探知スキルにより魔道具を使用してる者を探し当て、どうやら自分が狙いだと分かった。だって、ビンビンとこちらに殺気を飛ばしてるだもの。これが暗殺なら分かりやすぎでしょ。
自分が狙いだと分かったら取る行動は一つだ。被害を最小限に収めるため街道に出る。そこでぶっ殺すのみだ。
カズトはバレないよう適当な速度で街道へ出る。街から距離を取り、再び探知スキルを使用する。うん、着いて来てる事を確認出来る。
「おい、さっさと出て来いよ。隠れてるつもりなら一人ずつ殺っても良いんだぜ」
カズトはわざと叫び敵をあぶり出す。もう、居場所は丸分かりだが、敢えて忠告を込める思いで叫ぶ。




