SS5-4、猫又の行商~獣人の王の部屋へお邪魔する~
今直ぐにオババ様のところへ行く訳ではないので、取り敢えずは横に置いといて本来の仕事をするライファン。ここに来た本来の理由は行商にて仕入れた品物の数々をこの二人に卸す事だ。
この二人はライファンの行商を利用する常連客としてトップレベルで買ってくれる上客なのだ。ライファンが仕入れる品物の四割を買ってくれるのだから、これ程のお客様はなかなかいない。
「今回は何を持って来たのじゃ。はよぅ、出すのじゃ。ワクワク」
「ライちゃんの目利きはハズレはないのよ」
「そんにゃ急かすでないにゃ。今出すから待つにゃ」
自らのアイテムボックスから取り出したのはガラスで出来たグラス数点だ。用途によって数種類形や色が違うものがある。
このグラスは全てカズトから仕入れた品物で通称:カズトグラスと呼ばれる厚さが均一で歪みもない、正にこの世界からしたら完璧と謂わしめる逸品ばかりだ。
「ほぉ、これは素晴らしいのぉ。これ程の品物を作り出せる職人はウチにいないのじゃ」
「透明だけじゃなくて、色が着いてるものまであるのよ。今まで見た事ないのよ」
カズトグラスにうっとりと見惚れ次から次に手に取り楽しまれてる。無理もない、仕入れた本人であるライファンでさえ当初見た時は我と時を忘れはしゃいだものだ。
アレで酒を飲んだら、さぞ美味しかろう。ライファンは自分の品物に手を出した事はないので、試した事はない。
「これ全部頂くのじゃ。して、いくらくらいかのぉ?」
「タマモも全部頂くわよ。言い値で払うわ」
「そう言われるにゃと思い、もうワンセットのご用意出来てますにゃ。して、こちらが金額でございますにゃ」
器用に算盤型の魔道具を操りカズトグラスセットの金額を提示した。その金額はワンセット白金貨10枚、つまり百万円だ。王金貨一枚に該当するが、王族でもそうそう所持してる者は少ない。
「安くないかのぉ。桁一つ間違っておらんか?」
「いくらタマモ達とライちゃんとの仲でも流石に安いと思うわよ」
やはりそう思ってしまうか。商人であるライファンは、儲けが出ない値段設定にはしない。少なくても儲けは出るようにする。
むしろ吹っ掛けてるのだ。口に出さないが仕入れ値が極端に安過ぎた。長く行商やってる歴史上なかなかない安さだった。後は高く買い取ってくれる相手売れば、仕入れ値と売値の差額で丸儲け間違いなしである。
「我がそんな間違いすると本気で思ってるにゃ?」
「「思わない」」
「にゃっははははは」
二人揃って首を横に振る。商人として信用されてると思うと心の底から笑いが込み上がってきた。
カズトから仕入れたグラスセットは金貨一枚の低価格で仕入れる事に成功した。ライファンの予想でも白金貨10枚~100枚の間で考えていた。
予想よりも1/100の値段をカズトが提示した時には目玉が飛び出しそうになった。何か裏があると踏んだが、いくら話を聞いてもホコリが出てこない。
なら、カズトの気分が変わらない内に仕入れた次第だ。カズトには悪いがこれで一儲けさせて貰うにゃ。にゃっははははは。
「それで商品はこれだけでなかろぉ」
「これはこれで高い買い物だけど、ライちゃんがこれだけとは考えられないわよ」
早く出せっと眼力で訴えて来る。
しょうがなく次の商品を紹介する。
「次はこれですにゃ」
バンっと取り出したのは酒が入っていそうな一升瓶。ラベルには日本や中国の独特な文字である漢字で書いてあるため、この三人には読めない。因みに純米大吟醸と書いてある。
「これ酒か?それにしても透明過ぎじゃないかのぉ」
「水のように透き通ってるのよ!」
「正真正銘、これは酒です。しかも勇者の世界にある酒だとしたらどうします?」
「「!!」」
この世界に存在せぬ物がある事より異世界の酒が呑めるでないかの方が勝り、ウズウズとライファンに詰め寄る。
酒好きの二人にとって早く呑みたくて我慢が出来ないで『早く呑ませろ』の無言の威圧でライファンを睨み付け催促する。
「にゃっははははは、そんな焦らなくても逃げないにゃ。それに専用の盃もあるにゃ」
真っ赤に装飾された盃を二人の目の前にゴトンと置く。酒の種類によって酒器を変えるのも酒好きにとって当たり前、酒器によって味が変化するのだから。
「さて、飲むとするかのぉ」
「えぇ、異世界の酒…………どんな味がするのか楽しみだわ」
「我も飲みますにゃ」
ドブドブとそれぞれの盃に〝純米大吟醸〟を注ぐ。その透明な液体はまるで水のようで水精霊が住んでるかのようだ。
だけど、酒の独特のアルコール臭と澄んだ水で作った証である透き通った味が飲んだ時に舌と喉で踊るようだ。この世界のエールやただ酔うだけのアルコールとは一味二味以上違う。
「こんな酒があったのか!」
「これは旨すぎるのよ」
「これ程とは!何杯でも行けるにゃ」
「それじゃぁ、儂にも頂けますかな?」
ここには三人しかいなかったはずだ。なのに、四人目の声がした。




