SS5-3、猫又の行商~獣人の王にお届け物~
「ライファン殿、ようこそお出でくださいました」
「輪入道にゃ。出迎えご苦労にゃ」
和服が良く似合う老紳士な翁が出迎えてくれた。一見ただの年寄りのジジイに見えなくもないが、足取りは軽く隙がまるでない。背後を歩いてるライファンの一つ一つの動作にも細心の注意を向けてる。
ここでライファンが背後から襲おうものならタダでは済まない。まぁその前に襲うつもりの者がココへたどり着く事は無理な話だ。
「この奥へ閣下がお待ちで御座います」
この世界では、極一部の地域しか見られない珍しい襖という扉が横にスライドされ開かれる。およそ千年前に召還された勇者が襖を広めたそうだが、その話は本当かウソか確かめる余地がない。
「待っておったのじゃ。ライファン良く来たのぉ。ほれほれ、近う寄れ」
襖を開かれた部屋の中には座椅子で二人の女性が座ってる。その座ってる女性にライファンは手招きされてる。
そうこの女性こそが獣人国家アルカイナの王、不死鳥女王フォルス・フェニックスその人である。髪は炎の如く真っ赤な真紅で数本の簪で編み込まれてる。
和風らしく着物を着込み大胆にも胸元をはだけ谷間を強調されてる。相手が女性であっても、つい目がいってしまう。
手にはキセルを持ちプカプカと吹かし、キセルから発生する煙が部屋中に充満してる。匂いに慣れてないと咳き込むかもしれない。
「姐さん、ご無沙汰しておりますにゃ…………タマ姉もいたのかにゃ」
「フォルちゃん、ライちゃんが蔑ろにするのよ。シクシク」
不死鳥女王フォルスの側面に座るのは、八王の一人:狐人族の上位種である狐妖族の頂点、唯一九尾の妖狐へ至った九尾タマモである。
不死鳥女王フォルスと同じく着物を着込んでおり、髪は肩に届くか届かないかの短髪で狐耳がピコピコと動き端から見ると黙っていれば可愛い。
それにもう一つ特徴的なのが臀部から生える九本の尻尾だ。犬や猫とは違うふわふわモコモコとした質感で極上な絹織物でさえ勝負にならない肌触り、その極上な尻尾が容姿よりも存在感が際立っている。
「タマ姉は口を開かにゃいと人形みたく美人にゃのに残念にゃ。残念美人にゃ」
「くっかかかか、ライファンよ、良く言った!その通りじゃ。くっかかかか、タマモにこの称号を授けよう」
九尾タマモに称号:残念美人が追加されました。
「二人してヒドイのよ。そんな不名誉な称号なんていらないのよ」
タマモは自らのステータスを開き称号の欄にある残念美人をポイっと削除した。不死鳥女王フォルスとライファンの二人は「「あぁ~、勿体無い」」と本当に残念そうな表情で俯いている。
因みに称号はそれに準じた行動や結果を残さないと貰えない勲章みたいなものだが、それを勝手に作製し任意の相手に貼り付ける事は相当な力を持ってないと出来ない。その逆もしかり。
「まぁカラカウのはこの位にして本題に入るにゃ」
「くっかかかか、そうじゃのぉ。面白いがこれ位にしておくかのぉ」
「くぅ~、後で二人共覚えておきなさいよ」
一見和やかな光景に見えるが、獣人国家アルカイナの住人から見たら逃げ出したくなる光景だ。一ヶ所に八王の内二人が揃ってる事があり得ない事なのだ。
本来は国を挙げての会議か催し物でないと、まず二人以上は揃わないのが通常だ。何故なら、八王同士が争えば国が破滅するからだ。それが解っておるから滅多に八王同士が会う事はない。
まぁそれでも例外はあるもので、この二人の八王は実の姉と妹のように常につるんでいる。
「そういえば、ライちゃんオババ様から伝言よ。『こっちにも寄って来んさい。もし、来なかったら解ってるにゃね』って鬼気迫るように言ってましたわよ。マジ怖かったわぁ」
オババ様、私達がそう呼ぶのは一人しかいない。猫魈猫美である。恐らく、八王を含め獣人国家アルカイナ内で逆らえる者は存在しない。
つまり、ライファンは後に猫美━━━通称:オババ様のところへ訪れる事になってしまった。行かなければ、100%殺される。
「タマ姉、何て事聞かせるにゃ?!言わなければ、まだ逃げる口実が出来たのに」
タマモが教えなければ、知らずに済んだ。この二人にだけ、本来の仕事をするだけで立ち去るつもりであった。オババ様は自分の領地からはよっぽどの理由がないと出ない。だから、知りさえなければ、逃げ出せたのだ。
タマ姉ぇぇぇぇ、これは恨むにゃ。オババ様に誰も逆らえないけども、我を巻き込むにゃんてどうしてくれるにゃ!
「ライちゃんも知ってるでしょ。オババ様には逆らえないわよ」
「ふにゃぁ~、これは貸し一つとするにゃ。それでオババ様の事は無しにゃ」




