SS5-2、猫又の行商~獣人国家アルカイナに到着~
盗賊を撃退した後、何もトラブルはなくライファン一行は進んで行く。人間を含め一部の種族とは違い魔物は本能的にライファン達の強さを察知し、避けている。
もし遭遇するならドラゴンか狂暴化に陥った魔物位だ。ドラゴンはそうそう遭遇しないし、したら一般冒険者なら災厄の他ならない。
「暇にゃ、ドラゴンでも現れないものかにゃ」
「姐さん、不吉な事言わんでぇな」
「馬車なんか一瞬で吹き飛んでしまっせ」
本来なら馬車の一つや二つ、ドラゴンの鼻息一吹きで吹き飛ぶ。それくらいなら些細な……………運が悪いと思うしかない。最も恐ろしいのは、街や国が滅ぶ事だ。ワイヴァーン等の例外を除けば、ドラゴン一匹出現しただけで街や国が滅ぶ事に繋がる。
故にドラゴンという魔物は災厄と呼ばれ畏怖されてる。もし、出現したなら必ずSランク以上の任務に当たるだろう。
「冗談にゃ。でも、極上のドラゴン肉ならアイツの手に掛かれば、天国に昇る程の馳走になるに違いないにゃ」
そう思ってしまったのが切っ掛けか、きゅるるるぅぅぅぅと可愛い腹の虫が馬車の中に鳴り響く。
「「姐さん……………」」
「それ以上言うにゃ。今度、古都に寄った時カズトの店で奢ってやるにゃ」
「「姐さん、解っていらっしゃる」」
まだカズト達が魔王を倒すため冒険に出ていた時、たまに行商兼仲間として動向していた時期がある。そのため、三人共にカズトと顔見知りであり頼もしい仲間同士であった。
「あっ、姐さん見えましたよ。我が故郷、獣人国家アルカイナ」
獣人国家アルカイナは名前の通り様々な獣人族が住んでおり、獣人の数に比例し文化も多種多様である。
円形に囲むように外壁がグルッと囲まれ国境となっている。上から見ると八等分の扇状に均等に分割され、中心向かう程細く真ん中には闘技場が建てられている。
そして、扇毎に一区画としそれぞれライファン達と同じ獣人族の上位種である獣妖族の王が治めている。その八人の王達を俗に八王と呼び、八王の頂点が獣人国家アルカイナの王となる。
「姐さん、何処から入りましょ?」
「にゃ?いつも通り、フォルスの姉貴かタマ姉のどちらから入るにゃ」
八つに別けられてるって事は門も八つあり、一応何処からでも入れる。住民は税金を納めてる王の門から、それ以外は近い門か列が出来てない門から入るのが通例となっている。
ライファンが申した二人も八王の一角を担ってる。それに二人の王の門は隣り合っており、どちらかから入るにせよ都合が良い。どうせ、この二人と合うのだから。
「んにゃ、どちらも混んでないにゃ」
「姐さん、どちらへ入りましょ?」
「我の勘が告げてるにゃ。フォルスの姉貴へ向かうにゃ」
五郎丸は扉に赤く神々しい鳥の彫刻が彫られた門扉へ馬車を向かわせる。因みにライファンがタマ姉と呼ぶ王の門扉には、尾が九つあるキツネの彫刻が彫られてる。
「おや?ライファンじゃないか!」
「んにゃ、帰って来たにゃ。通って良いにゃ」
「どうぞどうぞ、フォルス・フェニックス様が首を長くしてお待ちで御座います」
普通なら荷物の確認や身分確認やらで一組十数分掛かる中、ライファンなら顔パスで入れる。
これも行商としてコツコツと下積みや人望を増やしいった結果に過ぎない。行商だけでなく、商人や職人でライファンの名を知らないとモグリか新人だ。
「我はフォルスの姉貴のところへ行くにゃけど、お前達はどうするにゃ?」
「滅相もねぇ、俺達には敷居が高過ぎまっせ」
「姐さんだけ行ってくだせ」
「にゃら、お前達は我の用事が済むまで自由時間にゃ」
ライファンがそう告げると解散した。ライファンは門扉に彫られてる鳥の王に会いに行くため、その王がいるとされる城へ向かった。
普通、国の主たる王といったら城へ住んでるものだが獣人国家アルカイナは様子が違う。
本来の王が一人でも八人も王がいると八城のお城が建てられてると思われがちだが、そうじゃない。一国の中にそんなに建てちゃ土地が足りなくなる。
よって、王達も一般の住民に紛れ普通の住宅に住んでいる。ただし、それには他に理由がある。
上記に記した通り土地が足りないのも確かだが、カモフラージュでもある。次の王を狙い暗殺者・刺客に狙われるのも屡々あるのだ。
正確な道順を知らない限りたどり着く事はまず不可能。そういう幻覚の魔法が掛けられている。
「ここだにゃ」
コンコンコンコン
と、独特なリズムで扉をノックする。そのノックが扉の鍵を解除するキーワードだったらしく自動的に開いた。
部屋の中は赤暗く不気味な様相で子供なら逃げ帰ってる事だろう。これも魔法の類いか、外見と内装の広さが一致しない。明らかに内装の方が広い。
カズトの店とここで数え切れない程経験したが入る度にビックリしてしまう。猫というのは狭い場所を好むからだろうか?どうにも慣れない。




