47食目、女からの手紙
「カズト宛てにこんな数の手紙が届きました」
レイラがドカッとテーブルに置いた木箱の中身には、何枚かの紙束が入っている。どうやら全て手紙のようで、全部俺宛てらしい。それも一枚や二枚ではなく、数十枚レベルだ。因みにこの世界には地球みたいな配達システムはない。
その代わりに冒険者ギルドなら冒険者が受付に手紙や荷物を預け他の地域にある冒険者ギルドへ配達を頼むサービスがある。
それに加え、もう一つ商人ギルドでも宅配を頼めるが冒険者以外の者と規約がある。もちろん、荷物の量と目的地の距離により金額が変動するのは地球でも当たり前だが、その時の気候やモンスターの出現具合によっても変動する。つまり、回らない寿司みたいに時価なのだ。
上記に記した通り、冒険者ギルドと商人ギルドは仲が悪いので注意が必要だ。カズトみたいに冒険者と商人二つをやってる例外も少数だがいるにはいる。
「手紙は良いです。お礼の手紙が届くのは素晴らしい事ですが………それが全部女性からなのはどういう事なのですか?ニコリ」
レイラに加えドロシーとミミの視線が痛い。リリーシアは笑ってるし、ルーシーは眠そうに舟をこいでいる。
「その中のいくつかを発表しましょうか?」
「私は聞きたいですね。どんな方と仲良くしてるのか知るのは妻の義務です」
「………ミミも聞きたいかな?」
なにその公開処刑!ドロシーは兎も角、ミミも加わるなんて信じられない。
多分だが、手紙の差出人はほぼお前らが知ってる人物じゃねぇかなと思う。だって、一緒にずっと旅をしてた最中での出会いだから会ってるはずなのだが。
「………ミミは俺の味方だよね」
「………ごめんなさい。ミミはカズトの味方じゃないの」
ガーンとショックを受けるカズト。五年以上一緒にいるが、ミミがカズトを見捨てるなんて今回が初めてだ。
何かは不明だが、レイラがその何かをエサにミミを味方につける事に成功したという事だろう。問題はその何かが不明なのが怖い。
「それじゃぁ、読むわね」
俺のプライバシーってないのかな?まぁレイラとドロシー相手じゃあるはずないか。
━━━━愛しの勇者カズト様へ━━━━
『カズト様と別れ何年になるだろうか?寂しさを忘れるため、僕は我を忘れ槌を振っている。
そうしないと、涙がいつの間にか頬を伝っていくんだ。カズト様のお陰様で周りの女である僕をバカにしていた男共に実力を知らしめる事が出来た。本当にありがとう。
そしてある日、風の噂でカズト様が店を開いたと聞いたんだ。その後、土竜の迷宮都市に来たとある行商人がカズト様の店に寄ったと言い詳しい話を聞いた。
今まで食べた事のないこの世とは思えない程美味と語り出した。噛む程に肉汁が溢れ出す肉の塊、生でも食べられる程新鮮な魚、水がこれでもかって溢れ出す食感が楽しい野菜、他にもたくさんあるが口では伝えられない料理の数々そういう風に話してくれた。
それを聞き、僕も是非カズト様の店へと行きたいと考えたが、まだカズト様と約束した最高の一振りが完成していない。その一振りを完成した暁に直接受け渡しに行くからそのつもりで。
絶対に待っておるのだぞ』
━━━━勇者カズト様専属土精族ルカールカ・グランより━━━━
ふむ、どうやらこの手紙は旅の途中、レイラの細剣の整備するために立ち寄った土竜の迷宮都市で出会った土妖精族の娘だ。
土妖精族は、鍛治を得意とする種族で固有スキルに鉱物を発見・発掘・加工を容易にするヤツがあったはずだ。まぁ固有スキルって言っても一人一人性能は個人差があるらしい。
それに土妖精族は男社会で女が鍛治をする道は殆ど残っていない。それに、女は家で家事と子育てだけの道具にしか見られてない。
そこでたまたま勇者カズト一行が立ち寄り、ルカールカだけじゃなく他の土妖精族の女達が鍛治を目指せるようシステムを作ったのである。
中には反発する男共がいたが、そこは実力を見せてやり納得してもらった。実は男共より女の方が鍛治の腕は良かったのだ。そのお陰で男社会から女社会へと移り変わったと風の噂で聞いた。
「ルカールカならお前ら会ってるじゃないか」
「えぇ、でもこの"専属"とか"剣"とかの事、私達知らないんだけど?」
それはあれかな、記憶は曖昧だけど確か━━━━
『うひっ、俺の専属鍛治師になりたいって!ゴクゴクぷはぁー』
『えぇ、そうよ。ゴクゴク………ダメかしら』
カズトとルカールカはバーみたいな雰囲気の居酒屋で二人だけで飲んでいる。土妖精族は、アニメや小説・漫画に多く書かれてるように酒に強い傾向があるようだ。背が低いせいで見た目が十代前半に見える。
もし、ここが日本なら確実にルカールカにはお酒を出して貰えないだろう。其ほど見た目と実年齢とのギャップが激しい。
そんなルカールカが若干酔ったような赤い顔で飲みながらこちらを見詰めている。見た目は十代だが、そんな仕草に男であるカズトはキュンとしてしまい了承してしまった。
その翌日、カズトは二日酔いになり二日程寝込む結果となった。ルカールカはケロッとしていたが、そこは種族の違いだと痛感するのである。
「どういう事か説明下さるかしら」
カクカクシカシカと今思い出した事全て話した。レイラとドロシーはため息を吐き、何か諦めたような表情でこちらを見てきたがカズトは気づかなかった。
「はぁ~、手紙一枚でお腹いっぱいになった気分だわ。仕事に影響出そうだし、今回はこれで解散という事で宜しいかしら。第二回カズトの手紙拝読会を開催するまで、お預けね」
えっ?今回って言ったか?しかも第二回もあるって!何回も言うけど、俺にプライバシーないのか!
どうにかして、手紙が入ってる箱を奪おとするが直ぐにレイラは自らのアイテムボックスに入れてしまう。
「私は構わない。ミミ第二回開催の時もお願いして宜しいか?」
「………オールOK、ドンと来いなのです」
「その前に………」
レイラは何か思い出したかのようにリリーシアを見詰める。